初めての依頼 邪な考えの人が2人います
あの後、僕とロナさんは魔法の常時展開に挑戦した。
その結果だが、僕はできなかったが、ロナさんはできた。
なので、ロナさんはそのままの服で冒険に出ることになった。僕はなんであの、いかがわしいメイド服に固執するのかなと思ったが、聞かないことにした。聞いても良いことが何一つ無いだろうと思ったからだ。
僕のほうは村の防具屋さんで、動きやすい服と護身用にと刃渡り10㎝程度のを買っただけだ。
それには理由がある。僕の体は貧弱だ。身長は160㎝と、男として小さい。凛姉ですら165㎝ある。もちろん今いる3人の中でも1番小さい。なので、それにしたがって筋肉の付きも少ないので、金属鎧は着られなかったからだ。
しかし、ただの動きやすい服を買ったのではない。一応この村では珍しい、魔力が付与された服だ。付与された魔力は、見た目の狩人ぽいのに合わせてか、少し足が速くなると言うものだった。値段は3万Gと、魔力が付与されているのを加味したら安いくらいの値段だった。ナイフは1000Gだった
ちなみに3人に身長を聞いてみると、粉雪さんは172㎝で、亜麻猫さんは168㎝とのことだった。そして、ロナさんは170㎝だった。その後ロナさんだけスリーサイズまで言い出したので、僕は慌てて防具屋さんに話を振って躱した。
防具に魔力が付与できれば、僕が酒を飲まなくても済むことになるかもしれない。そう思い、常時展開の練習の時に合わせてやってみたが、こっちもできなかった。
粉雪さんが言うには、まだ魔法に対しての理解がたりないからだとのことだった。これについては、追々できるようになると励ましてくれた。
そして今は、準備を終え、村の近くのゴブリンのと思われる、棲家の前に来ていた。
とりあえず、僕と亜麻猫さんは聖水のビンを1つ分空けた。
僕のは、前まで飲んでいた度数の高い酒ではなく、低い果実酒にしてもらった。
「とりあえず、今日は少しでもいいから稼がなくちゃ」
この世界では度数が高くなるにつれて、酒の値段が上がっていく。今回買った酒は、ある程度安くすんだ。ただ5本買って2500Gだった。それにロナさんから聞いたのだが、先に飲んでいた酒の代金は、宿にツケで買っていたものだったらしい。その1万G分の酒が冷蔵庫に残っている。それを半分ずつロナさんと払うことになっている。
日用品を買える余裕が、今のままではなくなってしまう。それどころか宿代のことを考えると、それどころではない。今日少しでも稼いで気を楽にしておきたい。
「そんなに焦らなくてもいいんじゃない?」
亜麻猫さんが、僕の独り言に反応してきた。
「ワイバーンの翼で二人合わせて10万Gですよ。本当に3年以内に1億も稼げるか不安です。あんなのが毎日湧いてくるわけではないんですよね」
今考えていたのは、目先のことだが、最終目標のことも不安になってきた。一応、亜麻猫さんに聞いてみよう。そう思い、質問した。
「村の中に引きこもってたら無理だろうけど。遺跡探索とか、運が良かったらワイバーンの群れに出会うかもしれないからその時に頑張ればいいんじゃない。それにきちんと討伐したら、ワイバーンなら500万Gくらいいくだろうし――」
「その話は、帰ってからしよう。今は依頼に集中しろ」
亜麻猫さんの説明を遮るように、粉雪さんが言う。たしかにその通りだ。今目の前には、駆除対象のゴブリンがいるはずだ。本来ならお気楽におしゃべりなどできるはずがないのだ。謝っておこう。
僕と亜麻猫さんは小声で謝った。粉雪さんは、分かればいいんだと言った表情をしていた。
気を取り直して、僕はあたりを見渡す。
今僕たちがいるのは、村近くの薬草栽培をしている畑だ。あたり一面に薬草が生えている。一部はげている部分があるがおそらく、村の人が採取して帰ったのだろう。たぶんゴブリンも、隣に野菜畑があるのにわざわざ薬草の方を狙ったりはしないだろう。そもそも、ゴブリンは野菜を食べるのだろうか。
もともとゴブリンは妖精の分類(今も?)だったと聞いたことがある。それなら野菜も食べるような気がする。ただ、ロナさんは人間を捕食対象にすると言っていた。少なくとも肉食ではあるのだろう。幸い、牛などの放牧は村を挟んだ反対方向でしている。そちらへの被害はよっぽどのことがない限りないと思う。
目の前の地面には、人が一人入れそうな大きな穴が空いている。その穴は、真下に空いているのではなく、斜めに、急とは言わないが緩やかとも言えない角度で、先が見えないくらいに空いていた。
「このタイプか面倒だな」
粉雪さんが苦々しい顔をする。何が面倒なのだろうか。この穴に向かって、魔法で水を送り込んで溺れさせればよいのではないかと僕は思った。だが、それは浅はかな考えだった。亜麻猫さんが、粉雪さんと相談しだした。
「とりあえず、他に入り口がないか探すのと、村で行方不明者がいないかの確認ですね。もし旅の人が捕えられていたとしても、それはもう食べられたと思うことにしましょう」
「そうだな。ここが畑の近くじゃなかったら、出入り口と不明者の確認だけして、水を流し込むんのだが……」
ああそうか。そういうのも気にしなくちゃいけなかった。
確かにゴブリンの脅威が去っても、畑の作物に影響があると村が困る。
それなら、燻すのは……。奥まで煙が行くまでに、土に全部吸われそうだ……。そうだ。音ならどうだろう。僕は一応提案してみようと思ったが、先にロナさんが、違う発言をしていた。
「ゴブリンは夜行性なので、夜まで待ちますか」
ロナさんの提案に僕は、不謹慎ながら憂鬱になりそうだった。
今日の夜は、彼女に頼んで凛姉の様子を見せてもらおうと思っていた。だけど、依頼の為ならしょうがないかと、半分あきらめかけた。けれど、亜麻猫さんが違う提案をしてきた。
「効果があるかはわからないけど、爆竹でも投げてみるわ。炸裂音と光で飛び出してくるかもしれないし。こけおどしだから、畑を崩すほどの威力は無いわ」
亜麻猫さんは、腰につけたカバンから爆竹を出して、僕たちに見せてきた。ちなみに、彼女は言っていた通りに、露出の多い着物の下に、スパッツみたいなのを穿き、腕は手甲をつけ、胸元はきちんと閉じていた。
「よし。それではまず、2手に分かれて他に出入り口がないかの調査と不明者がいないかの聞き込みをしよう。そのあと、亜麻猫が爆竹を放り込んで、出てきたら討伐するなり、追い払うなりする。それで出てこなかったら夜まで待とう」
粉雪さんは、亜麻猫さんとロナさんの両方の意見を聞くようだ。それで2手に分かれるとなると、僕とロナさんになるだろうと思っていたが……。
「私とツヨシさん。粉雪さんと亜麻猫さんですね」
ロナさんが先制パンチを放った。黒いものは出ていないが、有無を言わせないといった雰囲気は纏っているようには感じた。ただ粉雪さんにはそれは通用しない。
「いや、ふたりは初心者だろ。だから亜麻猫とロナさん。私とツヨ――」
「粉雪様ストップ。ちょっとロナ、こっちに来なさい」
亜麻猫さんは粉雪さんの話を遮り、ロナさんを呼ぶ。それをロナさんは受け入れて、2人は僕らから少し離れたところで話し始めた。
2人の会話内容が、小さくだが何となく聞こえてきた。
「あんたは粉雪さまに私の良いところを吹き込む。私はあの子にあんたの良いところを吹き込む。いいわね」
「ええ、わかってます」
この会話は聞こえなかったことにしよう。僕はそう思った。
粉雪さんはこの会話が聞こえていないのかなと、ふと思い彼女の方を見た。
彼女は穴の観察をしていた。すごく仕事熱心な人なのだなと思った。
「おまたせしました粉雪様。それならロナと粉雪様。私とこの子で別れて調査しましょう」
「私もそれが良いと思います」
2人は明らかに邪な考えを持っていますと言った顔をしている。
「ああ、わかった。そうしよう」
粉雪さんは、それに気づいているのか、少し苦笑いをしながらそう言った。
「よーし、それじゃあ私たちは聞き込み調査をしますね。ほら行くわよ」
「え、ちょっと、えっ」
僕は亜麻猫さんに腕を引っ掴まれ、村の方へ強制連行されて行った。




