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依頼を受けよう 準備編② ~それぞれの魔法知識~ 

「そろそろ依頼板の方へ行きましょうか」

 

 僕は朝食を食べ終えた。

 

 何か分からない白身の魚は塩焼きだった。あとは白御飯とサラダだったが、やっぱり、あっさりした味噌汁も欲しくなった。料金を追加したら他のメニューに変えてくれたりするのだろうか。夕食を見てから聞いてみよう。


「その前に、あんたたち装備はどうするの?」

 

 片づけをしようとしていた僕たちに、亜麻猫さんが聞いてくる。


「私はこれでいいのですが、ツヨシさんは……」


 ロナさんは僕を見た後、粉雪さんと亜麻猫さんにそう言った。いやそれはおかしい。恰好から見ても、僕の方が体を護る面積が大きい。


 ロナさんはメイド服だ。それもミニスカートで、胸をかなり露出させるタイプの邪道な型式のやつだ。AVでは、このタイプのメイド服があふれ返っているイメージだ。ただ、よく見ないでも材質は、AVのものより数段も上だ。


 それとは対照的に、僕はスーツ姿だ。外回りで歩き回るために作られたタイプの為、ある程度は動きやすい。いやそれでも、冒険に行くのに適したとは冗談でも言えない。

 ただロナさんと比べられて、僕の方がダメと言われるのは心外だ。


 僕は即座に否定しようとしたが……。


「いや、それはおかしいわ」「駄目だ」

「えっ!!」


 思わず、変な声が出た。いやいや、あなた達2人は、余計にロナさんの事は言えないだろう。


 亜麻猫さんは、ロナさんと同じくらいの露出度だ。だからまだ言いたいことを言えるかもしれない。ただ、粉雪さんにいたっては、上半身はほとんど裸だ。なぜ力強く「駄目だ」などと言えるのだろうか。


 そんなことを思っていたら、亜麻猫さんが説明してくれた。


「そんなに驚かなくてもいいじゃない。さすがに“私は”任務の時は、この服の下に肌を護るように、厚めの肌着を着るわよ」


 良かった。亜麻猫さんは、そこら辺の常識はわきまえているようだ。


「それなら、粉雪さんはどうなんですか?」


 不服なのか、ロナさんは少し顔を膨らませながら粉雪さんに話を振る。


 僕は、「ああ、一応名前にさん付けで呼ぶくらいの間柄には収まっている」と安心した。


 ただその問いは無いだろうと思った。さっきの亜麻猫さんの話からして、粉雪さんも肌着を……。


 いやちょっと待て。確か、亜麻猫さんは“私は”と言っていたような……。


「私はこれで構わない」


 粉雪さんのその言葉に、僕は思わず、亜麻猫さんの方を向いてしまった。


「いや、えーっと。あの、そうよ。私はきちんと上を羽織ったほうが良いとは言ってるんだけどね――」

「何だと。似合ってると言ってくれたではないか」


 亜麻猫さんの弁明に、即座に粉雪さんが言葉をかぶせてきた。


「それは、粉雪様が呑兵衛の侍に憧れてるっていうのを利用しようと……。いやなんでもないです」


 何だろう彼女が忍者なのに性経験がないと言う理由がわかったような気がした。

 彼女の性格上、粉雪さんに操を立てているというのもあるだろう。ただ、忍者として失言が多すぎる。今もそうだ。自分の正直な、邪な気持ちをほとんど言い切ってから、口を閉じた。


 体を使った……。いや普通の諜報任務においても、向いていない。それなら、体術に特化させて暗殺専門とかにした方が良いのだろう。


 それは置いておいて、今は粉雪さんの服装についてだ。先輩冒険者に言うのもなんだが、あきらかに露出が多すぎる。僕は一応疑問に思ったので、口を出そうとしたら、亜麻猫さんに先を越された。


「粉雪様はこのままでいいのよ。はい、この話は終わり。以上。解散」


 彼女は無理やりこの話を終わらせようとする。いや、解散までしてどうするんだ。


 僕は自分でも分かるくらいにジトッとした目を亜麻猫さんに送る。ロナさんも僕に近い感じの目線を送っていた。


 このままでは、やっぱり“あの女”と同族として見なければならない。

 


 あれはそう、僕が高校3年生の夏で、凛姉とあの女……。溝田とか言う女は、大学2年生の時だ。

 溝田が、僕たちの家に来た。なんでもコミケで、一緒にコスプレをしようと凛姉を誘いに来たのだ。


 あの時は珍しく、僕を懐柔しようとしていたのか、先に僕に話しかけてきた。


「ツヨシくーん。お願いがあるんだけど」

「帰れ」


 正直あの時は、まだ大学受験をするか、就職活動をするか迷っていた。なので、ストレスが溜まっており無駄な体力を使いたくなかったので、いつも以上に、あいつに対して当たりが強かった。普段なら、こんな言い方すれば、恨み言を言って凛姉の所へ行くが、今日は違った。

 

「ちょっとは話を聞く耳を持とうよー。君にとっても良い話だから」


 あの女の良い話など期待できなかったが、いつもと様子が違うので聞いてみることにした。

「なに?」


 あからさまに僕は不機嫌な態度であいつに接した。

 だがあいつは、それを気にせず、両手に持っていた紙袋をゴソゴソしだした。


「これ、今度のコミケで一緒に着てくれるように頼んでくれない」


 あいつは、紙袋から人気アニメのヒロインの服を取り出した。僕は内心キレそうになっていた。


「こんな服を着せる気か……」


 それはかなり露出度の高い服だった。下など穿いていないと言ってもよいほどのものだ。

 これをコミケのカメラ小僧に撮られ……。それどころか凛姉の美貌だ。アダルトサイトに載せられるに決まっている。ついでに、あいつもある程度は整った顔立ちをしていて、確か身長が170㎝近くあるモデルスタイルだ。絶対載せられる。


 僕は、本気で目の前の女をぶっ殺してやろうかと思った。


「そんな目しなくても良いじゃな――」

「黙れ!!」

 

 あいつは悪びれもせず、金色に染めた、少しウェブのかかった腰くらいまである髪を触りながらそう言おうしていたが、僕は腹が立っていたのでその言葉にかぶせるように言った。だがあいつは、またしても悪びれずに言葉を続けた。


「たしかに、他の男たちにこんな服見せるのは、私も嫌なんだよねー。だから、気分だけでもと思って、凛ちゃんの部屋でコミケごっごしよう」


 そう言ってあいつは、僕の手を掴んで凛姉の部屋へ向かった。


 その後は、僕もおいしい目に会えた。あいつが何着もコスプレ服を持って来ていたから、2時間くらいコミケごっこをした。その時に、スマホで何枚か凛姉のコスプレ姿を撮ることができた。この日ばかりは溝田“さん”に感謝した。



 そういえば、そのスマホは車に轢かれた時の衝撃で壊れてしまったままだ。電波などもちろん入るはずもなく後回しにしていたが、凛姉のコスプレ姿の写真があることを思いだしたので、今日の夜、余裕があれば魔法を使って直そう。


 そんな昔話がふと頭に浮かんでいた僕だが、ひとつ気付きたくないことに気が付いてしまった。


 この話では、僕もあいつと同類のようではないか。

 なんとなく自分の中で気恥ずかしくなり、目の前の亜麻猫さんの顔を見ることができなくなってしまった。しかし、亜麻猫さんはそれを違う意味でとらえたようだ。


「さすがにその反応は私でも傷つくわ。分かったからちゃんと説明するわ。あんた、魔法の常時展開はできる?」

 

 亜麻猫さんが僕に聞いてくる。常時展開とは何だろう。


「こういう事だ。頼むぞ亜麻猫」


「はぁー。分かりました」


 粉雪さんは机の上に手を置く。それを見て亜麻猫さんは、露骨に嫌な顔をしながらクナイを手に持つ。


「行きます」


 亜麻猫さんは目をつぶって、粉雪さんの手にクナイを振り下ろした。その瞬間、クナイの先からヒビが入り、半分くらいの所まではじけ飛んで壊れた。


「どうだ。これならこの格好でも問題ないだろう」


 僕はなにが起こったのかすぐには理解できなかった。ただ、ロナさんは理解できたようだ。


「なにか神格の直系ですか?」


 彼女は少し驚いた様子をしていたが、冷静にそう粉雪さんに聞いていた。


「これは驚いた。まぁ、そんなところだ。私は常時この力に護られているから、擦り傷程度なら問題ない」


 あまり話したくないことだったのか、粉雪さんは暗い顔をしながらそう言う。この話は深く聞かないでおこう。通りで亜麻猫さんも言い淀むはずだ。


「話戻すわよ。それでどうなの?」

 

 亜麻猫さんが場の雰囲気を変えるためか食い気味に聞いてきた。


「わからないです。魔法使ったのも昨日が……」


 まずい。昨日魔法を初めて使ったというのは、この世界では無理がある。


「昨日?」


 粉雪さんと亜麻猫さんが怪訝な顔をしている。


「昨日、初めてお酒……。聖水を飲んだんです。つい最近まで精霊さんがついてくれていたんですけど、急にいなくなっちゃって。それでどうなのかわからないんです」


 その場しのぎの言い訳だが、どうだろうか……。


「精霊が20歳くらいでいなくなるのは珍しいな。普通は16歳か死ぬまでだが……」


 粉雪さんが不思議そうな顔をしている。

 それを見てロナさんが助け舟を出してくれた。


「その精霊が他に好きな男ができたと言って急に離れたのです」

 

 助け舟を出してくれるのはありがたいが、何とも格好の悪いものになってしまった。亜麻猫さんなど、さっきの意趣返しか、笑いそうになりながら僕を煽ってきた。


「ハハハ、あんた精霊にフラれ……たの……。かわいそうね。あんた、この子慰めてあげなさいよ」


 亜麻猫さんが僕を笑う。何か変な間があった後、ロナさんに話を振った。笑ってはいけない雰囲気だと思ったのだろうか。


「ええ、私がケアします」


 そう言ってロナさんは、僕を引き寄せる。そして、僕の頭を撫でてきた。


 僕は、何故か懐かしい気分になったが、借りてきた猫のようになりながら、それを黙って受けるのだった。

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