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依頼を受けよう 準備編① ~それぞれの性知識~ 

「食べながらでいいから聞いてちょうだい」


 亜麻猫さんは、お茶をすすりながらそう言う。


 僕の目の前に置かれた朝ご飯は、何の魚かはわからないが、白身の魚の切り身と白御飯とキャベツみたいなのの千切りにドレッシングをつけたものだった。


 別に冷めてしまったら困るものはない。というよりこのラインナップでなぜ味噌汁がないのだろう。


 そもそも宿自体は洋風なのに、食事は日本食なのかと疑問に思った。もしかしたら魚はバターで味付けしているのかと思ったが、よく見たところ違うようだ。


 冒険者と言えば体が資本の職業だろうに、朝からこの質素さは宿としてどうなんだと思った。けれど、この話は本題ではないので何も言わないことにした。


 それよりも、今は亜麻猫さんたちの話を真剣に聞いておこう。

 

 僕は「あとで食べます」とだけ亜麻猫さんに言った。それを受けて、亜麻猫さんはロナさんの方を見る。

 彼女はすでに魚に箸を付けていた為、亜麻猫さんは話を切り出した。


「私たちは生活費を稼ぐのもあるけど、名前を売らなくちゃならないの。だからある程度危険な仕事を受けてもらうことにはなると思うわ」


 亜麻猫さんは珍しく、申し訳なさそうにそう言ってきた。


 なんでも、地方で活躍しているという声が、主都にまで聞こえていくと引き抜きのお誘いがあるらしい。彼女たちは、表向きは剣術修行として故郷を出て来ているみたいだ。

 村とかでいるより、主都の方が剣術を教えてくれる先生に会える可能性が高いので、当面の目標をそう設定しているとのことだった。


 それに、この話は僕たちにとって重要なものだった。


 亜麻猫さんが言うには、もともと主都に住んでいる人は、主都の冒険者の宿に登録が出来るが、郊外の村出身者は登録出来ないらしい。登録する際は、先ほどの引き抜きの話が必要だそうだ。


 僕は、なんでそんなまどろっこしい事をしているのだろうと思った。けれど、高校受験の総合選抜方式みたいなものと勝手に解釈した。


「私たちも、お金を稼ぐ必要があるので頑張ります」


 ロナさんがそう返事をする。そして僕に目配せをしてきた。


「はい、それで3年で1億稼ぎたいんですが……。やっぱり危険な依頼受けなくちゃダメですよね」


 僕はダメもとでそう聞いてみた。途中、2人の顔が少し苦々しいものになったのを感じ、内心やっぱり1億は無謀なのかなと思った。ただそうではないようだ。


「1億って……。あんたたちならその気になったら、3年と言わず2年もかからないんじゃない? 聖水の耐性にもよるけれど……」


 亜麻猫さんの言葉に、粉雪さんも強くうなずく。彼女たちの見立てでも、十分稼げる算段がつくようだ。僕は少し安心したのと同時に、腹をくくらなければならないと思った。


 僕がそんな決意を胸に抱いていたら、今まで喋っていなかった粉雪さんが口を出してきた。


「お金の話が出てきたから先に取り分の話をしよう。この宿の慣例通り、基本は均等に分けるのでいいな? 聖水などの消耗品は、パーティ予算としてある程度プールしておいて、そこから買っていくことにしよう」


 ここまで長く言葉を粉雪さんが発したのは、僕に言い寄ってきたときだけだと思う。

 まだ会って間もないので、本来の彼女は割と喋る方なのかもしれない。ただ、今は、お茶を飲んでいた時の、のほほんとした彼女と違い、目つきは凛としていた。


 僕は思わず、亜麻猫さんの方へ目線をやっていた。


「ああ。粉雪様は故郷にいた時、税の徴収がきちんと行われているかの調査をしていたの。役人が自分の懐に入れていないかとか、収められない人には、こちらから家に出向いて、理由を聞いて廻って殿様に報告とかしていたの。だからお金関係には割と口出ししてくるわよ」


 僕の目線に気が付いた彼女は、誇らしげに丁寧にそう説明してくれた。僕はそう言うことかと納得した。


「それで、本当に分割でいいんですか? 僕、1発大きな魔法を使ったら戦闘不能になると思うんですけど……」


 それは粉雪さんとの模擬戦闘で実感したことだ。昨日僕は、粉雪さんを止めた後気分が悪くなったが、それを無視して、吐瀉物を転移させたあと気を失った。

 気を失うなど、元いた世界ではなかったことだ。だから酒のせいではないだろう。

 

 風呂場では何度か魔法を使ったが気分は悪くならなかった。

 おそらくだが、日常生活で使うような魔法はあまり魔力の消費がないのかもしれない。実際風呂場では、僕はロナさんに言われた通り、酒を1舐めしかしていない。


 それなのにお湯を出すたびに体から何か外に流れ出るような感覚……。その感覚は、粉雪さんを止めた時に感じた、フワッとしたものをすごく弱くしたようなものだった。


 こんなことなら昨日の夜、ロナさんときちんと話をしておけばよかった。しかし、後悔してももう遅い。あとで機会を伺い、それとなく誰かに質問してみよう。

 今は、取り分の話だ。

 

「それなら気にする必要はない。停止魔法なんて使えるのはこの村にはいない。いや主都を探しても、片手で数えられるくらいだろう。それくらい貴重な魔法の使い手なんだ君は」


 粉雪さんのその言葉に、亜麻猫さんもうなずく。


 魔法の使い手という言葉を聞くと、何か難しい術式を使うイメージがあるが、僕は酒を媒介にしてただ念じているだけだ。使い手と言われるのは何か気恥ずかしいものがある。形だけでも何か唱えてるフリをした方が良いだろうか。他の人はどうしているのか聞いてみることにした。


「僕の場合、自分でもどういった原理で発動できているのかわからないんです。他の人ってどんなふうにして発動しているんですかね」


 僕の言葉に、二人は顔を見合わせていた。そしてお互い顔を横に振っていた。

 どうやら知らないようだ。それなら、テキトウにしていても周りから不審に思われないだろう。

 そんなことを思っていたら、女将が僕たちのテーブルに戻ってきた。


「はいよ。カードできたよ」


 女将は、僕たちの前にそれぞれのカードを置いていく。その手は僕の前で止まった。


「あら、口に合わなかったのかい?」


 女将は不安げにそう聞いてきた。僕だけ、食事に手を付けていない状態だ。ちなみにロナさんはすでに食べ終えている。僕は慌てて取り繕った。


「いや、真剣な話をしていたので後でいただこうと思っていたんです」


 これは、一応本心からの言葉だった。ただ量に関しては、少し気になってはいたが、何も言わなかった。


「それなら良かったよ。それと今、ちらっと聞こえたけど。もし、他の人の上級魔法が見たいんなら金を稼いで主都に見学にでも行くか、村にある図書館にでも行ってみな。あとさっき言ったこと頼んだよ」


 女将はそう言い残し、この場から去って行った。それぞれ、机に置かれたカードを確認し終えたあと、自分の懐にしまっていた。僕もカードの確認を簡単にする。

 パーティ欄に粉雪さんと亜麻猫さんが追加されたこと以外何も変わっていなかった。とりあえず僕もしまっておこう。それよりも気になることがある。


「さっき頼んだこととは?」


 女将が去り際にそう言っていた。いつのまに……。僕たちが来る前に何か言われていたのだろうか。この問いに対しては、粉雪さんが答えてくれた。


「村の近くに、ゴブリンか何かの棲家ができたらしい。それを駆除してくれと頼まれてんだ」

「え、ゴブリンですか」


 そんな低級のモンスターなどと僕は思ってしまった。けれどもしかしたら、この世界では強いのかもしれない。


「ああ、そうだ。このままでは村の女性に被害が出る」


 粉雪さんは深刻そうに言う。顔は真面目そのものだ。やっぱり、この世界でもゴブリンはそういうR-18の同人誌でするようなことをするのか。自分でも分かるくらい、僕の顔は引きつっていた。

 ロナさんは意味が分かっていないのか不思議そうな顔をしている。後は、亜麻猫さんだが、呆れた顔をしていた。


「いや、私はちゃんとした性知識があるからね。経験はないけど」


 亜麻猫さんは、僕たち2人に弁明してきた。どういうことだろう。それはロナさんの疑問を皮切りに解消されることになった。


「何で女性だけなんですか? この世界だと身体能力に男女で差はないはずですけれど?」


 僕は思わず声を出しそうになったが、寸でのところで押し留まった。ただ、亜麻猫さんたち二人は、この世界と言う言葉には反応しなかった。


「それはゴブリンが女性を襲って、孕ませるからだ」


 僕は思わず、粉雪さんから目線を反らした。何となく女性の口からそう言う言葉を聞くのは、真面目な話をしているのだが、気恥ずかしくなった。ただ、反らした目線の先には亜麻猫さんがいた。


 亜麻猫さんはまたしても呆れた表情でこちらに説明してきた。


「いや、粉雪様はその……、性についてはかなり箱入りの教育を受けてきたのよ。それで、子供のつくり方も知らないのよ。そんな人に、たまたま押収した、発禁本……。まぁ、外国からの輸入本で、ゴブリンが女性を襲っている様子が描かれているようなのを見せた奴がいたの。だからこんなことに……」


 こんなとき僕はどんな顔をすればよいのだろう。笑うのは違うような気がする。

 どういう反応を取るのが正解か、僕が考えていたら、ロナさんが代わりに答えてくれた。


「あなたの言葉なら信用するのでは? 早めに間違いは訂正しておいた方が良いと思いますよ」


 ロナさんは冷静にそう言う。この話は彼女に任せておこう。


「そうなんだけど、そっち関係の意見は聞き入れてもらえないのよ。私が先にそう言う知識を知ったってのもあるけれど、粉雪様のお父様と一緒になって、粉雪様の性知識の勉強の邪魔をしてたって言うのが原因なの……」


 お父さんに関しては、なんとなく気持ちは分かる。娘さんを意地でも嫁に出したくないとかそう言う気持ちなのだろう。ただ、亜麻猫さんの言い方だと、人間間でのも知らない様子だ。いくらなんでもそれはまずいと思った。

 

 しかし、亜麻猫さんに関しては違う。これは僕の偏見がふんだんに含まれるが、“男は男同士、女は女同士で恋愛するのが普通”とか平気で言っていそうだ。


「ちなみに、その発禁本を見せた人っていうのは?」


 ロナさんは、口を出してきそうになっていた粉雪さんを手で制した。

 粉雪さんは、意外にもそのまま口を噤んだ。亜麻猫さん以外にこう言った話をする人がいなかったのだろうか。他の人の意見を聞きたいようだ。


「私の後輩よ。その子も父親の教育方針でちゃんとしたのを知らなかったから、二人でそういった勉強会を開こうとしていたみたいなのよ。それを私が“たまたま、偶然”発見したから未遂で終わらせようとしたんだけど、本を取り上げようとした時に、もみくちゃになって落しちゃったのよ。そのときに偶然そういったページが開いちゃって……」


 亜麻猫さんは困った表情をしていた。それを見てロナさんは、粉雪さんの顔をきちんと見られるように姿勢を正していた。


「粉雪さん。ゴブリンは自分から人間を性の目的で襲ったりしません。ですけど、捕食対象としては襲ってきますので、護るのでしたら老若男女全員です」


 ロナさんは真面目な表情でそう言う。僕は失礼なことだが、初めて天使見習いのようなことをしているなと思った。


「むぅ。ツヨシもそうだと言うのか?」


 粉雪さんは少し不機嫌そうに言う。ここは恐らくだが本当の事を言っておこう。


「はい」


「そうか。それならゴブリンなど、ただのザコだ」


 亜麻猫さん以外の男女から同じ意見が聞けたからか納得したようだ。今日はここまでとしておこう。あとの人間間の話は、亜麻猫……。いやロナさんにお願いしよう。

 僕は小声で、ロナさんに頼もうとしたが、それを遮るように彼女が小声で言う。


「ちなみに、人間と天使間では、人間の子供ができます」


 僕は、先ほどの見直した感情を捨て去り、口を噤んだ。

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