悪夢を見ました。それとは別に、胃が痛くなりそうです。
嫌な夢を見た。姉が僕の事で思いつめている夢だ。
僕は慌ててベッドから体を起こす。寝間着など無く、ワイシャツとスラックスで寝ていたが、それらは冷や汗でビショビショになっていた。
僕はあたりを見渡した。やっぱり元いた世界の自分の部屋ではなく、異世界の自分の部屋だった。
とりあえず、簡単にで良いので体を拭きたい。そんなことを思っていたら台所から声が聞こえてきた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
ロナさんがこちらの部屋に入ってきた。ロナさんもあの、いかがわしいメイド服を着ていた。
一応僕が、ロナさんの分も服に魔法を掛けて綺麗にした。汚れやほつれなども全部綺麗に直っている。
「……。ええ、おかげさまで」
本当は悪夢を見たが黙っておこう。
僕は、適当な返事を返した。
ただ、あの悪夢は嫌な予感がする。虫の知らせというやつだろうか。ロナさんにまた姉の様子を見せてもらいたいが、昨日、前日までに知らせてくださいと言われた。
それにおそらく昨日の夜、彼女は神様と交信して力を使っている。そんな状態の彼女にそれを頼むことはできない。
けれど彼女の状態だけは聞いておこう。
「それで昨日、神様と交信はできたんですか?」
「いえ、神様ではなく、天界にいる天使見習いに聞きました。神様の説明の前に私が無意識にあなたの魂をこちらの世界に連れて来てしまったみたいなんです」
ロナさんは、少し気まずそうにそう言う。とりあえず僕は苦笑いをして、話を彼女の体力(?)的な話に持っていく。
「それで体力は回復しましたか」
「それならバッチリです。なんなら今日の夜、”お義姉さん”の様子を見ますか」
なにか、聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしたが、聞こえなかったことにしよう。それに彼女の方からありがたい申し出をしてくれたのだ。今のは聞き流しておこう。
僕は笑顔で「はい。お願いします」と言った。すると部屋の外から声が聞こえてきた。
「朝食できたよー」
女将の声が宿中に響き渡った。
「依頼を受ける申請をしなくてはいけないので、朝食は下で食べますか」
「そうですね」
昨日の件があるから極力外に出たくない。女将に一応相談したほうが良いだろうか。ただお腹は空いているので1階に食べに行こう。ロナさんもそのつもりだったようで昼食のサンドイッチしか作っていないとのことだった。
僕は気分が乗らないまま簡単に身支度を済ませ、ロナさんと一緒に朝食を食べに1階へ降りた。
◇◇◇
「昨日はすまなかった。あれは忘れてくれ」
階段を下りてすぐの机で、粉雪さんと亜麻猫さんが食事をしていた。
粉雪さんは僕と目が合うとすぐに立って謝ってきた。
「わかりました」
僕はそう簡単に返事を返す。
亜麻猫さんが説得してくれたのか、粉雪さんはシュンと残念そうにしていた。
なんとなく僕たちの間に気まずい空気が流れる。どうしたものかと僕が悩んでいたら女将さんが声をかけてきた。
「ちょっといいかい?」
「どうかしましたか?」
ロナさんが首をかしげる。粉雪さんが謝ったからか黒い雰囲気などは微塵も感じない。
彼女らはたぶんこの宿の先輩冒険者だ。それにめっぽう強い。仲良くしていて損はないだろう。この調子なら険悪な雰囲気には――。
「あんたたち4人でパーティを組んでくれないかい」
前言撤回だ。女将さんの言葉とともにロナさんから黒いものが感じられるようになった。
思わず僕は、亜麻猫さんの方を見る。僕と同じビビり仲間と勝手にシンパシーを感じているからだ。ただ、彼女は意外にもロナさんに声をかける。
「ちょ、ちょっとあんた。こっちに来なさい。あんたに利がある話だから」
今日も少しビビりながら、亜麻猫さんはロナさんを僕たちから違うところへ連れて行く。
それを見て粉雪さんは女将さんに「2人が戻るまで返事は待ってもらえるか」と伺いをたてていた。僕はそれをよそにロナさんと亜麻猫さんの様子を観察していた。
どうやら亜麻猫さんは、ロナさんにビビりながらも必死に説得をしているようだ。
「そっちの子の為にも、組んでくれるとありがたいんだけどね」
女将さんが小声でそうぼやいた。僕は2人に意識が向いていたが、その言葉に体が反応した。
「どういうことです?」
僕は女将さんに尋ねる。
「あんた、今の2人組のままだといつまでも声をかけ続けられるよ。この2人みたいに」
ああ、そう言うことか。女将さんもこちらの事を考えてくれての提案だったのか。ただ、ロナさんは許してくれるのだろうか。
2人の方を見ると、どうやら、話し合いは終わったようだ。
「では、私たち4人でパーティを組みましょう」
ロナさんは帰って来るなりそう言った。一体、亜麻猫さんはどんな説得をしたのだ。
「よし。それじゃあ決まりだね。4人ともカードを貸してくれるかい。パーティ登録しておくから。それと他の奴らには引き抜き禁止って通達しておくから安心しな」
女将は僕たちからカードを受け取るとカウンターの奥へ引っ込んで行った。
「あらためてよろしく頼む」
粉雪さんは笑顔で僕にそう言ってくれた。
僕は、粉雪さんと亜麻猫さんに返事をした。
「しょうがないわね。よろしくお願いするわ」「私もよろしくお願いします」
ロナさんと亜麻猫さんは何やらお互い同じような笑顔を浮かべ挨拶をかわす。
本当に亜麻猫さんは、どんな説得をしたのか不安でたまらない。
ただ、他の冒険者と組むのに比べ、依頼で命を落とすリスクはかなり減った。その点はとても嬉しい。ただ日常面では胃が痛くなることが多くなりそうだと不安になってきた。
「とりあえず朝食をとりましょうか。ツヨシさんの分ももらってきます」
「私も行くわ。食べ終わった皿とか返さなくちゃいけないから」
ロナさんと亜麻猫さんが2人で厨房の方へ向かって行った。
…………。
少し気まずい間が僕たち2人の間に流れる。それを壊したのは粉雪さんからだった。
「ツヨシと言ったな」
「ええ」
「昨日はすまなかった。少し気分が高ぶりすぎて1人空回りしていた」
「別に気にしていませんよ」
僕は少し嘘を言った。あの時は、ロナさんの黒い雰囲気に押され、何も感じなかった。
ただ後から思い返すと、顔が赤くなったのを自分でも感じられるほど顔が熱くなった。
「あの後帰ってから亜麻猫に叱られたよ。急すぎてはしたないって」
僕はあの行動もそうだが、着物をきちんと着るよう注意したほうが良いのではと亜麻猫さんに思った。
「僕なんかより良い人なんて、すぐに見つかりますよ」
これだけ綺麗な人だ。それに強い。彼女のお眼鏡に合う人なんてすぐに見つかりそうなものだが……。
「いや。君が良かったんだ。悪い奴じゃなさそうだし、かわいらしいし」
粉雪さんが小声でそう言う。これは聞こえなかったことにした方が良いかなと思っていた時だ。
「はい。持ってきましたよ」「粉雪様、お茶のおかわりももらってきました」
ロナさんと亜麻猫さんが帰って来た。そして有無も言わさずロナさんは僕を、亜麻猫さんは、粉雪さんを自身の横の席に座らせる。机を挟んで、僕の前には亜麻猫さんが、ロナさんの前には粉雪さんが座る形になった。
「それじゃあ、今後の予定を決めましょうか。あんたたち、お金は欲しいけれどあんまり危険な依頼受けたくないんでしょ」
どうやら亜麻猫さんが司会進行をするようだ。
僕は少し意外に思いながらも、今後のために真剣に話を聴くことにした。




