プロローグ
僕、酒井強(20)は、名前とは裏腹に酒に弱い。
今は、先輩から誘われた二次会を丁重に断り、一人足取りおぼつかないまま、旧道筋を通って家に帰っているところだ。
「くそ、この世から酒なんて無くなってしまえばいいんだ」
そんなことを一人ぼやく。今日は帰って、姉から借りた本を読む予定だったのに……。それも先輩の一言で潰えた。
「ツヨシ、おまえ野球部に入ってくれないか?」
先輩からそうお達しがあり、有無も言えずに会社の部活に入れられた。
最初、野球はキャッチボールぐらいしかしたことがなかったから断ろうとした。しかし先輩曰く、お前は背が160cmで、小さいから四球で塁に出られるからそれだけでも役に立つ。それに一回来て嫌だったら辞めればいいし、幽霊部員もたくさんいるからとのことだった。
別に体を動かすことは嫌いではない。社会人になってから学校の体育の授業のように激しい運動をすることがなくなっており、そういった機会を得られるのはうれしいことだ。それに部活自体は緩い雰囲気で1か月に2回程度仕事終わりに集まり、近所の小学校のグラウンドを借りてするだけだ。僕にとって誘ってもらえるのはありがたく思っていた。ただ、歓迎会はいらなかった。
僕は、200mlのコップ1杯のビールで吐いてしまいそうになるほど弱いのだ。ただ先輩から酒を注がれたら断ることができず、とりあえず一口分だけ頂いて、注いでもらってまたその一口分を飲むといったかたちを何回も繰り返した。3杯分は飲んだだろう。1回トイレで吐いてしまっていた。
「気持ち悪い」
いっそのこともう1回吐いてしまえば楽になるだろうか。幸い人通りのまったくといってよい程の裏路地……。
「あっ」
僕は前屈みになり、吐こうか一休みしようか考えていた。その時に、突如背中から鈍い痛みが襲って来た。
僕は、後ろから車が来ていることに気付かなかった。
車に跳ね飛ばされ、近くのブロック塀に頭が割れる程の勢いでぶつかり、僕は鈍い痛みと自身の足がタイヤの後輪に轢かれるのを見ながら、そのまま気を失ってしまった。