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手詰まりのようです


 心ゆくまで、ベルナルトの魔術の鍛錬を見学した翌日。

 コーデリアはレオンハルトに見守られ、聖剣を手に庭に立っていた。

 

 大切なのはどのように力を使うのか、しっかりと想像をすること。

 レオンハルトの助言に従い、コーデリアは意識を集中していく。

 聖剣から自在に炎を出すレオンハルトに、魔術で自在に雷と火を操るベルナルト。

 彼らの勇姿を思い出し、自らの想像へと重ねていく。

 

 集中し集中し、柄を両手で強く握り込んだ。


(――――今ッ‼)

 想像と現実を重ね合わせ、勢い良く剣を振り上げる。

 風を切る音と共に黄金の炎が、刃から放たれ飛んでいった。


「よし、成功だ‼ 上達したなコーデリア‼」

 

 レオンハルトが、自分のことのように喜んでいる。

 コーデリアは腕の力を抜くと、振り上げていた聖剣を下した。


「できました‼ レオンハルト殿下と、それにベルナルト様のおかげです……!」

 コーデリアは上機嫌で笑った。

 レオンハルトとの訓練の結果、コーデリアは素振りと共に炎を出したり、いくつか小技が使えるようにはなっていた。

 護身術として、そろそろ実用水準に届きそうな出来上がりだ。


「コーデリア、おめでとう。よく頑張ってくれたな。おかげで俺の獣耳も、だいぶ安定して引っ込められるようになってきたようだ」


 レオンハルトの言葉通り、金髪の上には、獣耳は見当たらなかった。

 コーデリアが聖剣の扱いに慣れていくにつれ、獣耳や仔獅子姿への変化の制御も、より正確に行えるようになっているようだ。


 やはりコーデリアと聖剣の関係が、レオンハルトの変調の原因の一つだった。

 相変わらず原理はわからなかったが、このまま上手くいけば、立太子の儀にも間に合いそうな勢いを感じている。


(ベルナルト様のような、圧倒的な技量や才能は私には無いけれど……)


 それでもレオンハルトの力になり役に立ちたいと、コーデリアは拳を握りしめたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「う~ん、手詰まりですね」


 ゲイルがため息を吐き出した。

 ザイードの件の調査結果をまとめた紙片を手に渋い表情をしている。

 コーデリアの聖剣の扱いが順調に上達している一方、調査は進展が見られていなかった。


「怪しいやつはいますが、なかなか尻尾を出しませんね」

「これ以上探るのは難しそうですか?」


 コーデリアが尋ねると、ゲイルが力なく頭を振った。


「時間さえかければ、なんとかなりそうな手ごたえはあります。が、何分、このままではいつ解決するか、見通しがつかないのが正直なところです」

「そうですか……」


 コーデリアはしばし考えこんだ。

 事件の解決が先になってしまうのはまずい。。

 手元に集まった情報を整理し、犯人を炙りだすための提案を、ゲイルに一つ話すことにした。


「――――確かに悪い話じゃありませんが……」


 ゲイルは思い悩むような、コーデリアを気遣うような表情をしている。


「いかがでしょうか? ベルナルト様にも一度、この話を考えてもらいたいのですが……」

「ベルナルト様に、ですか。……わかりました」


 ゲイルは悩みつつも、ベルナルトに話を通してくれた。


「――――勝算はあるように思えるな」


 提案を聞いたベルナルトが、紫の目を興味深そうに眇めていた。

 そんな彼へと、コーデリアがここぞとばかりに畳みかけるよう説得すると、最後には納得してくれたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おいおまえ、なんでこんなところにいるんだ?」


 コーデリアを目ざとく見つけ、フランソワが大股で近づいてきた。

 ベルナルトと相談してから数日後。

 王都西区画にある酒場。以前ベルナルト達とともに、調査に訪れていた場所の一つだ。


「釣りをしようと思いやってきました」

「釣り……?」


 フランソワが怪訝そうな顔をしている。


「っ、ちょっと待て、まさか、っ‼」


 フランソワが眼差しを険しくし、周囲を見まわした。


「くそっ‼ 油断したっ‼」


 フランソワとコーデリアを囲むように。

 何人もの男たちが、壁となって立ちふさがっている。

 服装はバラバラだが、全員がコーデリア達へと、暗いまなざしを向けているのは共通していた。


「……無駄な抵抗はよしてもらおう。こちらとしてもできたら、怪我はさせたくないからな」


 男たちがゆっくりと近寄ってくる。

 腰の長剣へと手をかけ、フランソワが舌打ちをした。


「っちっ‼ コーデリア‼ おまえは先に逃げろ‼ ここは僕が食い止め―――」

「フランソワ様、お待ちください」

「っ⁉」


 男たちには聞こえないよう、コーデリアは小声で囁いた。


「お願いです。目を閉じてください」

「目を、っ―――――⁉」


 瞬間、光が勢いよく迸った。

 発生源はコーデリアの袖口。服の中に隠していた、短剣サイズの聖剣からだった。


「がっ⁉ 何だこれ⁉」

「何も見えないぞ⁉」


 閃光をまともに見てしまった男たちが、目を押さえふらついている。


(聖剣から、熱の無い炎を一気に放出しただけだけど、目つぶしとしては強いわね)


 コーデリアが習得した、聖剣の小技の一つだ。

 視界を潰された男たちの包囲をすり抜け、素早く安全圏へと避難していく。


「くそっ‼ 獲物が逃げるぞ追って――――がっ⁉」

「何だちきしょ、ぐぅあっ⁉」


 男たちが次々と倒れていく中、物陰からベルナルトとゲイルが飛び出してくる。

 静かに身を潜め、コーデリアに万が一がないか見守っていたのだ。


「コーデリア様、お手柄です。あとは俺たちが処理しときますね」


 まともに目が見えない男たちを、ゲイル達が手早く沈めていく。

 その様子をフランソワが、おかっぱ頭を揺らし呆然と見つめていた。


「コーデリア、おまえ……。自分をエサにして、釣りをしたんだな?」

「はい。上手くいったようで良かったです」


 コーデリアが、ベルナルト達へと持ち掛けた計画だった。


(容疑者があと一歩、尻尾を出さないと言っていたもの)


 ならば美味しい餌をちらつかせ、おびき出そうと思ったのだ。

 容疑者たちも、コーデリアが色々と嗅ぎまわっているのは勘づいていたはずだ。

 そこでそれを逆手にとって、わざとコーデリア一人で無防備に、容疑者たちがたむろしている酒場にやってきたのだった。

 

 容疑者はエルトリアの軍人だったから、コーデリアがこの酒場を訪れる予定だと、エルトリア人に顔が効くゲイルに噂をばらまいてもらったのだ。


 おかげでこうして、見事引っかかってくれたわけだった。

 聖剣をドレスの中に隠したコーデリアは、無防備な令嬢にしか見えないからこその作戦だ。


(誤算があったとしたら、この場にフランソワ様がいたことね……)


 おかっぱ頭を揺らすフランソワに、コーデリアはじっとりとした視線を向けた。


「……私はてっきり途中まで、フランソワ様も容疑者の一味だと思っていました」

「はぁ⁉ どこをどう見れば、その結論にたどり着くんだ⁉」


 フランソワが食って掛かってきが、コーデリアにも言い分があった。


「最初からです。出合い頭から怪しかったですし、ヴェールを返してくれなかったじゃないですか」

「あれは僕が親切でやってやったことだぞ⁉」

「……今ならわかりますが、あの時のフランソワ様、怪しさ全開でしたから……」


 コーデリアは過去を振り返った。

 あの時、ヴェールを風で飛ばした真犯人は、今伸びている容疑者たちの誰かだ。


 ザイードと組んでいた容疑者たちは、ザイードの陰謀を砕いたコーデリアに逆恨みを持っている。

 魔術で嫌がらせをしかけ、あわよくばレオンハルトの傍から引き離し、危害を加えようとしていたのだ。


(そして、容疑者たちと同じエルトリア軍に属するフランソワ様は、容疑者たちの悪だくみに気づいてしまったのね)


 だからこそ、コーデリアのヴェールを捕まえ、助けようとしていたのだ。

 あの時素直に、風の魔術を使った真犯人をフランソワが教えてくれていたら話は早かったのだが……。

 

 容疑者たちは表向き、エルトリア軍に属している人間だ。

 同じエルトリア軍人であるフランソとしては、堂々と告発することも難しかったのかもしれない。


 正義感と、同郷の人間への思いの板挟み。

 そんなフランソワの煮え切らない態度と、口の悪さが合わさった結果、ヴェール飛ばしの犯人だと、コーデリアは誤解してしまったのだった。


(……その後の容疑者探しの時にも、フランソワ殿下と出くわしたから、フランソワ様も容疑者の一味かと思っていたけど……)


 真相は違ったようだ。


「……フランソワ様も元王太子・ザイードの協力者が誰か、独自に探っていたのですね」


 だからこそ共に容疑者を探し求める者どうし、怪しい場所で出会ったのだった。


「そんなの当たり前じゃないか。栄えあるエルトリア軍人として、同胞が悪行に手を染めているのを、黙ってただ見過ごすわけにはいかないからな」


 フランソワが胸を張っている。

 彼の志は立派だろうが、態度がわかりにくすぎるのが難点だ。

 コーデリアは彼の態度を解きほぐすべく、質問を重ねていった。


「フランソワ様はなぜ、あぁもベルナルト様に食って掛かっていたのですか? あれが無ければもう少し早く、誤解が解けていたかもしれませんわ」


 問いかけに、フランソワは眉を跳ね上げた。



本日もう1話更新します。

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