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目で追うのも難しいようです


 次にコーデリアたちが調査にやってきたのは、王都の西の一角だ。

 なんでも、エルトリア軍の容疑者の一人がよく通っていた、酒場があるようだった。

 酒場の社交関係から何か漁れないかと、駄目もとで調査することになった。


「あら、あのおかっぱ頭は……?」


 見覚えのある、金のおかっぱ頭の青年だ。

 歓迎式典の日、コーデリアのヴェールを帰そうとしなかった軍人・フランソワだった。


「うん? おまえらは……」


 フランソワもコーデリアたちに気づいたようだ。

 胸を反らしやってくると、コーデリアとベルナルトを睨みつける。


「おいベルナルト、おまえなんで、こんなところに来てるんだ?」

「そちらには関係ないことだ。そちらはそちらで、自由に目的を果たすといい」


 取り付く島もないといった様子で切り捨てるベルナルトに、フランソワが眉を吊り上げる。


「おまえはいつも、そうやって他人を見下すが、何様のつもりだ⁉ ちょっと英雄扱いされたからってうぬぼれるなよ⁉ すぐに僕が、追い抜かしてやるからな‼」

「そうか。頑張ってくれ」

「っ、このっ‼ 馬鹿にしやがってっ‼」


 一切動じない長身のベルナルトに食い掛る小柄なフランソワの姿は、きゃんきゃんと吠え掛かる小型犬のようだな、と。

 コーデリアが見ていると、フランソワが睨みつけてきた。


「おいおまえも‼ 『獅子の聖女』だかなんだか知らないが、痛い目見たくないなら、こいつと行動するのはやめておくことだな‼」

「……ご忠告、ありがとうございます。ですがこちらにも考えがありますので、心配していただかなくても大丈夫です」

「考え? どうせこいつの顔目当てだろ!? 顔に騙されてるんだろう⁉」

「いえ、そういうわけでは……」


 コーデリアが反論するも、フランソワは聞いていなかった。


「それとも身長か⁉ やっぱり身長なのか⁉ どいつもこいつも、無駄にでかくなりやがってっ‼」


 歯ぎしりをし罵詈雑言を吐き捨てながら、フランソワが去っていった。

 まるでベルナルトから、逃げるかのようだった。

 

 勝手につっかかって一人で去って行って、何がしたかったのだろうか?

 コーデリアは首を傾げつつ、ゲイルと顔を合わせたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ベルナルトらと調査を始めて数日。

 その日、ベルナルト側の準備が整ったということで、約束を果たすことになった。

 レオンハルトとの、模擬試合の実行だ。


「殿下どうぞ、お気をつけてくださいね」


 愛剣の手入れをするレオンハルトに、コーデリアは声をかけた。

 試合はコーデリアの屋敷の庭で、人払いをして行う予定だ。

 模擬試合とはいえ刃引きしていない剣を使うため、どうしても怪我が心配だった。


「本当に、本物の剣を使われるのですか?」

「怪我はさせないつもりだ。……それとも、俺が負けると心配しているのか?」

「……ここ数日、行動を共にしてわかりましたが、ベルナルト様は優秀なお方です。殿下が負けるとは思いませんが……」

「そうか。……妬けてしまうな」

「えっ?」


 レオンハルトがぷいと後ろを向いた。

 金の髪が跳ねる、幼子のような動作だった。


「……思っていたより俺は子供で、心が狭かったらしい」


 コーデリアに背中を向けたまま、レオンハルトは剣の手入れを再開させた。

 丹念に丹念に、気を紛らわせるように、刃を磨きこんでいる。


「ここのところ数日、君は俺ではなく、ベルナルトと行動していただろう? ……我ながら子供じみていると思うが……。君に関してだけは、どうも上手くいかないみたいだな」

「殿下……」

「安心してくれ。ヤケになったつもりも、勝負に汚い手を使うつもりもないさ。正々堂々正面から、絶対にベルナルト殿には、負けられないと思っただけだよ」


 レオンハルトは苦笑し、仕上がりを確認するよう剣を持ち上げた。

 鞘へ納め、模擬試合の開始地点へと歩いて行く。

 相対するベルナルトは既に準備万全と言った様子だった。


「試合形式は一対一。時間無制限。どちらかが降参するか、胴体及び頭部に有効打が入りそうなところで終了。それで大丈夫ですね?」


 審判を務めるゲイルが、模擬試合のルールを述べ上げた。

 レオンハルトは愛用の長剣を。

 ベルナルトは片刃の軍刀を手に向かい合っている。


  白く華麗な軍服のベルハルトと、王子にのみ許された白の詰襟を着たレオンハルトの二人は、これ以上なく絵になる組み合わせだった。


「……最後に念のため聞いておくが」


 軍刀の鞘に手を置き、ベルナルトが声をあげた。


「本当にこちらは、魔術を使って良いのだな?」

「あぁ、もちろんだ。魔術が使えないせいで負けた、などと。誤解されたくないからな」


 レオンハルトが挑発を投げかけた。

 相手の精神を乱す戦術の一環か、あるいはそれほどに、戦意が高まっているのかもしれない。

 ベルナルトは頷くと、薄く唇を開き笑みを浮かべた。


「そうか。そこまで言うのならばこちらも、全力でいかせてもらおう」

「望むところだ」


 両者、柄に手をそえ、臨戦態勢に入る。

 視線で切り結びけん制しあい、既に駆け引きが始まっていた。


「三、二、一――――はじめ!」


 ゲイルの号令と共に、二人とも動き出した。

 レオンハルトは駆け出し、ベルナルトは軍刀を構えつつ詠唱を始める。


『――――閃き貫け。雷の槍!』


 ベルナルトの右手から、雷が槍のごとく駆け抜ける。

 彼の十八番であり、二つ名の由来ともなった攻撃魔術だ。

 直前までレオンハルトのいた空間を、雷が閃光と共に貫いていった。


(早い‼ それに軍刀を振るいながら‼)


 コーデリアの目には、剣同士がぶつかり散った火花が見えるだけだ。


 ベルナルトは軍刀を操りながらも、詠唱を止めていなかった。

 二撃目三撃目と、休む間もなく雷がレオンハルトに襲い掛かっていく。


「っ‼」


 レオンハルトの髪を雷の槍が焦がす。

 あと半歩ずれていたら、直撃していたであろう位置だった。


「『雷の槍』の二つ名はここにあり、といったところか!」

「そちらこそ、でたらめな身体能力をしているな。獣人よりも速いぞ!」


 言葉を交わしつつも、二人は剣と魔術を止めなかった。

 レオンハルトが放った刺突をベルナルトが受け止め、返しの矢で雷を放つ。

 斬撃が走り雷が煌めき、目まぐるしく攻守が入れ替わっていく。


 既にコーデリアには、理解できない高度な試合になっていた。

 途中から目で追うのも難しくなり、何が何やらわからなくなっている。

 わかるのは両者ともにとんでもない達人であり、素人のコーデリアでは想像もつかない程の、高度な駆け引きが行われているということだ。


 金属音が響き雷がさく裂し、熾烈を極めた勝負だったが――――


「終わりだ」


 幕切れはあっけなく訪れた。

 ベルナルトの喉元へと、レオンハルトの持つ剣の切っ先が突き付けられたのだった。



お読みいただきありがとうございます。


おかげさまで3月2日に、書籍版の2巻が発売となります!

記念に発売日まで毎日更新していく予定です。

本日も夜にもう一話更新しますので、よろしくお願いいたします。

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