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状況を整理しましょう


 何があったのか、少し整理してみると。

 元々コーデリアの元には今日、エルトリア人の客人が訪れる予定だった。

 しかしレオンハルトの獣耳騒動で客人をもてなす余裕がなくなったため、


『たいへん申し訳ないが、今日の訪問はまた後日にして欲しい』


 と書いた手紙を持った使用人を送ったが、行き違いになってしまったらしい。


(そしてその客人は同国出身のベルナルト様と知り合いで、ベルナルト様は知り合いの護衛がてら、私の屋敷を訪れたということね)


 そこまでなら問題なかったはずだ。

 だが、客人が玄関に到着した時、ちょうどコーデリアの匂いに惹かれやってきた仔獅子と、鉢合わせてしまったらしかった。


 猫が苦手な客人は絶叫し馬車へとんぼ返り。

 この時の悲鳴が、コーデリアが書斎で聞いたもののようだ。


(そして殿下は、ベルナルト様が私の屋敷にいることに気づいた。私を守ろうと威嚇していたところへ、私がやってきて走り寄ってきた、ということね……)


 仔獅子姿のレオハルトがコーデリアに触れた瞬間に人間へと戻ったのは、獣耳の剣と同様に、変化が自由に行えなくなっている影響に違いない。


 どうしてこうなったのか、だいたい理解できたとはいえ、状況は良いとは言えなかった。

 ベルナルトにはばっちりと、仔獅子から人間へと変化する場面を見られてしまっている。 

 目の錯覚、勘違いと言い張ろうにも、今もレオンハルトの頭の上に生えた獣耳が、逃げ道を完全に潰してしまっていた。


 最も幸いと言うべきか、まだマシだったのは、決定的な場面を目撃したのが、ベルナルトとその副官の二人だけだということだ。

 どうにかベルナルトらと交渉し、一連の出来事について、黙っていてもらわなければならない。


 コーデリアは客人に挨拶をして帰ってもらうと、ベルナルトとその副官、そしてレオンハルトの三人を、応接室へと招き入れた。

 会話の口火はとりあえず、家主であるコーデリアが切ることになる。


「ベルナルト様、このたびはこちらの事情に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」

「謝る必要は無い。この興味深い事態について、説明してくれるだろうか?」

「そのつもりですが……」


 コーデリアはやりづらさを感じた。

 ベルナルトはくすりと笑うことも無く、姿勢良く椅子に腰かけている。


 感情が表情に出にくい性質なのか、内心が推し量りにくかった。

 社交用の笑顔を浮かべなれた貴族相手とも、また違ったわかりにくさだ。

 ベルナルトのアメジストの瞳の動きを見ながら、コーデリアは口を開いた。


「まず初めにお聞きしたいのですが、ベルナルト様は今のレオンハルト殿下をご覧になって、どう思われましたか?」


 獣人、ないしはそう見える相手に対して、見下す人間も珍しくなかった。

 特にベルナルトの故郷、エルトリア王国は自国第一主義の強い、排他的なお国柄だ。

 エルトリア王国の国民にはいない獣人全般に対して、良い印象を抱いていない可能性も高かった。


「レオンハルト殿下の、その獣のような耳についてか?」

「そうです。どのように思っていらっしゃいますか?」

「特に、何も」


 表情を変えずベルナルトが答えた。

 端的にすぎる言葉に、コーデリアも反応に困ってしまう。


「……言葉が足りなかったか? そうだな、あえて言えばレティが……妹が見たら喜びそう、くらいの感想だな」

「妹様が、ですか……」


 突然の登場人物に、コーデリアにはベルナルトの意図がくみ取れなかった。


「妹は猫や犬といった動物が好きだからな。今のレオンハルト殿下の耳を見たら、見事な毛並みだと浮かれ、さぞ喜ぶと思うぞ」

「ありがとうございます……?」


 褒められているようなので、とりあえずお礼を言っておく。


「……ベルナルト様ご自身は、他に思うところは無いのですか?」

「無いな。獣の耳が生えていようがいまいが、私のやることは変わらないからな」


 一本の刃のような、余計な装飾の無いばっさりとした返答だ。


「そうでしたか……」


 いまいち人柄が掴めないが、獣耳があるからと言って、無暗に敵視されることは無さそうだ。

 コーデリアが内心ほっとしていると、次いでレオンハルトが口を開いた。


「先ほどは、見苦しい姿を見せて悪かったな。……俺からも、まず一つ聞かせてもらいたい。ベルナルト殿はなぜ今日、この屋敷にやってきたんだ?」

「同郷の文官の知り合いに頼まれ、護衛代わりについてきただけだ。何か問題でもあったか?」


 王都の治安は概ねいいが、それでもかの文官にとってここは異国だ。

 万が一に備え、同国出身で英雄の誉れも高いベルナルトに、護衛を頼むのは不自然では無いはずだが、


「頼まれたから? それだけでは無いはずだ。ベルナルト殿はコーデリアの元を訪れる機会を狙っていて、渡りに船と護衛の話を引き受けたんじゃないのか?」


 レオンハルトは笑っているが、翡翠の瞳は笑っていなかった。


「……お見通しか」


 ベルナルトはそれ以上誤魔化すことなく、素直に頷いている。


「その通りだ。あの歓迎式典の日から私は、コーデリア殿とレオンハルト殿下ともう一度、お会いしたいと思っていたんだ」


 ベルナルトに名前を呼ばれ、コーデリアは緊張感を高めた。


(目的は何? またこの方も私たちを、陰謀にでも巻き込もうというのかしら?)


 警戒していると、レオンハルトが問いを重ねた。


「なぜ俺とコーデリアに近づこうとしたんだ?」


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