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要注意人物のようです

 コーデリアは空気をかえるべく、脱線した話を戻すことにする。


「先ほど、私が感じたのがベルナルト殿の殺気だったとして、なぜそんなことをしたんでしょうか?」

「おそらく、試したかったんだろうな」

「何をですか?」

「『聖獣』の真相を、さ」

「……あぁ、なるほど」


コーデリアは納得がいった。

 あの時ベルナルトとは、なぜコーデリアが『聖獣』に気に入られたのか知りたがっていた。

殺気を飛ばすことで、コーデリアに何か剣術や武術の心得があるか試そうとしていたのだ。


(それに私が危機感を感じることで、『聖獣』が助けに姿を現すかも、という思惑もあったのかしら?)


 ベルナルトの思考を推測し、コーデリアはげんなりとしてしまった。

『聖獣』について気になるのはわかるが、やり方が物騒すぎる相手だ。


「国王陛下もいるあの場で殺気を飛ばすなんて、一歩間違えば大惨事です。ベルナルト様、非常識すぎませんか?」

「非常識だが……。一応加減はしていたと思うぞ」

「あれでですか?」

「現に俺以外、ほとんどの人間が殺気に気づいていなかったからな。……あの場には多くの軍人がいたにもかかわらず、だ」

「確かにそれは……。いや、でもやっぱり、物騒には変わりないですよね?」


 手加減されていたとはいえ、物騒極まりない相手だ。

 先ほど感じた冷や汗と動悸が、コーデリアには忘れられなかった。


「あぁ、それは間違いない。次にもし、ベルナルト殿が君に近づこうとしたら、今度こそ斬ることにするよ」

「今度こそ斬る……」


 つまり先ほどレオンハルトは半ば以上本気で、ベルナルトを切ろうとしていたわけで。

こちらもなかなかに色々と、物騒な発言ではないのだろうか?


(殿下に本気で敵意を向けられるとか、ベルナルト様、要注意の相手ね……)


 コーデリアは内心で、ベルナルトへ警戒心を強めた。 

今後の彼への対応を、レオンハルトと一通り話し合った後。


「コーデリア、今日はこの後時間はあるかい?」

「何でしょうか?」

「父上と少し、話をしてもらえないか?」

「陛下とですか?」


 コーデリアは目をまたたかせた。

 今日の式典は、国防の任に付つく軍人の参加者も多いということで、手短に終わっている。

国王の出番も既に終わってはいるはずだった。


「さきほどのベルナルト殿との件で疲れているなら、後日に回してもらうが……」

「大丈夫です。お話があるなら、今日お聞きしたいです」


 頷くと、コーデリアは長椅子から立ち上がった。

国王からの話に、コーデリアにも心当たりがあった。

予想があたっていたら、それはコーデリアにとっても、望んでいた話のはずだ。

 気を引き締めると、国王の待つ執務室へ、足を向けたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 国王の待つ執務室につくと、コーデリアは一人で入室するよう求められた。

 レオンハルトは少し不安そうだったが、大丈夫だと言い残し扉をくぐっていく。


「コーデリア、よくきてくれたな。そこへ腰かけるといい」

「はい。失礼いたします」


 ライオルベルン国王・バルムントの勧めに従い、コーデリアは長椅子へ腰を下ろした。

 体面に座るバルムントは、御年四十九歳となる壮年の男性だ。


 レオンハルトよりやや色素の濃い金色の髪を、ゆったりと後ろに撫でつけている。

 髪には白いものが混じり始めているが、まだまだ枯れた印象には遠い人物だ。

 レオンハルトの父親だけあり顔立ちは整っていて、往年の美しさを残している。


「今日は、ベルナルトの歓迎式典に出席してもらい大儀だったな。直接言葉を交わして、彼の印象はどうだった?」

「芯の通った、とても優秀な武人だと感じました」

 

 答えつつもコーデリアは、慎重にバルムントの表情をうかがった。

 金茶の瞳にはどこかいたずらっ子のような、こちらを試すような光がちらついている。


「陛下、失礼な質問かもしれませんが、一つお聞きしたいことがございます」

「なんだ? 遠慮はいらん。言ってみるといい」

「……では、失礼いたします。私は先ほどあの場で、ベルナルト様から殺気を向けられましたが……あれについては、陛下の指示したことではないでしょうか?」


 さきほどレオンハルトは『ほとんどの人間が殺気に気づいていなかった』と言っていたのだ。

 『ほとんど』ということは裏を返せば、ゼロでは無いということだった。


(それに、もし本当にあの場でベルナルト様が突発的に殺気を出したのだとしたら、レオンハルト殿下だってもっと怒っていたはずよ)


 あの場には、国王でありレオンハルトの父である、バルムントも玉座に座っていたのだ。

 国王の御前でなんの根回しも無く殺気を飛ばすなど、さすがに愚かに過ぎる話だ。


「陛下は手紙か何かでベルナルト様に、『歓迎式典でコーデリアに殺気を飛ばしてみろ』と仰ったのではないでしょうか?」

「はは、殺気を飛ばしてみろ、か。さすがにわしも、そこまでは言っておらんよ。『多少の非礼には目をつぶるから、コーデリアを揺さぶって見ろ』と、そう頼んだだけだ」

「……やはり、私を試したかったのですね」


 カカと笑うバルムントに、コーデリアは軽く疲労を覚えた。


 おそらくは、抜き打ち試験のようなものだ。

 出題者はベルナルトで、解答者はコーデリア。採点はバルムントといったところだ。


 頼まれたからと言って殺気を飛ばすベルナルトは物騒だが、バルムントもバルムントで、とても食えない性格をしている。

 コーデリアが内心ため息をついていると、バルムントが笑い声を大きくした。


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