表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/88

――――私は殿下のまたたびです



 ――――――――レオンハルトに抱えられ、王宮内にある彼の一室へと下ろされた後。

 コーデリアは一つ、聞きそびれていた事柄を思い出した。


「そういえば殿下、気になっていたことがあるのですが」

「なんだい?」

「殿下と舞踏会で出会った日、ワインの跳ねた私の手袋を、殿下は持ち帰られましたよね? あの手袋、今どこにありますか? あの程度の汚れなら十分再利用できますし、よかったら返してもらえませんか?」


 そもそも、あの手袋をレオンハルトが回収したのは、コーデリアと再会するための口実としてだ。

 手袋がその役割を果たした以上、返してもらっても問題ないはずなのだが―――――――


「殿下? なぜ目を反らすんですか?」

「なんのことかな?」

「怪しさがあからさますぎます。捨ててしまわれたんですか?」

「まさか!! 君の手袋だぞ? そんなことするわけないじゃないか」

「なら、返してもらえませんか? それともまさか………」


 コーデリアはじっとりとした視線を向けた。


「獅子の姿の時、私に体をすり寄せていたように、手袋に頬ずりでもしてたんじゃないですよね?」

「誤解だ!! 後者はさすがに人としてまずいだろう!?」

「どっちもどっちのような気がしますが………。ではなぜ、手袋を返していただけないんですか?」

「…………またたびだからだ」

「またたび?」


 問い返すと、観念したようにレオンハルトが語りだした。


「俺は人と獅子、二つの姿を取れるが、ずっと人の姿のままでいると息が詰まるようで、衝動的に獅子の姿に変化してしまうんだ」

「それを避けるため、定期的に人目の無い場所で、獅子の姿になる必要があったと?」

「だいたいそんなところだ。…………そして君も知っている通り獅子の姿になると、理性の抑えが弱くなるんだ。自室で子獅子の姿になったはずが抜け出して、人の姿に戻ったら城下町にいた、なんてことが何度もあった。だからこそ俺は、たとえ王宮の外で一人になっても最低限自衛できるよう、剣の腕を磨いたんだ」

「ご苦労なさったんですね………」


 レオンハルトは剣術の名手だと聞いていたが、まさかそんな裏事情があったとは。

 

「ヘイルートと出会ってからは、事情を知る彼に、子獅子になった俺の姿を見張ってもらっていたのだが、いつも彼に迷惑をかけ悪いと思っていた。………だから、君からもらった手袋を、またたびとして使わせてもらったんだ」

「………えぇっと、つまり、殿下の私室に私の手袋を置いておけば、獅子の姿になっても、外に出ていかなくなったということですか?」

「そういうことだ。誓って手袋に頬ずりなどしていないと、これを見てもらえばわかるはずだ」


 レオンハルトは書物机の引き出しから、小さな箱を取り出した。

 箱の中には、見覚えのある手袋が、綺麗に折りたたまれ入っている。


「この箱に鍵をかけておけば、獅子の姿になっても指一本触れられないから安心して欲しい。………手袋を、またたびとして持ち続けることを許して欲しいんだ」

「………またたびとして、ですか」


 手袋を返そうとしないまさかの理由に、コーデリアはくすりと笑った。


「だったらやはり、返してください。殿下にはもう、手袋は必要ないはずです」

「必要ない?」

「私がいます。殿下が獅子になった時、私がいればどこにもいかないでしょう?」


 だって、私は殿下のまたたびなんですから、と。

 そう笑い、レオンハルトを見上げると、


「………あぁ、約束する。もう手放せないんだ」

 

  琥珀の瞳がとろけ、やがて視界いっぱいに広がり、


「必ず幸せにすると誓うよ。だから―――――――」

 

 ―――――――――コーデリアの唇へと、レオンハルトの唇が重なったのだった。






 

これにて第一部終了です。

お付き合いいただきありがとうございました!


この後は番外編を挟み、第二部を投稿していきたいと思います。

コーデリアとレオンハルトたちの日々に、この先もお付き合いいただけたら嬉しいです。


あわせて、ここで少し宣伝を。

本作と同じ世界を舞台にした小説家になろう連載作品

『転生先で捨てられたので、もふもふ達とお料理します』が

双葉社Mノベルス様より、凪かすみ先生のイラストつきで書籍化されています。


舞台となるのは本作第一部終了後にヘイルートが向かった、人と獣人が共存するヴォルフヴァルト王国。

料理好きのヒロインが、狼に変化する王様のお飾りの王妃になるラブコメです。

時間軸としては本作の約二年後にあたり、ヘイルートも登場しています。


狼の先祖帰り、料理作りに獣人やもふもふや魔術など、

こちらと同じよう趣味を詰め込んで書いてますので、そちらも楽しんでいただけたら幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
更新が止まっているので、書かせていただきます。R15指定を理解した上で、個人的にはザマァは、他の作者様の作品においても、もう少しマイルドであると良いなとは思うのです。日本基準で見れば未成年なこともある…
[一言] 第1部とても楽しく読ませて頂きました コーデリアは柄じゃない、偽りの聖女と思っているみたいだけど、先祖返りの獅子王子が本能で?魂で?惹かれると言っているコーデリアは事実聖女なんだと思う! や…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ