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聖剣を手渡されてしまいました



「ありがとうございます。ここで止めてもらって大丈夫です」


 コーデリアの呼びかけに、馬車の振動が弱まった。

 レオンハルトの別邸から少し歩いたところで拾った辻馬車を、自宅へと走らせていたところだ。


 御者へと後払い分の代金を払い、地面へと降り立つ。

 予定外の時刻の帰宅のため、あまり目立たない様、自宅の少し前の道路で馬車を降りたのだが―――――


「コーデリア様っ!! きちゃ駄目です!!」


 真っ青な顔をした令嬢―――――パメラが、転げる様に駆け寄ってきたのだった。


「パメラ? そんな慌ててどうしたの?」

「話は後です!! とにかく早く、ここから離れて――――――っ」


 早口でまくしたてるパメラだったが、


「ごきげんよう」


 背後から聞こえた声に、背筋を硬直させ震えだしたのだった。

 

 くるりとまかれた金の髪に、勝気に吊り上がった瞳。

 何人もの取り巻きを連れたカトリシアだった。


「パメラ、何をしようとしたのかしら? 抜け駆けは許さなくてよ?」

「っ、わ、私は、こんなこと駄目だと思って、だからコーデリア様に知らせようとしてっ!!」

「お黙りなさい。今私は、あなたに話しかけていないわ」


 理不尽な言葉でパメラを黙らせたカトリシアが、コーデリアを見やった。


「随分待たせたわね、コーデリア。あの森からどう帰ってきたのか、お聞かせしてもらえるかしら?」

「カトリシア様に話すようなことは何も。一人で森を踏破して帰ってきたまでです」

「供の一人も連れず森歩き? 野蛮ねぇ」

「悪人より野蛮人の方が、まだ上等だと思います」


 ぴしゃりと言い捨てると、カトリシアの眉が歪んだ。


「あら、どういうこと? 私が悪人だとでも言うのかしら?」 

「さぁ? 何か心当たりでもあるのですか?」

「…………………不愉快ね」


 カトリシアが取り巻き達に視線をやると、彼女らがコーデリアの周りを囲むように散開した。


「コーデリア、あなたとは色々とお話しなきゃいけないことがあるみたいね?」

「奇遇ですね。私も同じ考えです」 

「あら良かった。それじゃぁ、あなたのみすぼらしいお家の小さな庭先で、お話させてもらえるかしら?」

「っ駄目ですコーデリア様っ!! 行っちゃ駄目です!!」


 震えながらも、パメラが必死にコーデリアを押しとどめた。


「ありがとうパメラ。私なら大丈夫よ」

「でもっ………!!」

「心配しないで。こんな大通りで大人数で固まっていたら迷惑でしょう?」

「コーデリア様………」

「巻き込まれないうちに、あなたは家に帰りなさい」


 やんわりとパメラの腕を外し、カトリシア達の元へと向かう。

 

 まるで囚人のように左右を取り巻き達に囲まれながら、自宅の門を潜る。

 先ほどカトリシアには『小さな庭先』と言われたが、それは王宮や公爵邸と比べてのこと。

 

 平民の家が丸ごと数件は入る庭園で、カトリシアがこちらを睨みつけている。

 視線には悪意が渦巻いており、もはや敵意を隠す気は全くないようだ。

 屋敷の周囲には鉄製の柵と植樹が張り巡らされており、外からの視線の目隠しになっているからだ。


「コーデリア、私が何を言いたいか、わかっているわよね?」

「何のことです? 先ほどボートに小細工をして、私を溺れさせようとしたことですか?」

「突然何を言うのかしら? 勝手に人を犯罪者にしないでもらえる?」

「認めないのですか?」

「仮に事故ではなく事件だったとして、どうして私を疑うのかしら? 一番怪しいのはあなたと一緒の船に乗っていた、パメラの方ではなくて?」


 やはりカトリシアは、パメラに全ての罪を擦り付けるようだ。

 相手を利用するだけ利用して、庇おうともしない態度に、コーデリアの視線が冷えていった。


「パメラ一人に全て押し付けるつもり? 彼女はいつだって、あなたの顔色をうかがい指示に従っていたのよ?」

「彼女の身分を考えれば、私に従うのは当然でしょう?」

「だからこそあなたは、彼女に私を溺れさせろと命令したんでしょう?」

「だとしたらどうしたの? あなたのことが目障りだと言った私の言葉を、鵜のみにしたパメラが勝手に実行しただけではなくて?」

「……………つまりカトリシア様は配下の令嬢一人御すことのできない、その程度の方ということですね」

「………なんですって…………?」


 カトリシアの瞳が、剣呑な光を孕み細められた。


「聞こえませんでしたか? カトリシア様は人心掌握すらできない情けない方だと、そう言ったんですよ」

「………………あなた、誰に口を聞いているか理解しているのかしら?」

「目の前にいる、愚かで物知らずなご令嬢に対してですが?」

「……………っ、減らず口をっ………!!」


 ぎり、と歯を食いしばり、カトリシアが激情に顔を歪めていた。


「なんなのよあなたはっ⁉ 森に置き去りにして泣かせようとしたのに帰ってきたあげく私にたてつくなんて、何がしたいのよっ⁉」

「別に私は、今回のことを公にするつもりはありません。ただこれ以上、こちらに手出しをしないよう、釘を刺しに来ただけです」

「この私に、釘を刺すっ⁉ ずいぶんと偉そうに何様よっ!!」


 たがが外れた様に、カトリシアが罵声をまき散らした。


「釘を刺すのはこちらよっ!! 公爵令嬢たる私を馬鹿にしたらどうなるか、その身で味あわせてあげるわ!!」


 ひと際かん高い声で言い放つと、カトリシアが瞳を閉じ、呪文を唱え始めた。

 漏れ出した魔力が、金の縦ロールを揺らし立ち上っていく。


 カトリシアがこうも高飛車でわがままな理由。

 その一つが、彼女がこの国の人間には珍しい、高位の魔力持ちであることだ。

 魔術師としてまともに修行したことはないらしいが、生まれ持った魔力にまかせ、いくつかの魔術が操れると聞いていた。


「口で勝てないから、実力行使と言うことかしら?」


 一心に呪文を唱えるカトリシアを、コーデリアは冷めた目で見つめた。

 どうやら魔術の対象は、こちらで間違いないようだった。

 その証拠に、取り巻き達が詠唱中のカトリシアを庇いつつ、コーデリアが逃げ出さないよう囲っている。

 私有地で人目がないのをいいことに、コーデリアに魔術をぶつけようということだ。


 詠唱を続けるカトリシアの顔が、嗜虐の喜びに歪むのが見えた。

 その指先に火球が生まれ、徐々に大きくなっていき――――――――――


「そこまでだ!! お前たち、一体何をするつもりだ⁉」


 凛とした誰何の声が、庭先に響き渡った。

 力ある声が場を支配し、カトリシアの顔に動揺と驚愕が走る。


「で、殿下っ……………!?」


 集中を失ったカトリシアの指先で、火球が煙となって消え失せる。


「なぜレオンハルト殿下がここにっ⁉ あなたたち、ちゃんと見張っていたのっ⁉」


 カトリシアの怒声を受け、取り巻き達がいっせいに顔を見合わせる。

 庭と道路を繋ぐ門の近くにも取り巻きはいたようだが、彼女もまた顔を青くし縮こまっていた。


 どういうことかとカトリシアが顔を左右に振り、庭をすみずみまで見直した。

 庭には何本かの木が植えられ、花が美しく整えられているが、人が隠れられる程の場所はない。


(でも子猫一匹くらいなら、じゅうぶん隠れられるのよね)


 狼狽し髪を振り乱すカトリシアを前に、コーデリアはレオンハルトからの『頼みごと』を思い出していた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「私の屋敷まで、帰り道を見守らせて欲しい?」


 レオンハルトの申し出に、コーデリアは初め拒否を示した。


「ご心配いただきありがたいのですが………。さすがに屋敷までついて来てもらうのは悪いです」

「だが、森から姿を消した君を追って、カトリシア達が君の屋敷で待ち構えているかもしれないだろう?」

「その可能性は否定できませんが、カトリシア様達くらい、私一人でも大丈夫です」

「だが、鬱陶しいことには変わりないはずだ」

「それはそうですが………」

「そして俺も、そろそろ彼女たちには我慢の限界だ」


 笑いながら怒るという器用なことをやってのけながら、レオンハルトは口を開いた。


「カトリシアのような人間は、君がいくら正論で叩きのめしても引き下がらないはずだ。無駄に悪知恵の回る彼女は、俺のいる場では尻尾を隠すはずだろう? だから隠れて君を見守りつつ、決定的な現場を押さえたいんだ」

「隠れてと言っても、殿下はとても目立つのでは?」

「心配ない。この姿を見てくれ」


 レオンハルトの体が光り、入れ違いに小さな影が現れた。


「みゃあ」

「…………子猫?」


 それにしては足が太く、耳先が丸い気がする。

 ころころとした獣はコーデリアの周囲をぐるりと回ると、正面で再びレオンハルトの姿になった。


「今の姿は……?」

「獅子の子の姿だ。俺が小さい頃は変化すると、いつもあの子猫のような姿だった。今でもその気になれば、獅子に変じた時の体の大きさを調節できるからな」

「殿下、わりあい何でもありなんですね………」


 人が獅子になり、炎を操り、更には子獅子へと変化するとは、さすがは聖獣の先祖返りということだろうか?


「外見が獅子であろうと、ただの獅子ではなく精霊だからな。こうして剣を出すこともできるぞ?」


 レオンハルトの右手に炎が渦巻き、一振りの剣となり弾け飛ぶ。

 柄頭に宝玉のはめ込まれた剣を手渡され、コーデリアは恐る恐る呟いた。


「殿下、もしかしてこの剣は建国伝説に登場している………」

「聖剣だな。城に置かれているのはレプリカ。こっちが正真正銘の本物だ」

「国宝中の国宝じゃないですかっ!!」


 いきなり何を手渡すのだと、コーデリアは思わず叫んだ。

 うっかり取り落とさない様、慎重な手つきで柄を握り込む。


「なぜ聖剣が、殿下の中から出てきたんです?」

「俺も詳しいことは知らないが、聖獣の先祖返りは代々、この聖剣を顕現させることができたようだ。どうも聖獣である初代国王がこの世を去った際、一緒に聖剣も姿を消し、血脈の中に宿っていたようだ」

「つまり、王城に安置されている聖剣は、聖剣の消失を隠すための偽物だと?」

「そういうことだろうな」


 頷くレオンハルトに、コーデリアは額を押さえた。

 またしても、知りたくなかった王家の秘密を知ってしまったようだった。


「話がそれたが、俺は子猫の姿で家々の屋根を伝い、君が屋敷に辿り着くまで見守らせてもらうつもりだ。何もなければ、それが一番なんだが………」

「もしカトリシア様達が待ち構えていたら、挑発してボロを出させればいいかしら?」


 コーデリアは艶やかに唇を歪ませた。


 ―――――――カトリシアには今まで、散々迷惑をかけられてきたのだ。

 

 これ以上邪魔をされないよう、反撃に出る時だった。





お読みいただきありがとうございます。

次話は明日投稿予定です。

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