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人魚姫 守人の恋  作者: はるあき
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「双頭のウマ、ですか!!」

「金色の鬣?」

「それが我らに祝福を?」

議会は、騒然となった。

魔物は、大きさで力が強く、擬態した物に近い形ほど、その姿が美しいほど、強さは増していく。

人の負の思いで生まれるため、美しい魔物ということは、その思いが強く深いということだ。

また、大きな魔物ほど、同じような思いを持った複数の人間から生まれることが多く、思いの強さ深さがそれぞれ違うためか、醜悪な姿をしている。反対に、小さな魔物ほど一人の思いから生まれ、形が整っているものが多い。

「どちらの首も美しく、まるで軍馬のような姿だった。」

ハイルドの言葉にレーライトも頷く。

「魔馬か?」

「魔帝の?」

魔馬は、魔帝と呼ばれた魔王の双頭の馬だった。

片方は口から炎を、もう片方は氷を、片方が嘶けば雷を、もう片方は突風を、蹄を踏めば大地が揺れると云われた伝説の魔馬。

一人の女性の悲しみと憎悪から生まれた魔物。その女性が、自らの命を絶っても、魔帝を乗せ、この世界を破壊し続けた。勇者に倒されるまで。

「そんな化け物・・・。」

「たおせるのか?」

「ばかな、勇者しか勝てないではないか。」

絶望的な声があがる。

「本当に美しいウマだった。やはりたった一人の思いだろうか?」

ハイルドは、身の毛もよだつ魔物を思い出しながらも、その美しさを称賛した。

「ハイルド?」

「ハイルドさま?」

レーライトとテナヤは、困惑を隠せず名を呼ぶ。

「あ、いや、大切な人に何かあって、あんなモノを生み出したのか?と。自分のためだけの欲なら、イヌまでだと聞いている。」

ハイルドは、凄いなと素直に感嘆の言葉を口にする。

「凄いですまされたら、祝福された方々は・・・。」

テナヤが、小声でハイルドに苦言した。

「すまん、すまん。で、レーライト、″守人″の罪は、何なんだ?俺は、命じられただけで、理由を教えてもらえなかった。」

小声でテナヤに謝り、ハイルドは、疑問に思っていたことを口にした。

「″守人″本人に問いたかったが、応えてはもらえなかった。」

ハイルドは、後悔していた。あの時、どれだけローヒカ伯たちが止めようが、″守人″の家に入るべきだった。たとえ、すでに″守人″が動けない状態だったとしても。

「ハイルド、お前は、″守人″が、生まれつき声が出せないことをやはり知らされていなかったのだな。」

レーライトは、ため息をついた。

ハイルドは、目を瞬いた。

「声が出せない?俺は、勇者と喋っているアリミアを見たことがあるぞ。」

「ハイルドさま、″守人″さまとお会いしたことがあるのですか?」

テナヤに話しかけられたため、ハイルドは、レーライトが一瞬顔を歪ませたことに気が付かなかった。

「たった一日だけ婚約していたんだ。勇者が、″守人″を知らなすぎると話が流れた。勉強してからだと。

会ったのが屋敷だったし、家族内の話しだったから、知らない者のほうが多いと思うが。」

テナヤの目が刺すように冷たくなる。

「で、勉強なさったのですよね?」

ハイルドは、わかった。

テナヤは、勉強しなかったのですか!と怒っている。

勉強していたら、今回のようなことは、起こらなかっただろう。

「す、すまん。体を動かすほうが楽だし、楽しくて・・・。」

ハイルドは、身を小さくして謝った。

「ローヒカ伯、何故、話が違うのかを後で教えていただこうか?」

レーライトの声が低い。何か気になることがあるのだろう。

「俺も一緒にいいか?何故、俺を″守人″に会わせなかったのか、その理由が知りたい。」

ローヒカ伯は、顔を真っ青にしている。

「話が大きくズレてしまったね。これからのことを話し合おうか。」

レーライトが、小さく息を吐き、ゆっくりと議場を見回した。

その場にいた者たちの喉がゴクリとなった。

取り敢えず決まったことは、祝福を受けた者と受けていない者を分けること。受けていない者たちに被害が出ないようにするためだ。

祝福を受けていない者たちは、なるべく早く沈黙の森から、一番離れた場所に移動させること。

魔物が生まれる″不浄の沼″は、沈黙の森にある。沈黙の森から、離れるほど魔物から襲われにくいかもしれない。

祝福を受けた者たちへのほうが、大変だった。矜恃だけは高い貴族が多い。その筆頭が、部屋に引きこもったままの国王だ。取り敢えず、祝福を受けた者たちを王宮に集めることになった。


「疲れたなー。」

レーライトの私室で、ハイルドは、グターとソファーに身を投げ出した。

身分が、日当たりが、部屋の広さが、間取りが、小さなことでも競い合う貴族たちにうんざりした。進む話も進まない。

レーライトが、淹れたお茶を飲みながら、ふうと息を吐く。

「そういえば、レーライトは、アリミアに会ったことがあるのか?」

「六年前にローヒカ邸でな。」

レーライトも優雅に茶器を持ち、お茶を飲んでいる。

六年前というと、王太子暗殺未遂があった年だ。

レーライトが、沈黙の森近くで襲われ、沈黙の森奥深くに置き去りにされた。沈黙の森の外れまでどうにか出てきたレーライトを見つけ介抱したのが、後の王太子妃となったローヒカ伯令嬢ミューミナだ。

レーライトは、その怪我のため、しばらくローヒカ邸に滞在していたと聞いたのを思い出す。

その年は、王太子暗殺未遂が起こったためか、魔物の出現が多かった。滅多に出ないシカのような大きな魔物の討伐で、ハイルドの父と先代″守人″が沈黙の森で死んだ。

ハイルドは、他国に行っていて、レーライトの暗殺未遂も父が死んだのも聞いたのは、全て後処理まで終わった後だった。

「その頃の私は、目は、見えているのだが、色が識別できなくて。最初、アリミアとミューミナの区別が全く付かなかった。

アリミアも父の先代″守人″が魔物討伐に駆り出され、安全のためにローヒカ邸の小屋に来ていたらしい。」

小屋という言葉にハイルドは、眉を寄せた。平民とはいえ従姉妹だ。部屋が小屋というのは。

「あの時も酷い格好だったな。」

初めて会った時も町の子供よりも質素な服装だった。後で、ローヒカ伯の親戚と聞いてびっくりしたのを覚えている。

「それより、勇者さまが何を話をしていたのか知りたい。

父上がああだから、ろくに話をさせてもらえなかった。」

レーライトは、苦笑した。

魔物の色、黒色の髪と瞳を持つ勇者は、この世界では、本来なら忌む者だった。ましてやワケの分からない異界から召喚され、強大な力を持ち、何百年も生きている。国王にとって、勇者は、化け物なのかもしれない。

勇者の力が強大なのは、魔王を倒すためであって、その命が長いのは、本来の寿命を全うせずに死んだ者たち、魔物や歴代の魔王に殺された者たちの命を引き継いでいるからだ。

「俺は、話をしてないよ。叱られただけだ。

勇者が、アリミアを膝にのせて、異界のお伽噺を聞かせていた。」

ハイルドにとって、勇者との思い出は、良いものではない。あまり話したくない。

「どんなお伽噺だった?」

勇者にされた話ではなく、お伽噺を聞かれたので、ハイルドは、ホッとした。

「うろ覚えだけど、いいか?」

レーライトは、頷いた。


人魚姫は、上半身は人間、下半身は魚の姿の魚の国のお姫さまです。

人魚姫は、嵐の夜、海で人間の王子さまを助け、恋をしました。

浜辺で王子さまを介抱していると、人間の娘がやってきたので、人魚姫は、隠れました。

娘は、王子さまを連れていきました。

人魚姫は、王子さまに会いたくて、海の魔女に頼みました。

人魚姫は、美しい声と引き換えに人間の足になりました。

人魚姫は、王子さまと会いにいき、楽しく暮らしました。

ある日、王子さまは、隣の国のお姫さまと結婚することになりました。

隣の国のお姫さまは、浜辺で王子さまを見つけた娘でした。

人魚姫は、魔女との約束を思い出しました。

王子さまと結婚出来なければ、人魚姫は、朝日を浴びると泡となって消えてしまいます。

王子さまとお姫さまの結婚式の日の夜、魚の民が人魚姫を呼びました。

王子さまを殺せば、人魚姫は、人魚に戻れると教えました。

人魚姫は、寝ている王子さまを殺せませんでした。

朝日を浴びて、人魚姫は、海の泡になりました。


「レーライト、何、呆けているんだよ!」

ハイルドが話終えた時、レーライトは目を見開いて、呆然としていた。

「あ、いや、ハイルドが最後まで物語を話せると思わなくて。」

ハイルドの視線を避けながら、レーライトが躊躇いながら漏らすとハイルドの後ろからも支援の声が漏れる。

「確かに。奇跡かも・・・。」

不貞腐れて、ハイルドはそっぽ向いた。

「こっちのご都合主義と違うから、覚えていただけだ。

こっちに同じような話があれば、人魚姫の声も戻って、王子さまと幸せになりました、だろ。」

レーライトもハイルドの後ろのテナヤも頷く。

「で、ハイルドさま、勇者さまに何をいわれたのですか?」

テナヤの声が低く冷たい。お伽噺を覚えていた理由が他にもあるだろうと。ハイルドの背中に突き刺さる視線も冷たい。

「隣国のお姫さまと人魚姫は、よく似ていたそうだ。だから、王子さまは、人魚姫を側に置いた。助けてくれた人に似ているから、と。アリミアが勇者に訊いたんだ。」

『王子さまは、何故、気が付かなかったの?』

「その時の俺は、悪い矜恃だけ高くてな、『身分相応の相手を選んだだけだ』と口を挟んだ。暗に、アリミアは、俺に相応しくないってな。」

「で、勇者さまに叱られた、と。」

テナヤの声がますます低くなる。

「テナヤ、当時のハイルドがそう思うほど、この国は、もう″守人″が、いや、身分や財産がない者を軽んじていたということだよ。」

テナヤに責められるハイルドを庇いながら、辛そうにレーライトが言った。

誤字報告ありがとうございました。

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