悪魔ですけど何か? ~僕は僕~ 2
以前、真夏のホラーで書いたものの続きになります。
内容に動物に対する虐待や不愉快な表現があります。
そういったものが、苦手な方はご注意ください。
悪魔ですけど何か? ~僕は僕~ 2
僕の朝は早い。
……というか、時間という概念を身に着けるまでが大変だった。僕の残したパソコンやメモ、テレビという機器からは情報をだいぶ得られた。
人の脳に文字通り直接聞くのもよいが、流しておくだけで無限にも近い帆情報が手に入るのはありがたくもあり、少々煩わしくもあったが。
結果、どうやら僕がこの世界必要とする通貨は基本的には、与えられている仕事をこなさないと入らないらしい。それもこの世界でいう、1ヵ月もの期間をだ。
「しかし……僕の残したものを見るに、随分と非生産性に溢れた作業をさせられているんだなぁ……」
なかなかに難儀なことだ。契約が欲しいというのであれば、視覚聴覚嗅覚を基とする五感にうったえ阻害をかけ、掌握すればよいものを……。
難儀な世界だな。
今までの自分のいた場所に比べれば不自由で仕方ない。猫の姿で竜を1体かみ殺して来いといわれるほうがまだ楽に感じる。
不自由で不自由で仕方ない。全く不自由だ……。
いやはや、本当に困ってしまう。
……だがそれがいい。
実に心地よい。
生きる喜びというものなのだろうか。
久しくこのような気持ちは湧くことすらなかったはずだが。
ははははは……実に良い。
あの真っ白い部屋に居た頃に比べれば、全てが刺激で溢れている。
どうも僕の喋り方にまだ慣れていないのか、時折、昔の口調が混ざるのがいけないな。これについては課題として、早急に身につけないとねw
程々にこの世界のルールに沿いつつ、肝心要な部分ではズルをさせていただくとするか。
あぁ、まさに謳歌すべき世界にいるな僕は。
あぁ……そうそう、いけないけない。
忘れてはいけないことがあったよ。
この体である僕から託された願いを叶えないといけないよね。
だが、世界の滅亡をしても意味がない。
それにそれでいいなら3秒で事が足りる。
そして、恐らくあの喧しい奴らにばれて3秒で逆戻りだ。
取り合えずこの間のような輩を一つずつ、ダンジョンをはい回るゴミ虫のように、
つぶしてやろうとは思っている。少しずつ少しずつそれが大事だ。
重ねて言う、僕の朝は早い。
昨日は戻ってきて、色々調べたので、とるべき睡眠というものをとっていない。
眠らなくなって良い体になって、もう幾久しいので、気にしていなかったのだが、
不自然というものに引っかかるようだ。
前の僕の生活パターンからあまり外れたことをするのはよくない。
それは契約違反になりかねない。
ばれる可能性がより高くなっていく。
なので僕は寝なければならない。
なのにだ、なぜ隣の獣は無駄に吠え、鳴いているのだろうか。
人に飼われ野生を失っているせいか、僕の気配に気づくこともできない。
正直うざったい……そう、これはうざったいだな。
隣に住んでいるらしい糞袋と、どうやら僕は過去に話をしたことがあるようだが、
小馬鹿にされただけらしい。
前の僕はずいぶんと優しかったようだ。
大家、どうやらこのウサギ小屋を法外な値段で貸している、糞袋らしいモノと、
契約を結んでおり、獣小屋にして住む許可を得ているということだ。
人の住むべき場所へ獣を置くのか?それとも糞袋こそが本当は獣に飼われているのか?まぁ契約で許可されているのであれば…。
ふむ……では致し方ない……とでもいうと思うか?
ないな、それは僕のした契約ではないからね。
まったくもって僕には関係ない。
その契約を守るのは、大家という糞袋と隣の糞袋がすればいい。
僕には守る義理もなにもないからね、組まれた予定を阻害? うん、邪魔するのならご退場……バイバイしていただくことにしよう。
時計を見ると良い時間だな。明日も早いからね。付き合ってもいい時間は多くはないと思うんだよ。さっさと片づけたいっていうところかな?
※
僕は狭いウサギ小屋のような自室と、隣室を隔てている薄い壁へと手を当てる。
『対象の確認:第三の目:解放』
額の第三の目が開く、糞袋が1、無知なる獣は3。
まずは獣、猫から退場……、バイバイしてもらうことにしようか、先ほどから耳に触る、か細い声を出していて、とても邪魔だ。
僕が昔、見ていたような野生に特化したものとは違い、如何にも愛玩動物といったものだな。あれでは狩りもまともにできないだろうね。
自由を代償に安定を望むか……実に哀れだ……。
だからと言って許されないのだけどね。
僕が害した気分の分を、さっさとお返しをすることにしよう。僕にとって今の一分一秒は、この世界の何よりも大事なものだから。僕のそれを邪魔することは、申し訳ないけど僕にとっては罪でしかない。それも大罪だ。
だからね……、罪は罰せられなければならないだろう?
なので、僕はまずは喧しい猫の声帯を壊すことにした。
『不可視の手』
不可視の手は、力ある言葉の対象となるモノに、直接触れることのできない状況になった時によく使う言葉だ。
この手に触れたモノへは直接言葉を流し込むことができる。実際に自分の目で見なくてもよく、直接触れなくてもよい。面倒ごとを避けるのにも大役立ちしてくれる。第三の目はあくまで阻害、邪魔する壁などの向こうを視るためだけの言葉だからね。この世界で言うところの透視というものなのかな?
先日の時のように、目の前に居るのであれば実際に視ることができるし、聞かせることできるのだが、今回は色々考えて接触しないことにした。
ゆえに、この言葉を使うわけだけどね。
正直この世界の官憲など恐れるに足りないのだが、面倒ごとを引き起こしても特はない。奴らもこの世界の少数点以下の割合の糞袋が消えたところで、僕を部屋へは戻さないだろうけどね。
だが、これは仕方ない。僕の決めているルールの一つだからね。多少の手間は今後の生活の維持ということで大目に見ることにしたわけだ。要は念には念を入れて……だね。
さて本題に戻ろうか、僕は不可視の手を隣室の壁という壁から生やす。今もしも隣室を視ることのできる者が見たら、一気に正気を失い、壊れることになるだろうな。僕にとってはどちらかというと随分と芸術的な空間に見えるのだけどね。
不可視の手で2つある、1つの猫の喉に触れる。
『変質』
猫の喉、内部の発声器官を変質させる。それにより猫の鳴き声がまず止まった。
鳴けなくなれば、音はならないよね?
あぁ……ほら、鳴らなかったよw
『不可視の手』『変質:声帯』
同様にもう1つの猫にも施す。鳴き声がまた止まった。
あぁ、良かった、静かになった……。
せめて猫2つが自力でこうしていてくれれば、手間もかからずに済んだんだけどね。遅かったねぇ……いやはや面倒だw全く草が生えるwww
猫の焦りが伝わってくる、糞袋のソレには遠く及ばないが、ここにきて自らの体に異変が起きたことを察したようだ。
ね、遅かったんだよ? わかるかな? わからないだろうなぁ……。
さて……本来なら四肢を一つずつ腐らせるなどをして、そうだなプリンを……流石に言いすぎだな、うまい棒を食べる、あぁ……そう駄菓子ね、そのくらいの代わりにはなるのだけれどね、そうもしていられない、夜は短いからね。
あと犬とそれを躾できない糞袋が控えているからね。
ちゃっちゃと進めるとしよう。
『停止:心臓』×2
猫2つの心臓、そうハートだ。それを止める。
悲鳴の一つも上がらずに静かに終わりを迎えた。
「安らかに眠れ……糞猫w」
心臓の停止はこの世界の生命にとっては『死』へとつながる。
はい、まずは、2丁あがりというところだ。
隣の糞袋は猫が静かになったことにより、少し怒声を飛ばすことを和らげたようだ。全く煩いうえに頭の弱い糞袋だなぁ。
次に僕は犬に注目した。
どうやらこの糞袋は同じ糞袋との付き合いは酷いものだが、犬とは円滑に行えていたみたいだね。
あぁ……良いことを思いついた。
とても大事な信頼関係なんだよね? そうかそうか、それは美しいねw
その信頼関係に変化が訪れたらどう思うんだろう。
愛は何かを救えるのだかな?
くくくwwwこれは楽しいなぁw
全部をさっさと済ませるつもりだったのだけど、どうにも興がのってきてしまった。いけない、いけないな……少しだけ夜更かしになってしまうじゃないか。責任者を呼んできてほしいものだw
『空間遮断』『不可視の手』『変質:認識』×2
隣室の空間をこちらの世界と切り離し、不可視の手で犬に触れる。
変質をおこない、今度は犬そのものの認識を変えた。
変えた認識は、糞袋に対しての認識と犬自体へのものだ。
犬に対してまず飢餓の認識を与えた。
次に、糞袋は餌であるという認識を与えた。
さて……結果はどうなるのだろうか……。
固い絆と信頼関係で結ばれているはずの、この二つの在り様はどうなるのだろうか。
結末はまさに予想通り。
ひねりも何もなく、実に簡単だった。犬はあまりの飢餓感から糞袋を餌と認識をして、喰らいついた。
糞袋は慌てて、いつものように強く叱る。
いつもならそれで止まるだろうが、今は違う。お前は餌だからな。
犬はそんな事はお構いなしに、糞袋を喰らおうとする、たまらなくなった糞袋はそこから逃げ出すことを選択した。
ははは、そうかそうか、愛する犬へ抵抗をすることは難しいのか。だが、そう容易くはない。
「やめろ! ハウス!! こらよせ! やめろ!! 畜生おい、隣の小僧!! 助けを呼んでくれ!!!」
糞袋の声が不可視の手で接続している、僕の耳に聞こえてくる。
アハハハ……いいね、いい! その焦り具合、アカデミー賞も夢じゃないよ?
助ける? 何を言っているんだろうなこの糞袋はw
あるわけないだろう?
昔の人は言いました、お隣さんとは仲良くしましょうってね? ほら頑張れ、あと少しでドアだ。そう、そこから出ればお前は自由だよ。
「永遠にね……」
糞袋は噛みついたままの犬を引きずりようやくドアにたどり着いた。
狭いはずの部屋がいつもより何倍も広く、出口は遠く感じた。
※
「くそ! なんなんだ!! とにかく外へ出て、そうだ警察を呼ぼう。こいつには悪いが警察が来れば救急車も来るから俺は助かる」
犬は俺の腕を咥えて離さない。腕からだいぶ出血も酷い。なんなんだ? 狂犬病か何かか? けちって予防注射をさせなかったことが災いをしたのだろうか。
しかしドアが遠い、この馬鹿犬が重いからだ! くそっ! くそっ! 隣の糞馬鹿はなんでこの状況に気づかない?
「このドアを開ければ……」
え? なんだこれは……どういうことだ? なんなんだ? 俺の目の前に広がっていたのは、見慣れた小汚い急な階段のある廊下ではなく、一歩踏み出したらどこまで落ちるかわからない真っ暗な空間、暗闇……何と言ったか……。
<奈落……>
そう、それだ奈落! ってなんだ? 今の声……。
いやどうでもいい、今はこの状況のほうが問題だ。
糞この糞犬が、放しやがれ!!
いてぇんだよ!! 血が出てんだよ! 咀嚼すんな! 人の腕の肉を食いちぎろうとするな!!! 骨が! 骨が見えてるじゃねぇか!!
あぁあ! 糞犬が!!!
「なんなんだ! なんなんだこれは! 夢か? 夢なのか? あぁそうだな、これは悪夢だ。悪夢ならきっとこの暗闇を抜ければきっと……」
俺はこの悪夢から、痛みすら感じる、この悪夢から覚めるために、真っ暗な奈落へと足を踏み出した。
<おめでとうw何度も何度も食われる永遠の自由へ……>
あざ笑うような声が聞こえてくる。絶望的な状況。
俺は底のない闇へと落ちていく。
何度も何度も食われは元に戻りそれは何万何百何億の繰り返しのはじまりだった。
「なんでこうなった……あぁぁああああぁぁぁああああ」
※
あはは、なかなか面白かった。実に愉快だった。
古今東西、絆などというあやふやなものは、いつもいとも容易く、綻び、壊れ、失うものなんだよ。
実に献身的じゃないか? 愛する犬の為に己の体をご提供♪
素晴らしいね? 素晴らしいよw
まぁ、永遠に落ち続ける世界の闇へと身を投じたのだから、永遠に落ち続けてくれればいい。落ちる間に犬によって何度も食われることとなるかもしれないけれどな。
犬は飢餓から解放され、満たされて、幸福なまま、また堕ちていくのだろうな。
果ても底もない奈落をね満たし続けてながら。
「あぁ……静かになった……。これで予定通り明日からは、しっかりと眠れそうだな」
あ、そうそう猫な、あれも奈落に落としておく。
そのあと、空間を戻して、今日の事を忘れることにしよう。面白かったが、決して美味いものではなかったからな。覚えておけば、なんとなくだが、あとで面倒なことになりかねない気がする。
『不可視の手』
猫を奈良へ落とす。
『空間接続』
空間を元に戻す。
『浄化』
糞袋から流れた血液などをすべて浄化する。
さて……仕上げをして眠るとしよう。
『記憶消去:指定:内容:今夜の出来事』 『誘眠』
良い夢が見られますように……。
「おやすみなさい……」
僕は天井のシミがにこやかに微笑んでいるのを確認しながら、明日の朝、仕事に出かけるまでの時間まで、眠りに落ちることにした。
※
後日、隣人が夜逃げをしたと懇意にしている不動産屋から聞いた。
何か気が付いたことはないかと聞かれたが、心当たりもないし、隣人との関係は極悪だったので、興味もなかったと答えた。
不動産屋は予想していたのだろう、僕のその言葉を聞くと、すぐに別の話題を振ってきた。
どうやらこの建物は年内には取り壊すことになったらしい。
へぇ……立ち退き料が出るので引っ越しに心配はないが、今度手続きが必要だということらしい。結構面倒くさい気もするが、得られるものは貰うべきだよな。
立ち退き……住む家が変わるということか…。
そうか、住む場所が変わろうと問題はないさ。
さてごみを捨てて、今日も砂を噛むようなつまらなくも楽しい、自由を謳歌しようかな。
だって、あくまで僕は僕……だからね。
ご覧になって頂き、誠にありがとうございました。
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作者頑張れ! 等ございましたら、ぜひ、
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