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空想遊戯  作者: 夢想一夜
3/4

空練遊隊

 高層ビルの壁面を疾る真紅のバイク。

 現実世界では、まず有り得ない光景だ。


 ドゥ゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛


 低い重低音を上げて疾走するバイクは、重力も相まって驚異的なスピードを叩き出していた。


 夜風を鋭く切り裂く感覚に、カイトは自分の口角が少し緩むのを感じた。


 ギュル゛ルルッんッ


 瞬く間に地上に着地したバイクは、進行方向を水平に変えて、シブヤの高層ビル群の間を風のように駆け抜けて行く。


 ――シブヤ道玄坂


 地上は、深夜だというのに、煌びやかなネオン灯が発する光で、昼間のような明るさだった。


 ガヤガヤ、ワハハ・・ガヤガヤガヤガヤ・・・


 都会の喧騒こそ聞こえど、奇妙な事に街に人影はない。

 時より聞こえる楽しそうな笑い声と、眩しいばかりの街明かりを横目に、カイト達は足早にシブヤのハチコウ前を目指す。


「ほんの微かにキョウキの臭いが残ってるね」


「あぁ。――この世で一番サイアクな悪臭(におい)だ。この悪臭を嗅ぐたびに嫌でも『あの夜』を思い出す」


 ――『空練遊隊(くうねるあそびたい)


 カイトをリーダーとして結成された、この隊には、元々『4人』のメンバーがいた。


 リーダーのカイト。

 カイトと電話口で話していた少女『兎ヶ野(とがの) 美景(みかげ)』。

 現在、そのミカゲと行動を共にしてる少年『汐凪(しおなぎ) 悠馬(はるま) 』。

 そして、カイトの1番の親友でもある『竜崎(りゅうざき) 真理(まこと)』という少年の4人だ。


『マコト』はカイトが中学2年生の時に、同じクラスに転校してきた。性格は温厚で人当たりも良く、成績優秀、遡行良好と絵に描いたような優等生だった。物静かで口数こそ少ないものの、マコトの周りには、いつも沢山のクラスメートが集っていた。


 一方、その頃のカイトはと言うと、学校をサボっては単車を転がして、渋谷に蔓延る『不健全な不良』相手に喧嘩三昧の日々。

 昔から想像力と腕っぷしだけは強かったカイトは、喧嘩では無敗の戦績を誇り、不良達の間では『紅い狂犬』と呼ばれ、恐れ戦かれていた。


 2人はまさに正反対だったが、お互い自分に無いものを持つ『非常識』なクラスメートに惹かれて、程なくして親友と呼べるほどの仲になった。


「今日もバイクかい?カイトって本当にバイクが好きだよね」


「マコトもはじめろよ。風を切り裂くあの感覚マジで最高だぞ。走り方は俺が教えてやるからよ」


「うん。考えとくよ。でも、ちゃんと学校にも来なきゃ駄目だよカイト」


「わーってるって。それよりこの前、湾岸のカミソリ峠を攻めてた時に、すげぇ事があってさぁ――」


 カイトにとってマコトは、こんなたわいも無い会話ができる数少ない友人の1人だった。

 普段は自身のことを多く語らないタイプのカイトも、なぜかマコトの前でだけは、不思議と饒舌になった。


 そんな親友のマコトだが、現在『意識不明の重体』で家の近くの大学病院に入院している。医師の話では原因が全く分からず、回復の目処も立っていないらしい。


 しかし、カイト達『空練遊隊』のメンバーは知っていた。


 マコトの身に何が起きたのか。

 なぜ、マコトが昏睡状態になったしまったのか。

 そして、あの夜、マコトをこんな状態にした『深淵のキョウキ』が見せた、あの『狂ったような目』を。


 ――カイト達を乗せた真紅のバイクは、ハチコウ前まで目と鼻の先という所まで来ていた。


「そろそろ目的地のハチコウ前だよカイト。ミカゲ達はもう着いてるかな?」


「あいつは昔から方向音痴だからな。ま、ハルマと一緒だから大丈夫だとは思うが」


「だと良いんだけど。・・・ん?」


 チビマルの『野生の勘』が、辺りに漂う微かな違和感をキャッチした。チビマルは、その違和感を払拭するかのように、意識を鼻に集中させる。


 ――!?


 微かな違和感が確信へと変わる。


「カイトっ!?この先ッ!!!」


 バイクがハチコウ前に続く最終コーナーに差し掛かろうかという最中、急にチビマルが声を荒げた。


 道を曲がりきると同時に、チビマルが声を荒げる原因となったモノが、カイトの目に飛び込んで来る。


 直線にして、およそ200mほど先のスクランブル交差点の真ん中に――。




 キョウキだッ!!!!!!!

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