ウイチョル族の祖先
メキシコの伝説
ウイチョル族の祖先
次の伝説はウイチョル族のユラメックがどのようにして大洪水から助かり、母なる自然、ナカウエと共に世界をつくっていったかを語っています。
或る時、ユラメックという名の一人のウイチョルが種を蒔く畑をつくろうと木々を倒しながら、土地を耕しておりました。
正午の太陽は背中を焦がし、過酷な光線でひりひりと耐え難いほどでした。
額から流れる汗は地に落ちて、すぐに吸い込まれておりました。
午後になって、種蒔きを邪魔する木は一本も無くなり、畑の準備は出来ました。
ユラメックは仕事を終えたことに満足し、少し休もうと家に帰りました。
朝一番の太陽の光がさした頃、そのウイチョルは畑に行きました。
でも、驚いたことには、前日余計なものは取り除き、きれいにしたはずの土地がまた元のように木々で鬱蒼としているではないでしょうか。
このようなことが五日間も繰り返されました。
ユラメックは一本ずつ木を切り倒していきましたが、翌日になると、また同じ地面に木が立っているのです。
五日目に、おかしなことだと思いながらも、そのウイチョルはその土地で何が起こっているのか発見するために見張ろうと決心しました。
ユラメックは睡魔と疲れに殆ど打ち負かされながらも、随分と長い間、その土地を見詰めて過ごしました。
すると、突然片手に杖を持った一人の老婆が現われました。
そのお婆さんが植物を発芽させるという地の女神、ナカウエでした。
ユラメックは彼女を知りませんでしたが、彼女は杖を挙げて東西南北の四方を指し、上下を指しますと、すぐにその若いウイチョルが切り倒した木々は全て新しく現われてきたのです。
それで、土地で起こったこと全てをユラメックは理解しました。
「僕がすることを台無しにしてくれていたのはあんたかい?」
怒って叫びました。
「そうじゃよ。お前は無駄に働いていたのじゃよ」
と、女神は答えました。
「五日後に大きな洪水が来ることになっているのじゃ」
と、女神は付け加えた。
「唐辛子の匂いがするとても強い風が吹き、お前に咳をもたらす。丈夫で硬い木の幹でお前の大きさの箱を作るのじゃ。そして、中から閉ざせる良い蓋をして、色の異なるとうもろこしの粒を五つと、やはり色の異なる豆を五粒持つのじゃよ。また、さらに、火と火を燃やすためのかぼちゃのつるを五本持って、濃褐色の雌犬を一匹、中に入れるのじゃ」
ユラメックはそのお婆さんの指示に従いました。
五日の間に、箱を準備し、お婆さんに言われたもの全てをその箱に入れました。
黒い雌犬と共に箱の中に入ると、ナカウエが蓋を閉め、全ての隙間を、にかわのようなとても強力な接着剤を使って詰めました。
それから、肩にとまっているコンゴウインコを上に置きました。
その箱は一年間南の方角に向けて水の上を漂いました。
また一年、今度は北の方に漂い、三年目は西の方角に、四年目は東の方角に漂いました。
五年目はとても高く持ち上げられました。
というのは、水は全世界に溢れていたからです。
六年目になってようやく、下降し始め、現在も見ることが出来ますが、サンタ・カタリナの近くの一つの山に停泊しました。
そのウイチョルは蓋を開けて、地面が未だ水浸しになっている様を見ました。
ラス・グアカマヤスとロス・ロロスは先端が断崖絶壁となっておりましたし、水は流れ始めておりました。
やがて、水は五つの海に分かれました。
このようにして、地は乾き始め、木々や草が生え始めていったのです。
そのお婆ちゃんは空気に帰ったのか、その後はユラメックの前に姿を現わしませんでした。
ユラメックはその雌犬と洞窟の中で暮らしました。
ユラメックが働きに出かけている時は、一日中その雌犬は洞窟の中にいました。
午後に帰ると、いつでも、トルティージャが用意されてありました。
誰がそれを作るのか、知りたいとユラメックは好奇心を持ちました。
五日目に、洞窟の近くの茂みに隠れ、こっそりと見ていました。
すると、雌犬が着ていた皮を脱ぎ、その皮を吊り下げ、一人の女になりました。
その後で、跪き、とうもろこしの実を砕いて粉にしていました。
ユラメックはゆっくりと近づき、背後からその皮を掴み、火にくべました。
「私の服を燃やしてしまったのね」
その女は犬のように唸り声を上げながら叫びました。
直ちに、ユラマックはその若い女の髪を彼女自身が準備したニスタマル(石灰水でゆでたとうもろこし)で洗いました。
こうして、その若い女をさっぱりとさせました。
それ以来、一人の女になりました。
少し経って、女とユラメックは子供を持ちました。
そして、子供たちは結婚して、洞窟で暮らしながら世界をつくっていきました。
伝説によれば、そのウイチョルを自然の脅威から救ったあの女は母なる女神ナカウエでは無く、空気となって消えたのでもなく、犬に姿を変え、世界をつくるためにユラメックに自分の人生を結びつけたということです。
- 完 -