40話 護VSフェニア
出口を探すが、内部が複雑過ぎてわからない。急がないとフェニアに見つかる。
「おい護、俺を投げろ。俺なら出口をまで導く事ができる」
「そう言って、お前だけ逃げる気だろ?」
「ギクッ!! そそそ、そんなわけねーだろ」
「じゃあ………信じるからな。 死にさらせーゴルァ!」
光の書を片手に怒りを込めて、真っ直ぐ投げた……投げたのだが。ページを広げ羽の変わりにし、大きく羽ばたきあっさりと護の視界から消えた。
「だあぁーっ、あの野郎やっぱり!」
「落ち着け、よく見ろ。光の粒子が残っているだろう? それを辿っていくんだ」
言われてみれば、白銀に輝く粒子がちらほらと。いつの間に、こんな事を。
「よっしゃ。走るぞ」
順調に粒子の後を追い、眩しい光が。出口が見えた。出口まで後、数百メートル。
「うおぉーっ!」
「はぁーい。ストーップ」
出口まで目前の所で、フェニアが護の前に立ち塞がる。
見つかった……。逃げるにも逃げようがない。
「どうも、帰りが遅いと思って様子を見に来たら、いけない子ねぇ」
「迷子になっていました。テヘッ」
舌を出し、フェニアを茶化す護。頼む、このまま騙されていろ。
「そう、それなら、もう大丈夫よ。お姉さんと帰りましょう」
「生憎だが、俺の帰る場所はここじゃない」
時間稼ぎとはいかないが、自分に出来る事はタルタロスを弱体化させ、表にいる伊織達に全てを託す。敵う相手じゃないのはわかっている。フェニアと一戦交える覚悟を決めた。
「あのさぁ、俺の事好きになってくれたのは嬉しいんだけど、ちょっと度が過ぎたな」
「えっ? こんなにも君を愛しているのに。どうして?」
フェニアの悲しみの表情が、みるみる憎悪に満ちていく。
「それなら、君を殺して私のお人形さんにしてあげるまで」
そこまでして、護が欲しいのか? フェニアに殺されたら護は一生フェニアの人形となってしまう。まだまだやりたい事はあるのに、こんなところで死ぬわけにはいかない。
フェニアの髪の毛が逆立ち、黒い稲妻が護を襲う。
「食らうか!!」
相殺と言わんばかりに、護がサンダーボルトを発動。稲妻同士がぶつかり合い、弾け飛ぶ。
「もう一度聞くけど、お姉さんと一緒になる気は?」
「言っておくが、あんたがやっているのは人権無視だ。一方通行の恋愛の先には破滅が待っている。そんなあんたの理想は、俺がぶち壊してやる! ついでに、俺の日常を返せー!!」
もし、自分の人生がこれで終わるようなら、フェニアに身を全て委ねようなんて考えてた。そりゃもちろん、あんな事からこんな事まで。
伊織の叫びは、十分に届いた。このままじゃ、終われない。
「どうしても、わかり合えないのね……」
「うぎゃあぁーっ」
フェニアの手から放たれた黒い稲妻が、鞭となり護の体を縛りつけ、電撃を浴びせる。
「安心して、手加減してあるから、君に猶予を与えたの。だって愛する護君が傷つくの見たくないの」
「言っている事とやっている事が違うじゃねーか……」
「そうね……これも愛するが故に………えっ?」
地面から打ち上げ花火のように、ファイヤーボールが飛び出した。護の十八番、地雷式ファイヤーボール。フェニアの攻撃を食らうと同時に仕掛けていた。
「ぐっ……やってくれるじゃないの」
「俺はまだ、二回のパワーアップを残している」
「へぇ、楽しみだわ」
もちろん、そんなものはハッタリに決まっている。ハナからパワーアップできるなら、とっくにやっている。フェニアの表情を伺いながら、出方を待つ。
「それにしても、タルタロスの魔力が弱まったけど何かしたのかしら?」
「さぁ……バカになったんじゃないすか?」
「あら、そう……。言い忘れたけど、私もまだ100%の力を出してないからね」
えっ? マジですか? みたいな顔をし、護が青ざめた。
どうしよう……怖い……。
「んじゃ、70%いくわよーん」
フェニアの手から再び、黒い稲妻がほとばしる。しかも、さっきより速い。
「うおっ! あぶねーっ」
「さぁ、華麗なダンスを踊りましょう」
完全にフェニアの手の平の上で、泳がされている護。考える余裕もない。
「さぁ、どんどんビートを加速するわよ。ダーリン」
「うわあぁぁー!!」
避けるのに精一杯。
反撃のチャンスが欲しい。
「じゃあ、パワーアップ第二弾見せてやるよ。上、上、下、下、左、右、左、右」
わけのわからない、コマンド入力を詠唱し、華麗に腕を右往左往に振る。当然パワーアップは、ウソである。
「まぁ、素敵。華麗な動きね」
動きが止まった。
護の華麗な腕の振りに、魅了されている。
「アイスジャベリン!!」
一瞬の隙を見逃さなかった。護のアイスジャベリンが真上に放たれ、垂直落下でフェニアに直撃。かと思われたが、フェニアも何とか防いだものの、かすり傷を負った。
「す、凄いわ。お姉さんゾクゾクしちゃう」
興奮を抑えきれず、自分の血を舐め、無数の氷の矢がフェニアの足元に。
「まだまだぁ!」
地面に突き刺さった氷の矢が、砕け散り、嵐となった。
護は無意識に、氷の中級魔法、アイスストームを発生させ、フェニアの足元が凍りついた。
「いい、いいわ。じゃあ、お待ちかねの100%よ」
胸元から小瓶を取り出し、中に入っている液体を飲み干す。
「これは、悪魔の中の悪魔、グレートデーモンの血、私は魔族の血を飲む事により、絶大なる力を得るのよ。気をつけてね……こうなると、歯止めが利かなくなるから」
フェニアを取り巻く、邪悪なオーラが形を作り出し、角と大きな羽を携えたグレートデーモンが現れた。
「うっ……やばい、足が震えている」
これまで戦った魔族に恐怖と戦いながら何とかなったが、グレートデーモンと一体となったフェニアの姿に更なる恐怖が護を襲う。
「デーモンブレス!!」
グレートデーモンから吐き出された黒炎の炎が、螺旋を描き護に向かっていく。
「うわあぁぁー」
何とか回避したが小規模な爆発が起こり、通路に壁が崩れ、軽く吹き飛ばされた護。
この爆発を機に、身を潜めチャンスを伺う。
「どこにいるのぉ? お姉さんかくれんぼは得意よ。逃げても無駄なんだけど」
冷や汗しか出ない。
心臓の鼓動が徐々に加速する。
どうしよう………。
「見ぃーつけた」
背後から護を羽交い締めにし、首筋にそっと息を吹きかける。護にとって、フェニアは最悪の相手だ。色っぽいし、密着される度、護の理性を保つのにも限界が。
「護とか言ったな?」
「えっ?」
護の脳内に、直接闇の書が語りかけた。
「よく聞け、これからお前に力を貸そう。フェニアのヤツも魔力が弱ってきている。今がチャンスだ」
「どうするんだ?」
「チャンスは一度きりだ。俺が合図するから、お前は魔力を集中させろ」
「あらぁ、もうギブアップかしら?」
闇の書に耳を傾け、護は口を開かない。フェニアは観念したのかと思い込んでいる。
「じゃあ、覚悟はいいかしら?安心して、君は私の物だから、今後も一生大事にするわ」
フェニアの手と、グレートデーモンの口が開き、護に襲いかかる。
「今だ!!」
「サンダーボルト!!」
咄嗟にサンダーボルトを放ち、一瞬怯んだフェニアから距離をとる。
続けて闇の書が、護に合図を送った。
「いくぞ、一発勝負だからな、気を抜くなよ。俺の後に続いて詠唱しろ」
「深き漆黒の闇よ……虚無より出でし闇の波動よ……今ここに、仇なす敵を打ち滅ぼさん」
護の手のひらに、黒い球体が現れた。その球体はバチバチと音を立てながら、静かに激しくなっている。
「何? 彼から感じるこの激しく高ぶる魔力は」
D吸クラスの護から感じる高ぶる魔力。フェニアの体が震えだす。
「何はともあれ、やらせはしないわよ」
全霊を込めて、グレートデーモンから強力なブレスが吐き出された。
「シャドウフレア!!」
護の手から放たれた魔法、シャドウフレア。
闇の書から借りた力により、解き放たれた最上級魔法である。
「押されてる? 私が」
空間全域に爆発と共に、激しい爆風が巻き起こる。
耐えに耐えられなくなり、フェニアは吹き飛ばされ、その場を動かなくなる。
当然、タルタロスにもダメージがきていた。
「か、勝った………」
急ぎ出口へ向かうが……。
「中々……だったわよ」
「げげっ!!」
服がボロボロになりながらも、フェニアが起き上がった。
「私の負けよ……もう、戦う気はないわ。後ね、私、死んだら冥界送りだけど、あんなスケベジジイの所に行くのはごめんだわ。だからね、君が私を選ばなくてもいいの。君の側に居るだけでいい。て言うか居させて」
フェニアが涙を流しながら、体が光だし、黒い宝石と姿を変えペンダントとなり、護の首にかけられた。




