35話 光の書争奪戦3
「あまり、俺をナメるなよ天使共」
「ガブリエル、準備はいいか?」
「任せろラファエル。アタシが正義の鉄槌食らわせてやんよ」
ガブリエルの背中から大きな羽が現れ、その羽は二枚、三枚と増えてきた。
「戦闘モードロック解除。これより殲滅活動に入る」
さっきまでのお転婆口調とは逆に、目付きが獲物を狩る獅子の如くじっとベリアルに視線を送りながら、表情一つ変えずに喋りだす。
「こしゃくな……食らえ!!」
「させるか!!」
ベリアルの手から放たれた雷が二人をめがけて飛んでいく。
ラファエルがそうはさせまいと言わんばかりに防御壁を展開し、ベリアルの攻撃を跳ね返した。
「ガブリエル今だ!」
「エネルギーチャージ完了。メタトロン発射」
ガブリエルの背後に魔方陣が四方に集まり、魔方陣から一直線にレーザービームが放たれる。
「ぐっ……」
放たれたビームが砂煙を巻き起こし、どういう状況かわからない中ラファエルが次の攻撃準備に入った。
「ガブリエル、下がれ」
砂煙が晴れかけた矢先、ラファエルが手に魔力を集中させ、一本の槍が完成。
「食らえ! 天使の槍」
エンジェルスピアが一直線に放たれ、小規模な爆発が起きた。
「どうだ!」
「やってくれるじゃないか」
砂煙が晴れてベリアルの姿がはっきりと見えてきた。
多少のダメージを与えたかと思われたが、致命的には至ってはいない。
「さすが、S級魔族。この程度では死なないか」
「キサマらとは格が違うのだよ。天使共」
すかさず、ガブリエルが次の攻撃を開始。ベリアルが周囲に強力な結界を張りその場を凌ぐ。
「このままじゃ、らちがあかないな。ガブリエルの持続時間も限界が来ているし」
「何だ? そいつ限界が近いのか?」
ラファエルの独り言を立ち聞きしていたベリアル。次第に手から黒いオーラが現れ漆黒の剣が現れる。
「キサマら中々やるな、敬意を表してこのデモンズソードで切り裂いてくれるわ」
「く、来る……」
ラファエルもエンジェルスピアを再び取りだし、ガブリエルに次の攻撃準備を指示。
「僕だって槍の使い手として、天界では有名なんだぞ」
槍の切っ先から魔方陣が現れラファエルの身を守る盾となり、ベリアルとつばぜり合いが展開された。
「お前の目的は何だ? なぜ光の書を狙う?」
「そんな物はどうでもいい。俺は戦えればそれでいい。本が欲しいのは俺を魔界の監獄から出してくれたヤツだ」
「な、何だと!? 誰だそいつは?」
「暗黒魔導師フェニア」
フェニアの名前が出た途端に、ラファエルが固まった……知っているかと思ったら、誰だそいつは? と疑問が。
「知らないのか、まぁどうでもいい事。俺の剣で血祭りにしてくれる」
徐々にベリアルのスピードが増し、ラファエルが押され始める。耐えに耐えきれず、ベリアルの一撃がラファエルに。致命的損傷は免れたが、ラファエルが戦える状況ではなくなってきた。
「覚悟はいいか?」
「フェイズ2移行、メタトロンエネルギーチャージ200%」
「な、何だと!?」
ガブリエルから発射されたメタトロンが第一撃よりも威力を増してベリアルに向かっていく。
「ぐあぁっ」
激しい閃光と爆発により、ベリアルの体も痛手を負い、お互いに戦える状況ではなくなってきている。
「なんだあれは?」
「激しい爆発が起きたぞ」
知らない間に、人間達が群がり両者の対決を見ていた。当然、映画の撮影か何かだろうと、軽い目で見ている。
「少々やりすぎたか、天使共命拾いしたな。今日のところは退いてやる」
そう言って、ベリアルは姿を眩ましラファエルも急ぎ野次馬の人間の記憶を消去し、何事もなかったかの様に人間達はその場を後にする。
人間に対して姿をカモフラージュするのを忘れてしまい、後悔の懸念が残るばかり。ベリアルが逃げたのもそのためであろう。
「危なかったぁ………ガブリエル大丈夫か?」
「あれぇ? ラファエルたん? 血ぃ出てるよぉー」
戦闘モードから通常モードに戻ったガブリエル。でも、どこか様子がおかしい。
「副作用が出たか……面倒くさいなぁもう」
ガブリエルの兼ね備えた戦闘能力は、解放すると凄まじい力を発揮するのだが、時折核兵器一つ分の威力を発揮する能力を持ち合わせている。
戦闘モードを終えると、性格が幼児になったりロリっ娘になったりと様々な副作用が出る為、ラファエルがその監視と抑え役になっていたのだ。
「ねぇねぇ、ラファエルたん。遊ぼうよう」
「今は大事な任務中だからだーめ!」
「えぇーーー! 嫌だ!」
「あぁーーもう!」
…………ブスリッ!
懐から一本の注射器を取り出し、ガブリエルの腕にブスリと一発。ガブリエルの副作用を治す薬が注射器に仕込まれ、常時携帯しているラファエル。
ガブリエルが意識を失いその三分後すぐに目を覚ました。
「…………ん? ラファエル? あいつやっつけた?」
「いや、逃げられた。でも僕達も危なかったよ」
自分の傷に治癒魔法をかけながら状況を説明し、護達の元へ急ぐ二人。
***
「神里君あった?」
「ない。おかしいなぁ」
護の記憶を頼りに、失った光の書を探す護と伊織。これという手がかりもなく、ただひたすらに探している。
テレポートを使った伊織には、追い打ちをかけるが如く疲労がピークに達していた。
「宮本さん、ごめん……テレポートを使って疲れているのに」
「神里君、まさか私に気遣ってあの場から?」
「そ、そうだよ。だから、無理しないで休んでなよ」
伊織が固まった……。前にもこんな様な優しさを見せた事がある護に対して。
これはこれで、新鮮な気持ちなのだが……。
「熱でもあるの?」
「何でそう言う結論になるの?」
「あははっごめんごめん。私飲み物買ってくるよ、だから神里君も休憩ね」
せっかく気を遣ったのに、逆に気を遣わせてしまった。
護も休憩するが、何やらカラスが騒がしい。
「護」
「ん? 誰か呼んだ?」
「護、後ろだ後ろ」
ふと、振り返るとゴミステーションが。目に入ったのは、ゴミと共にゴミステーションに光の書が置かれていた。しかも、カラスに突っつかれながらも無傷でいる。どんだけ頑丈なんだ……。
「お前、どこに行ってたんだよ!!」
「お前こそ、俺を捨てやがって………」
「捨ててない、うっかり落としただけだ!」
「偉そうに言うんじゃねぇよ」
「お前最重要物だったんだな」
「何の事だ? ニホンゴワカリマセ―ン」
「テメェ………」
とにもかくにも、無事に光の書を見つけた護。安堵の表情で、その場に座り込んだ。
光の書とフェニアが持つ闇の書、この二冊が魔神タルタロスとどう言った関係があるのか? 光の書は再びミニチュアサイズに戻り、護のズボンのポケットに入り込む。
騒がしかったカラスがいつの間にか居なくなり、突如突風が吹き荒れだした。
「風強いな……何かこの風嫌な感じ」
「ご名答。この風は私が起こしたのよ」
護の前に再び姿を現したフェニア、色っぽい目つきといやらしく太ももをさらけ出し、護に接近する。あの目はとても合わせられない、合わせたら何かヤバイ気がしてならない。護の第六感が警告音を鳴らす様に危険を察知している。
「そんなに怖がる事ないじゃない。お姉さんショック」
「な、何しに来たんだよ?」
「お姉さんと遊びましょ。なんならベッドの上で激しい運動をしてもいいのよ」
「………やべっ! この人から漂う香水の匂いが凄いいい匂い」
思春期の護に刺激の強いこのシチューエーション。こんな感覚はサキュバスと戦って以来だ。とにかく、今この場をどうやり過ごすか。
………神様早く戻ってきて。




