33話 光の書争奪戦1
ラファエルとガブリエルが人間界に飛び立った後、直ぐ様ミカエルはジブリールにいるジールに救援要請を送る。
正直な所、ジールの上から目線の態度にイライラしながらも、ミカエルは穏便に話を進めていた。案の定、上から目線の態度でジールは話を了承し、ミカエルはイライラを抑えながらゼウスに報告。
魔界を監視する魔界管理課。魔界を統べる者が居ない今、天界から派遣された天使が常日頃魔界を監視する組織である。
何かあれば天界とジブリールに報告が行くシステムとなっている。ジブリールは基本的には単独で行動をするが、要請があればきちんと対応する。
今回はジールの知り合いであるフェニアが一枚噛んでいるため、いつもより積極的に動いているジブリール側であった。
「ガブリエルのやつどこへ行ったんだよ」
ラファエルはガブリエルとはぐれてしまった。人間界に来てから、人混みに圧倒されちょっと目を放した隙にガブリエルの姿が居なくなっていた。
「魔力反応? まさか魔族か」
反応をする方向へ向かうと……。
「あっ」
「えっ? 女子高生?」
ラファエルが目の当たりにしたのは買い物帰りの伊織であった。
「おいっお前何者だ?」
「あなた失礼ですね! いきなり何ですか?」
伊織のこめかみに血管が浮き出し、臨戦モードに入る。
いきなり鉢合わせて、何者だ? とか言われたらそれは腹が立つ。
「お前から魔力反応があった。お前魔族か?」
「はぁ? 私は人間ですけど何か?」
あくまでも自分が魔法使いでないとしらを切る伊織。しかも、魔族と言われて余計に腹が立ってきた。
「あくまでも、しらを切るか……」
「えっ?」
ラファエルの体が青白く光り、手に光が集まりだした。
「天使の車輪」
ラファエルの手から放たれた光の輪が、回転しながら伊織に向かっていく。咄嗟に伊織はホーリーボールを解き放ち回避したのだが。
「危ないじゃないですか!」
「やはり、お前……」
「あっ!」
伊織と護が初めて出会った時と同じ境遇を体験してまった。まさか、自分が同じ目に遇うなんて……。
「お前やはり魔族か?」
「だから、違うって言っているじゃないですかー!」
騒ぎに気づいた通行人が集まりだし、これはまずいと判断。
ラファエルの手を掴みその場を後にした。
「とりあえず、私の家で話しましょう」
「ちょっと」
伊織の家で、もてなされたラファエル。お茶とお菓子を用意され、舌鼓になりながら話を始める。ラファエルが天界の天使である事と光の書の行方を追ってきた事など。
「そうか……あんたはジブリールの魔法使いか」
「それでね天使様、実は先日こんな事がありまして」
ジールと焼肉に行った時の話をする伊織。
魔神タルタロスの事も把握をしていたが、とりあえず待機命令が出ていたので迂闊には動けなかったと言う。
「なるほどな……しかし、あのバカはどこで油を売っているのやら」
「行く当てがないなら、しばらく家に滞在しても構いませんよ」
「マジか? うおぉー天使だぁー女神様だぁー」
天使のくせに、伊織を天使だとか女神だとか言って持ち上げる。
ガブリエルはと言うと、ラファエルとはぐれて街の広場に腰を下ろしていた。
「まったくよぉー、ラファエルのヤローどこ行っちまったんだ? アタシがこうして待ってやってるんだから感謝しろ……てゆーか、腹減ったなぁ」
ふと、辺りを見渡すとたい焼き屋さんを発見。生地の焼ける匂いと熱気にそそられ、つい足が勝手に。
………じゅるり。
「おっちゃん、一個くれ」
「あいよー。百三十円だよ」
胸元から天界公認のクレジットカードを取りだし、提示をするのだが。
「お嬢ちゃん……申し訳ないけどカード払いは出来ないから、現金でね」
このカードは何でも買い物出来るカードじゃないのか? そんな顔をし、青くなるガブリエル。
お金がないと人間界でどうやって滞在するんだ? 途方に暮れると、遠方から護が歩いてきた。
「あの男から魔力反応? あいつに頼んでみるか……」
護との距離がどんどん近づき、顔を合わせた瞬間。
「おいっお前! た、頼む……」
「ん?」
「おいっ護、あいつ何かヤバイから俺しばらく黙るわ」
護と一緒に居る喋る謎の本。護に観光案内を要求し、しばらく黙っていたのに、再び黙ると言い出した。
「お前、金貸せ」
「えっ?」
出会っていきなりカツアゲされるとは……何度も不良に絡まれた事はあったが、魔法を使って逆に脅して追い払っていたが……その事を隠し通して誰ともコミュニケーションを取らずにボッチの道を今まで歩んで来た。女の子に、しかも、天使の格好をした女の子にカツアゲされるなんて。
「アタシは天使だ! お前より偉い。だから金貸せ人間」
「何かの仮装パーティー?」
「天使だって言っているだろうがぁーー!」
「よし、今日のお昼は天津飯だ」
「ふざけるな! テメー」
ガブリエルのパンチが、護にヒットし、怒りに身を任せて反撃のファイヤーボールを放つ。
「うわっ! 危ないなぁ……お前何者だ?」
「ただの高校生ですが何か?」
これ以上騒ぎを起こしたら、やばいと感じ、この場から何とか離れたい。
「嘘をつくな! お前から魔力反応が感じられたぞ」
ますますヤバイ展開。やむを得ず護はたい焼き屋さんからたい焼きを一個購入し、ガブリエルに手渡す。
「それあげるから、じゃあなコスプレ女」
手渡されたたい焼き、ふわふわに焼けた生地の熱気にそそられ一口パクり。ぎっしりと詰まったあんこの甘味が何とも言えず、表情がほころびるガブリエル。
「うまいなこれ。て……おいっ!」
今の内に逃げようとしたが、ガブリエルに呼び止められる護。
「まだ何か?」
「まだ名前を言っていなかった。アタシは天使ガブリエルだ。お前魔法使いだろ?」
ヤバイ素性がバレている……護は迷いなく、猛ダッシュで逃げ出した。
「あっ、待てコラッ!」
負けじとガブリエルも護を追いかけ回す。
天使だけあって身のこなしも中々の物。
「しつこいぞお前!」
「だから、待てって言ってるだろうーがぁ!」
仕方ないので、困った時の神様仏様ならぬ、伊織様。スマホを取りだし走りながら伊織に連絡を入れる。
しかし、護は気づいていなかった。ポケットの中に居た本がポロリと落ちてしまった事を。




