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32話 喋る本

「やべっ食い過ぎた……」


 昨夜の焼肉がまだ胃に残った状態で起床した護。しかも、追い討ちをかけるかの様にソフトクリームをバニラ味、イチゴ味、チョコ味と全て食べ尽くしたから、お腹がゆるゆる状態。

 何やら下の階で母親の凛子と妹の莉央が騒いでいる。


「お母さん、この本何も書いてないよ。どこで拾ったの?」


「あら? 莉央が拾ったのじゃなくて? おかしいわね……護のピンク本かしら? あの子もそんな年頃かぁ……莉央、護の前で言っちゃダメよ」


「はぁーい……って……お兄ちゃん、お、おはよう」


 おはようじゃねーよ! 全部聞こえてるつぅーの。と言う様な顔をし、二人を白い目で見る護。


「お兄ちゃん……莉央はいつもお兄ちゃんを見守っているからね……」


 にこりと天使の様な微笑みで、何も書かれていない謎の本を護に押しつける様に渡す。


「莉央ちゃん……お兄ちゃんにこれをどうしろと?」


「いいから、持ってろよ」


「えっ?」


 辺りをキョロキョロしても、莉央と凛子しか居ない。

 謎の声は護の脳内に語りかけていた。


「ほ、本が喋った!?」


「ガタガタうるせぇーな、ここじゃあれだからお前の部屋に行くぞ」


 部屋に移動し、再び本が喋り出す。


「俺の声が聞こえている、と言う事はお前魔法使いだな?」


「そこまで知っているなら話は早い。ジブリールに連れて行く」


「なっ、何だと!? ちょっと待て、せっかく人間界に来たんだもう少しここに居させろ」


 本のくせに、何だこいつは? ムカついて来たから、燃やしてやろうかと手から炎を出す護。


「おっと、良いのか? そんな事をして」


 本が開き、ページがパラパラとめくられ、白紙のページに紫音が浮かび上がる。


「げげっ! 紫音ちゃん」


 目の前に紫音を見せられて、燃やせるわけがない……。

すかざす手から出した炎を収める。


「俺をジブリールに連れて行ったら、秘密をバラすぜ。特にこの子にな」


 更にページがめくられ、今度は伊織の姿が浮かび上がった。


「好きなんだろう? この子の事が」


「べべべ、別にそんなんじゃねーし」


 顔を赤くして、話をはぐらかす護。まんざらウソでもなく、伊織の事を女の子として見てはいる。


「照れるな照れるな、んじゃお前に人間界の街を案内して貰うぜ」


 本がミニチュアサイズとなり、護のポケットに入り込む。渋々街を案内する事となってしまった。


「あっちが山、川、そっちが家、あれが車に電車、これは郵便ポスト、以上終わり」


「ちょっと待てや!! お前真面目にやれ」


「チッ……」


「何舌打ちしてるの? 秘密をバラすよ?」


「うっ……」


 今なら誰も邪魔する者は居ない。怒りをあらわに、再び炎を出して本に向けだす。


「やめておけ、無駄な事だ」


 本が通常サイズに戻り、ページが開かれて弱い電撃が護に襲いかかる。


「うぎゃーぎゃぐぁぎゃ」


「だから、やめろと言ったのに。俺に下手な事をすると防衛機能が働くんだぞ。わかったなら観光の続きだ」


 致命傷には至らなかったが、体が感電して思う様に動かない。それよりも、たまたまクレープ屋を発見し護に買わせては本を開き、ページにクレープが吸収されていく。


「ぷはぁ、人間界の食い物は最高だな」


 とか言っているが、料金は全て護が払っている。このままだと、護の財布がピンチ。

 脳裏にご利用は計画的に……と言う言葉が。


「もう、ボクを解放して……」


 ***


 天界、神々が住まう世界。

 全知全能の神ゼウスを始めとし、天使も暮らす世界。魔界とは違う金色の空と白い雲に覆われた世界。


「ガブリエル!」


「あぁっ? 何だラファエル」


 二人の口の悪い天使、金髪の女の子がガブリエル、青い髪の男の子がラファエル。怒った口調で、ガブリエルを呼び止めていた。


「ガブリエル、お前封印されていた光の書をどうした?」


「どうした? じゃねーよ宝物庫にきちんとあっただろ」


「あるには、あった……て言うかこれ、レプリカじゃねーか! 本物はどうした? とにかく、その件でミカエル様から呼び出しだぞ」


「げげっ!」


 ラファエルに連れられ、ミカエルの元に着いた二人。

 二人とは違う大きな羽を背に持った優男が待っていた。


「ミカエル様、ガブリエルを連れて参りました」


「ご苦労様、さて……ガブリエル宝物庫にあった光の書がどうなったか話して貰おうかな」


「あわわわっ。ミカエル様確かにあったはずなのですが……おかしいな?」


「咎めはしませんから、正直に話しなさい」


 やむなく白状し始めたガブリエル。

 宝物庫の掃除をしていた時、ガブリエルがドジを踏み、厳重に封印されていた光の書の封印が解かれてしまった。慌てふためき、元に戻そうとしたのだが下界に通じる穴に落としてしまい、今に至る。

 そして、その本が人間界に落下し、護の手元にあるなんて誰も知るよしもない。当然護も、手元にある本が重要な物とは知らないのであった。


「なるほど……ガブリエル話してくれてありがとう。でもね、何で直ぐに報告しなかったの? あの本は意志があるから残留思念を追ってみたけど、どうやら人間界に落ちたらしい」


「それで、私にどうしろと?」


 自分じゃどうする事もできないと言わんばかりのガブリエルのなめきった態度。


「その事がゼウス様の耳に入ってね……僕も弁解はしてガブリエルをかばったのだけど……自分の不始末は自分で着けろと言うから、ガブリエル早速人間界に行ってくれ」


「えぇーーっ! そ、そんな殺生なぁ」


「諦めろガブリエル、僕も付き添うからさ」


 ラファエルに励まされ二人で、一緒に人間界へ行く事となった。自分の失態で起きた事なのに、ガブリエルは人間界のガイドブックを用意している。


「所でミカエル様、あの封印されていた本は何なのですか?」


「ガブリエル……何も知らなかったのですか?」


 呆れた顔で、ミカエルが渋々口を開く。


「天界にある封印の本は光の書と言い、対して魔界に封印してある本は闇の書だ。そしてこれらが合わさると、封印されし魔神タルタロスが甦る。先ほど魔界管理課から連絡が入ってね……既に闇の書が誰かに持ち出されたらしい」


 完全に固まってしまったガブリエル。もう、自分の出る幕ではないと悟り逃亡を試みるが、ラファエルに捕まれて、逃げれない。


「くっそーあのジジィ、若い女にばかりうつつを抜かしやがって! お前が動けつぅーの」


「ガブリエル、お止めなさいゼウス様に聞こえますよ」


 ぶつぶつ文句を言いながら、人間界に飛び立ったラファエルとガブリエル。


 宝物庫には天界の目を盗み、フェニアとベリアルが忍び込んでいた。


「ちょっと! 光の書がないじゃないの!」


「退くぞフェニア、警備に見つかったここまでだ」


 残念な顔をしながら、フェニアとベリアルは天界を後にし、人間界で身を隠しながら光の書の行方を追っていた。






























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