31話 暗黒魔導師フェニア
ジュージューと肉の焼ける音が木霊している。護は約束通り、神魔町にてジールから焼肉をご馳走になっている。
ついでに、伊織も便乗していた。
「すいません、ハラミ、タン塩、上カルビ下さい」
「神里君、野菜も食べなきゃダメでしょ」
「この子……どんな胃袋を持ち合わせているのよ」
護の食べっぷりを見て、ジールはビール片手に固まっている。
「モグモグ……ん? 俺の胃袋はゴッドホールと呼ばれている。ウソだけど」
「あんたねぇ……でも合格したとは言え、Dの上て……初めてだわ」
笑いをこらえながら、一枚の手紙を護に差し出す。相手は試験管のシロからであった。
「あのウサギ、何なんだ?」
――拝啓、神里護様。
先日の試験では世話になったな、コノヤロー。
本来ならC級に昇格にさせたいが、千聖ちゃんを侮辱した罪をお前には償ってもらう。だから、Dの上とさせてもらったぜ。お前に必ずリベンジする為にな――
完全に逆恨み的な手紙の内容に護の箸が止まっていた。
「あはははっ。あんた一体何をしたわけ? そう言えば私も因縁の相手と言うのが居たわね」
突然、昔話を始めるジール。ビールを飲み干し、ゆっくりと語りだした。
「あいつはね、私のライバルであったの。でも、あいつは禁忌を犯しジブリールを追放されたのよ」
「禁忌?」
ビールのお代わりを要求し、話が続く。酔っ払った言動なので、二人は半信半疑で聞いている。
「ジブリールに伝わる、禁断の魔術をあいつは実現しようとしたのだけど。私が全力で阻止したから事は済んだのよ」
「すいませーん。上カルビに上ハラミとグレープフルーツサワー下さい」
ジールの後ろの席から、注文をする声がするが、この声に過剰反応した護。
チラリと目をやると……。
「ルビィさん!?」
「ん? あら神里君。私も人間界でショッピングの後のディナーよ。人間界の食べ物は最高ね」
まさか、ルビィと再会するとは。
あまりにも仲良さげな雰囲気に伊織は何となく面白くない。
「奇遇ですね……」
「本当だね」
ゴトンッ!! とジョッキをテーブルに叩きつけジールの表情が変わりだした。
「何で……何であんたがここにいる?」
「えっ? 何の事ですか?」
「しらばっくれてるんじゃないわよ! 正体を現したらどうなの? フェニア」
数秒間沈黙の後、ルビィの姿が変わり、護が街で絡まれたあの女性だった。
「げっ!!」
「はぁーい。また会ったわね」
護の姿を見た矢先に、投げキッスを飛ばすフェニア。
それより、今護は完全に固まっている。あのルビィさんが怪しい女性だったなんて……。あの時名乗らなければ良かったと、後悔の懸念が残るばかり。
「ジール、久しぶりねぇ……何でここに居るか? それはね」
そう言って、護の腕にしがみつくフェニア。
その可愛さとは裏腹に、邪悪な企みが感じ取れる。
「ねぇ、護君。私と来ない? ジールにこき使われて大変でしょ?」
「ちょっとフェニア、何やっているのよ?」
護から離れようとしないフェニア。護の理性も限界に近づいてきていた。
「えっと……丁重にお断りします。確かにジールさんは憎たらしい事を言うし、こき使うけど……焼肉ご馳走してもらったり、焼肉ご馳走してもらったり……だから、ごめんなさい」
大事な事だから二回言いました。そんな顔を自信ありげに親指を立てて、ジールに向ける。
当然ジールは、中指を立てながら護を睨み返すが伊織が取り押さえていた。
「あらら、フラれちゃった……まぁ良いわ。ジール私の目的はね魔神タルタロスの復活。その為には封印された魔法の書が必要なのよ。私を追いやったジブリールへの復讐も兼ねて」
「何ですって!?」
「全ては私がナンバーワンと証明する為よ。既に魔界からは闇の書を頂戴したわ。後は天界の光の書」
「て、コラッフェニア待ちなさい」
そう言って、姿を眩ましたフェニア。ジールが言っていた因縁の相手とはフェニアの事であり、禁忌を犯したと言うのは魔神タルタロスを復活させる事であった。
「用事は済んだか?」
「えぇ。わざわざ魔界の監獄からあなたを連れ出したのだから、期待してるわよ、貴公子ベリアル」
「心配するな。魔神タルタロスか中々面白いな……」
フェニアを待っていた、さらりとした銀髪にマントを羽織った男。その赤い瞳からは邪悪なオーラがプンプンとしていた。
「気を取り直して食べよう」
「「おいっまだ食べるのか!」」
現実を逃避し、再び焼肉にかぶりつく護。
「お会計、十四万六千円になります」
「はぁっ!?」
ちゃっかりフェニアが自分のお会計をジールに押し付けていたとは。
翌日、神里家に異変が起きていた。だがしかし、護は食べ過ぎて、そんな事は露知らず。




