29話 護の昇級試験
温泉から帰り、あれから何も起きずに平穏な学校生活を送っている護。相変わらすのボッチではあるが。
―――生徒のお呼び出しを致します。神里護君、2年D組神里護君、職員室までお越しください―――
校内放送で担任からお呼び出しが。何だ? 俺何か悪い事したのか? と言う顔をしながら教室を後にし、職員室へ向かう。
「神里君、何やったの?」
「えっ!? 何もしてないよ」
悪い事をした前提で、伊織が護に話しかける。揃いも揃って、何で俺が悪い事をした前提なんだ……。しかも、あまり護に絡まないクラスメイトまで、注目し始める。
「全く何なんだよ……失礼しまーす。神里です」
「神里君呼び出してすまないね。ジール様から伝言を預かったよ。昇級試験を行うから明日城に来る様にと」
昇級試験!? 何だそれは? 初耳だぞと顔に出る護の表情。
「何だったの?」
心配になって伊織が職員室の前で待っていた。
「実はね……カクカクシカシカ……」
「あー。昇級試験かぁ、私もやったなぁ」
何? 知らないのは俺だけ?伊織まで知っているとは。護の空いた口が塞がらない。
「とにかく明日、わかるわよ」
帰宅中、街の角から護を見つめる謎の女性がじっと見つめている。フード付きの黒いローブを纏い、赤く燃える様な髪と瞳。
何か嫌な予感………目を合わせたくない。そっと目を反らして、女性のまえを通過しようとしたが。
「そこの坊や、お待ちなさいな」
「???」
キョロキョロと辺りを見渡し、敢えて聞こえないふりをする。
「もう、君だよ! 君」
そっとチラ見をすると、女性は明らかに護に指を指していた。他の通行人には女性の姿が見えていない。
………やばい、こいつ魔族か?対応するか、スルーするか。
………絡みたくねー。
「うん。これは幻聴だ」
徹底的に無視を貫く護。このまま無事にやり過ごせるのを祈るばかり。
「もう、無視しちゃだーめ!」
「!?」
いつの間にか、護の背後に迫った女性。色気を惑わす、香水の香りが鼻を刺す。
「あんた魔族?」
「さぁね……どっちかな? それよりも、私は君に興味があるのよ」
「えっ?」
「君、魔法使いでしょ? お姉さんに協力しない?」
護が魔法使いと言う事まで知っているとは。何者なんだ? こいつは。
「知らない人について行ったらダメと教わってるから……さいならー」
隙を伺い猛ダッシュでその場から逃げた護。呆気に取られた女性は手を銃の形に変え、護の背中にロックオン。
「……バッキューン。なんてね……また、会いましょう坊や」
翌日、ジールの元へ向かう。護の昇級試験が始まろうとしていた。
「さて、君の頑張りに称賛して、神里君の魔法ランク昇級試験を行います」
「頑張ったなら、そんな事しなくてもいいじゃねーか!」
「ルールなんだからしょうがないでしょっ!」
護の愚痴を無視し、ジールがまたまた白衣とホワイトボードを用意。
「良いかしら? 魔法使いにランクが格付けされている事は以前に話したわよね。そのランクを証明するにはね……これよ!」
一枚のカードを取り出したジール。
護に見せびらかすが……護はそんなの初めて見ると言い出した。
「あっ! ごめんなさーい。君に渡すのすっかり忘れてたわ……えへっ。ちなみに、これは身分証明書みたいな物。ファンタジー世界で言うなら冒険者カードね。当然、魔族に見せるのはご法度よ」
手渡されたカードには、自分の名前とD級と捺印が施されていた。
「今さら、茶目っ気出しても可愛くねーつぅの!」
護の一言に、ジールのボディーブローが見事に入る。
「最低ランクの分際で、生意気な口は相変わらずねぇ」
話を元に戻し、ジブリールで魔法使いになった者は皆全てD級魔法使いからスタートする。伊織も当然、D級からであったがメキメキと成長し、今に至る。
「試験会場は、ジブリールの街の真ん中に大きな館があるからそこよ。迷う事はないわよ………どうしたの? 早く行きなさい」
「やるとは言ってない………」
反抗期なのか? 護が駄々をこね出した。と言うか、護は人から強要されて何かをするのが大嫌いだからだ。
「ハァッ!? あんたねぇ……この先、コキュートスみたいな強敵が出てくるかも知れないのよ!」
「だから? てゆーかこの前の戦いの報酬がまだだけど?」
完全に開き直った護。
再びジールの鉄拳制裁が……。
「あんたねぇ……この前、温泉旅行に招待したでしょう!」
護のこめかみに、拳をグリグリしながら説教をするジール。それでも護は動じない。
「あんなのじゃ足りねーなぁ!! 現に死にかけたし。 俺、焼き肉食いたいな」
「うっ………」
これ以上は、話しても無駄だと判断し、護の要求を飲む事に。
その後、護一人で試験会場に向かうのであった。
「ここか……」
試験会場に到着し、受付で魔法使いカードを提示。ベレー帽がよく似合うスラッとしたお姉さんが対応している。
「えっと……神里護君。ジール様から話は聞いてますよ。どうぞ奥へ」
奥へ進むと開けた場所に出て、そこには机と椅子が並べられていた。
周りを見ると、約五十人くらいの受験者が集まっており、しばらくしたら場内アナウンスが流れ出した。
「魔法使い昇級試験を受験される方、ようこそお集まり下さいました。早速ですが、試験を始めたいと思います。先ず始めに筆記試験をします。その後に実技試験を行います」
筆記試験!? と言うか筆記用具持ってきてない……。
どうしよう……と思いながら辺りを見渡すと……受験者全員護と同じ反応をしていた。
「全員筆記用具持ってきてないですね? 当然です。告知していないから」
「「えーっ!!」」
その場にいる全員が固まってしまった。
「そんな事だろうと思い、こちらで用意しました。良かったですねぇ……下級魔法使い共」
言い方が気にくわないが、机の上が光だし、鉛筆と消しゴム、更に問題と解答用紙が目の前に。
「制限時間は一時間。では始めて下さい」
問題の内容が、これまた護に打ってつけの問題。
ロールプレイングゲームをやり込んでいる護にとってまさにサービス問題。各属性に反する属性を述べよとか、耐性属性のある敵に魔法をかけるとどうなるか? などの問題だった。
「ナメてるのか?」
チラリと周りを見ると、頭を抱えて悩んでいる受験者がチラホラと。
……何故わからないんだ?
疑問に思いながら、スラスラと問題を解き、最終問題に取りかかる。
「ん?」
タケノコのチョコと、キノコのチョコどっちが好き?
「ハァッ!?」
魔法に関係ない問題が……。
だが護は迷わずに、きのこと解答。
一時間後、試験の結果が掲示され、約十名と護は見事に合格。
「筆記試験合格者の方、おめでとうございます。ちなみに、最後の問題でタケノコと答えた奴は、即失格とさせて貰いました、この後の実技試験の試験官が、キノコのチョコが嫌いなヤツは出ていけとおっしゃりました」
最後の問題で合否が決まるとは。その前の問題は何なんだ? と、失格者からクレームの嵐。




