26話 コキュートス再び
……祠の中が異様に冷えきっている。奥から冷たい風が流れ、コキュートスが二人を歓迎するかの様な冷たい風だった。
奥へ進むと、コキュートスが堂々と待ち構え、護達を嘲笑うかの様な不適な笑みをうかべている。
「よく来たのぉ、怖じ気づいて来ないかと思ったわ」
「マナタイト鉱石を返しなさい!」
伊織が真っ先に食ってかかるが、コキュートスは余裕の表情で受け答える。
「これか?」
胸元からマナタイト鉱石を取りだし、二人に見せつけた次の瞬間。
「これが欲しいのか? 欲しいのじゃろ?」
マナタイト鉱石を自分の口の中に運ぶコキュートス。ブラックホールに吸い込まれる様に、マナタイト鉱石を食べてしまった。
「食いやがった!?」
「何て事を……」
「どうじゃ? これで戦わざるを得ないぞ」
驚きのあまり、声が出ない二人。コキュートスの体に異変が起き出した。
「来た。来たぞぉぉ――! マナタイト鉱石から流れる魔力がみなぎって来るぞぉ」
コキュートスの体から禍々しいオーラが吹き出し、体に黒い紋様が刻まれた。髪が逆立ち、眼球が真っ黒になったその瞳からは殺気と冷酷さがにじみ出ていた。
「うっ………」
「くっ、何て恐ろしいの………」
咆哮をし始め、コキュートスの口から強烈な冷気が二人を襲う。防ぐだけで精一杯で反撃に出る事も出来ない。
「クヒャヒャヒャ。苦しかろう? 寒かろう?」
マナタイト鉱石を自分の体内に埋め込んだ事により、以前よりも遥かにパワーアップしている。
「さてと……」
コキュートスが動き出し、護の目の前に立つ。直ぐ様、護の顎に手を当てだした。
「小僧、わらわが受けた屈辱を今晴らす時がきた」
一瞬の出来事に、何も出来なかった。
思わず足がすくんでしまい、コキュートスの瞳をじっと見つめる護。
「今一度聞く……。小僧わらわの仲間にならぬか?」
「…………生憎だが、もうかき氷は作らねーよ」
「相変わらず生意気よのぉ……」
コキュートスの手が護の頬を鷲掴みし、さらに護を睨み付ける。
………やべぇ、これで本当に人生終わりかな。などと思いながら、意識が段々と薄れていく。
「まも君、しっかりして」
幻聴なのか? 意識が薄れていく中、紫音の呼び声が。
瞼が重く閉じる中うっすらと紫音の幻を目にする護。
「神里君しっかりして!」
「み、宮本さん……」
意識を取り戻し、伊織がセイントアローをコキュートスにぶつける。
「娘……そんな隠し玉を持っていたか」
以前はコキュートスに氷漬けにされた伊織。コキュートスにとって伊織は未知数の相手であった。
間髪入れずに、伊織のセイントアローズがコキュートスに向かっていく。
「娘……お主、A級かB級魔法使いと見たぞ」
コキュートスの手から冷気が発し、伊織のセイントアローがことごとく弾かれた。
「くっ………」
「中々じゃったぞ。娘」
「魔力増幅レベル4。食らえサンダーボルト!!」
伊織の攻撃を受け流している間に、コキュートスの背後に回った護がサンダーボルトを浴びせる。
「小僧……今のはちょいとばかし効いたぞ」
「…………ごめんなさーーい!!」
猛ダッシュで逃げ出し、伊織の背後に隠れる護。伊織もコキュートスも呆れ顔。
「神里君……ちょっとでもカッコいいと思った私の思いを返して……」
「い、いや……あいつマジでヤバイすよ。宮本さん」
ジリジリと二人に歩み寄るコキュートス。さっきの護の一撃により、ご立腹状態。爪を立てながら、手に冷気を集めだした。
「さぁて、覚悟は良いか?」
コキュートスの手に集められた冷気が一気に解放し、猛吹雪が二人におそろいかかる。
「我が魔力………剣となりて………具現せよ」
ブレスレットのダイヤルを回したままだったので、咄嗟に護が魔法剣を発動させた。
「神里君!?」
「宮本さん、俺が防いでいる間にヤツを……」
護の魔法剣を盾に、伊織の魔法でコキュートスを食い止める策に出たが。
「小僧、どこまで耐えられるかのぉ?」
「さぁね……ちなみに、この剣は聖剣エクスカリバーでもないからな」
そんな事聞いてない……と言う顔をしながら、伊織がブレスレットのダイヤルを回し魔力増幅レベル4に移行。壁に向かってホーリーボールを解き放つ。
「どこを狙っておる?」
壁の反動を利用し、ホーリーボールがコキュートスの背中にヒット。
「ぐおぉーっ。うぎゃぁぁーっ」
護より実力のある伊織、ブレスレットの効果により魔力が増幅しS級クラスまで能力が引き出されていた。
「神里君……これ……かなり体に負担来るね……」
「宮本さん?」
初めて使うブレスレットの力に伊織の体に大きな負担がかかっている。冷や汗をかきながら、コキュートスに察知されないようにと我を貫き通している。
「よ、よくもやってくれたのぉ………」
コキュートスにも、大ダメージを与える事は出来たが仕留めるまではいかなかった。
「やはり、娘。お前から先に殺してくれよう」
コキュートスの怒りの矛先が伊織に向けられ、手から冷気を解き放つが……。
「色白女! 油断しすぎだぜ」
護は剣を具現化させた後、さらに念じてみた。
天をも貫く大きな剣を。
「神里君、それ………」
刀身は紅蓮に燃え盛る炎に包まれ、業火の如く焼き尽くす。
「こ、小僧!!」
「食らいやがれー! 色白女」
護の渾身を込めた一撃が今、コキュートスに降りかかろうとしている。




