21話 伊織vsネクロマンサージャド
何処かで魔力が放たれた気配を感じた伊織。護は生きていると確信した。
そして、伊織はジャドの潜んでいる部屋を目指しひたすら前へと進んで行く。
「ネクロマンサーを倒したら、この要塞を破壊しなきゃ……神里君大丈夫かな?」
と、思いながら先へ進むと、如何にも怪しすぎる大扉が。鍵はかかっていない、伊織でも簡単に開けられそうな扉。ゆっくりと扉を開くと、真っ暗な闇に包まれ、両端にはドクロで型どった燭台が置かれていた。
伊織を歓迎するかの様に、燭台に青い炎が灯し出し、道を案内するかの如く炎が一直線に並びだす。
「居る……この先に何か居るわね」
慎重に一歩一歩足を運び、見えない敵に備える伊織、近づく度に何やらブツブツと呪文を唱える声が聞こえてくる。
「そこに居るのは誰?」
「おや? 人間が何でここに? あーあれか、お嬢ちゃんジブリールの手先だね。わしが巷を騒がしているネクロマンサージャドじゃよん」
ドクロで型どった杖を片手に、鼻ピアスがトレードマークのジャド、魔方陣の上に立ち仁王立ちしている。しかも、何て軽い態度で接して来るんだと、伊織はシラケた表情になる。
「とりあえず、あなたは何故こんな事を?」
「んーそれはね、人間がウィルスに侵されてゾンビになっちゃう映画とかアニメ見ていたらね、わし、思いついちゃったのよん。この空中要塞デッドマンを作り、ゾンビパウダーを振りかけ、人類ゾンビ化計画をね」
軽いノリで説明するジャド、しかし、動機が映画やアニメの影響とは………。
伊織に怒りが沸き上がる。
「そんな理由で多くの人間を………許さない!」
「ウホッ? やる気? いいよん、相手してあげようじゃないの」
ジャドが何やら呪文を唱えだすと、同時にジャドの体が分身し始めた。
「わしの幻術見破れるかな?」
「な、何? ちょっと何やってるのよ!」
どさくさに紛れて伊織のスカートをめくるジャド。でも、伊織はスカートの下はスパッツを履いているので問題ないが、やる事が幼稚だと思い込む。
「いい加減にしなさい!」
伊織がホーリーボールを壁に向かって解き放ち、跳弾する様にあちこちと跳ね始める。
まるで、スーパーボールを跳ねさせる様な攻撃。
「うぎゃーー、危ないじゃないの」
「うるさい………私久々に怒ったんだからね」
「んじゃ、お嬢ちゃんこいつはどうかな?」
魔法陣からドス黒い煙が溢れ、血の気のない手が這い出てきた。
「な、何?」
這い出てきた手が次第にその姿を現し、ゾンビが数十体伊織の目の前に現れ、伊織に襲いかかる。
「さぁ、わしの可愛いゾンビちゃん、たっぷり可愛がってね」
………ナメられた物だ、ここまで見くびられるなんて。伊織のホーリーボールが地面から吹き出てきた。
「地雷式ホーリーボール。神里君に出来て私が出来ないわけないでしょ!」
B級魔法使いの伊織にとって、護より格上の自分が護の十八番を模造するなんて誰が予想したのか……。伊織にもB級魔法使いのプライドがあったのだ。
地雷式ホーリーボールがゾンビ達をたちまち一蹴し、ジャドがうろたえ始める。
「お嬢ちゃん……君を見くびっていた………わしも本気だしちゃうもーん」
再び何やら呪文を唱えると糸? いや、鎖の様な物が伊織にめがけて飛んでいく。
「な、何これ? か、体が動かない」
「わしの傀儡掌にかかるとね、身動き取れず、精神的にお嬢ちゃんを追い込むのよん。一歩間違えると即死だよん」
伊織の中に何かが流れ込んで来る。人間界の人達が恐怖と絶望に包まれる光景。その中には護や伊織の家族までも。
「…………み、皆死んじゃう………やめてーー」
酷い光景を見せられ、伊織の精神が崩壊の危機に晒される。
…………しばらくして、伊織は動かなくなった。本当に死んでしまったのか? ジャドの傀儡掌はまだ伊織を縛り付けたままである。
「逝っちゃった? 逝っちゃったの? じゃあ……お嬢ちゃんを生ける屍に変えちゃうからねー」
次第に伊織の血流が悪くなり、体が青く黒ずんでくる。
何とかしなければ、このまま伊織が生きる屍となってしまう。
「わしはじっくりと待つからね」
そう言って手を放し、伊織に背中を向けたのだが…………。
「聖なる光よ………邪を祓い………不浄なる者に裁きを………セイクリッドレイン!!」
伊織のセイクリッドレインが怒りとなり、上から閃光が降り注ぐ。雨の様に放たれた閃光はジャドに貫通し、周囲の物までも破壊していく。て言うか、伊織はホーリーボールとセイントアローしか使えなかったのでは? 護に内緒でこんな隠し玉を持っていたなんて。
「危機一髪だったわ、わざとかかった振りをしながら、魔法防御をかけたの」
「な、何で? さっきまで血流が止まってたじゃん」
「あらぁ? あなたは何を見ていたの? さっきのはね、マジックシールドをかけると少しだけ仮死状態になるのよ。そして反撃のチャンスを待っていたんだから」
自慢げに語る伊織、マジックシールドはあらゆる攻撃をガードする伊織の取って置きの魔法。但し、これは術者を少しの間仮死状態にしてしまうリスクを背負う為、その間は何も出来ない。
「止めよ。我が魔力……弓矢となりて……具現せよ……セイントアロー!」
「ギ、ギョエェェーッ」
瀕死のジャドに追い討ちをかけるが如く、伊織のセイントアローがジャドの心臓を貫き、伊織の大勝利。
「…………ジャドが死んだか。クックック、面白くなりそうじゃ。さて、わらわはここで引き上げるかの」
コキュートスが物陰から事の顛末を見届け、その姿を不気味に眩ませた。
そして、デッドマンはまだ起動したまま。何処かに機関部があるはず、急ぎ機関部を探すが目星がない。
「神里君が生きているなら、テレポートを使うしかないか………気が進まないけど」
残りの体力に気を使いながら、護の魔力を感知する伊織。急ぎ、護と合流しデッドマンを破壊したい所だ。
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護は迷子になっていた。
「何処だ? ここは………宮本さん、どこにいるの?」
意外と内部が複雑な、空中要塞デッドマン。破れかぶれに小部屋を一つずつ散策している。
「うおぉーーマジで迷子だあぁーー」
護は知らない……伊織がジャドをやっつけた事を。
途方に暮れながら、ひたすら要塞内部を走り続ける。
走った……とにかく走った……息が切れるまで走った。
こんな所で朽ち果てるなんて持っての他。伊織と早く合流しなきゃなのに。
伊織すげー……………の一言。
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