14話 絶望からの・・・
目が覚めたら、ラミアが護を看病していた。護の無事を確認したラミアの目から涙が溢れ、心から護の無事を喜んでくれた。
「神里君、痛い所ない?具合は大丈夫?」
「それは、大丈夫だけど………すいません………妹とわかっていても、ナーガを」
「ううん、いいの……妹は法を犯したのだから、裁かれて当然よ………それよりも、君が無事で良かった……私ね来年は君の学校で教師として採用が決まったの」
おめでたい話だが、素直に喜べない、自分の代わりに伊織がコキュートスの手に落ちてしまった。
ついでに、魔族は本来の姿は普通の人間には見えないが、人間に扮すれば、普通の人間にも姿は見えるとラミアは語る。
「目が覚めたわね……」
ジールがやって来て、自分の自室へ護とラミアを連れていく。
「早速だけど、状況は良くない方向へ向かっているわ、神里君、コキュートスと力の差は開き過ぎているし、君を責めるつもりはサラサラないわ」
今後、コキュートスとどうやって戦うかの作戦会議が開かれたが、現状頼みの綱は護のみ。
「伊織の事なら大丈夫よ、コキュートスの作り出した棺は、伊織を仮死状態にしてるだけだから、助かる見込みはあるわ」
「もう、あんたがやれば早くね?」
護がやるより、ジールが動いた方が確かに早いのだが………。
「あのねぇ……人間界の事だし、君がやらなくて誰がやるの?それに、私が動いて何かあったら、このジブリールは消滅するの、だから、私は動けない」
本当は、単に面倒くさいなんて言えない…………実力が未知数のジールである。
「えーっ……………」
「神里護君…………あなたがやるの……」
これ以上は何も言えず、黙って頷く護。
「ジブリールの諸君、元気にしているかえ?」
ジールの城に、コキュートスの声が響き渡る。
「空を見てみるがええ」
空を見上げると、大きな映像が流れ出し、コキュートスが堂々とその姿を映し出している。その横には、氷漬けにされた伊織の姿もあった。
「宮本さん、寝顔が可愛い……」
「おいっ………冗談を言っている場合じゃないでしょ」
空一面に、映し出された伊織の姿は確かに可愛い物を感じたが、冗談を言わないと立っていられない状況でもあった。
「それにしても、カーミラ、ナーガ、フロストが世話になったのぉ……さて本題じゃ、この娘の命は後二十四時間、助けたければ、小僧一人でわらわの所へ来るがいい」
部下を倒され、宣戦布告をしてきたコキュートス、しかも、二十四時間以内に伊織を救出しなければならない。
もう、ジブリールにも、護にも、考える余地はなく、護を現地へ赴かせる。
「神里君、これを持って行きなさい、なくさないでね」
ジールから渡されたのは、ブレスレットだが、ダイヤルが付いていた。
「これは、魔力増幅アイテムよ、ダイヤルを右に回すと魔力が増幅するの、本当は君の様な未熟者には使わせたくないのだけれどね、猶予もないから、必ず伊織を救出しなさい、コキュートスとは無理に戦わなくていいわ、力の差がありすぎるから」
洞窟に辿り着くと、寒さが更に増していた、コキュートスの怒りが寒さとなって表れている。
足元が滑る中慎重に中へと進んでいくと開けた場所に出たのだが、何かが護の横にじっとしていた。
「オゥオゥ、コキュートス様に喧嘩を売ったてのはお前か?」
「…………誰?」
「俺様はコキュートス様の部下、パズズ様よ」
長い爪と、蛇の様なしっぽと悪魔の羽を携えたパズズと名乗る魔族だが、威勢よく護に食ってかかったは良いが、足が地面にハマり身動きが取れないでいる。
当然護は、無視して先に進むが、パズズが氷の塊を投げ出し、行く手を阻む。
「無視とはいい度胸じゃねーか」
「何? 急いでるから、じゃあね」
徹底的に無視を貫き通す護と、この状況を何とかして欲しいパズズ、互いの心理戦が始まろうとしている。
「おいっ、待て、俺がこうなった理由を知りたくないのか?」
「興味ないから、さいなら」
パズズが今の状態の理由、それは、コキュートスに好意を抱いている、だが、パズズは熱を操る為、コキュートスに嫌われている。それを、コキュートスが利用し、自分の事が好きならその足を氷で埋め尽くし、二十四時間そのままで居たらパズズの愛を受け取ってやると言い、今に至る。
当然、護もそんな事は知る由もなし、先を急ぎたいがパズズがやたらと絡んでくる。
「なぁ、お前、炎を出せるんだろ? 助けてくれよ」
パズズは護が出した炎で脱出を試みて、護を倒す作戦だが。
「お前、熱を出せるんだろ? 自分で何とかしたら?」
自分が熱を操る事を何故護は知っている? コキュートスの言い付けを守る為、氷を溶かす事は出来ないパズズ、本当はパズズが熱を出せる事など知らない護はハッタリをかけていた。
また、護も地雷式ファイヤーボールを仕掛けようか悩んでいるが、パズズが直視している為、行動に移せない。
「お前さ、羽あるんだし、飛べばいいじゃん」
「訳あって飛べない、それより、腹減ったから何か食わせろ」
防寒対策に用意した荷物の中から、ポテチを取り出す護、そのままパズズへ投げつけた。
「それやるから、じゃあな」
「おいっ、待てよ、封が空けられないから空けてくれよ」
「はぁ? それぐらい出来るだろ」
本当は封を空けるなど造作もないパズズ、護を引き止め、近づいた所を八つ裂きにしてやると、考えている。
護もこのくらいの氷なら溶かせるが、パズズの動きを警戒し、ファイヤーボールを放ちポテチの袋を開封する。
「これで、いいだろ?じゃあな」
「まっ待ってくれーこのままじゃ食えねーよ、食べさせてくれよ」
「チッうるせーな全く………」
渋々パズズに近づき、ポテチを拾うとしたが、思い止まる護、パズズからしたら、近づいた所で爪で引っ掻いてやろうと思ったが敢えなく失敗。
「どうしたんだよ? 早く食わせろ」
「お前さー羽で風を起こして自分で食えよ」
そんな器用な事出来るわけないだろうと、パズズの胸の内はそう語っているが。
「さぁ、どうした?出来るんだろ?やってみろよ」
「うっ……」
足に埋まった氷を溶かそうと思えば、いつでも溶かせるが、コキュートスとの約束を破れない。
「お前、何食ってるの?」
そんな事はお構い無しに、護が再び荷物から取り出したメロンパンを頬張っていた。
「何? メロンパン食いたいの?」
「お、オゥ、美味そうだからな、食いてぇな」
今度こそ、近づいた所で爪で引っ掻いてやろうと考えたパズズ、計算とは裏腹に護は食べかけのメロンパンをフリスビーの様に投げつけ、パズズの口の中に見事ホールインワン。
「ちょっと待ちな」
口に入ったメロンパンを噛み砕こうとした時、護が止めに入る。
「そのまま口を開けてな、焼きたてのメロンパンは美味いんだぞ」
防ぐ暇もなく、護のファイヤーボールがパズズの口の中に、パンの焼けた香ばしい匂いが漂う、更に追い討ちをかけるように、先ほどのポテチをパズズの口の中に詰め込む。
「アチィーく、苦しい」
怒りに満ちたパズズがついに、地面に埋まった足から脱出し護に襲いかかる。
「こ、このやろー」
「何だ………やっぱり、自分で出られるじゃん……だが、もう、遅い」
パズズの一撃が護に炸裂……………かと思われたが、咄嗟に護のアイスジャベリンがパズズの背後に炸裂した。
「ヤマ張って正解だった。お前こんなの脱出するの容易だもんなー」
ポテチをパズズの口の中に押し込んだ時、背後にアイスジャベリンを発動し、パズズが動き出すのを待っていた護。
相手の心理を読んだのかは謎であるが、護の完全勝利となった。
「んじゃ、先を急ぐから」
そう、言い残し先を急ぐ護、その後にパズズの前にコキュートスが姿を現す。
「パズズ、良い光景じゃのぉ……」
「コ、コキュートス様」
コキュートスの冷徹な眼差し、それに対して恐怖するパズズ。
「わらわへの愛する気持ちは、そんな物かえ?」
「ち、違います……これは………」
どんな形であれ、コキュートスとの約束を破ってしまったパズズ、コキュートスからすれば、パズズの事が嫌いであり、パズズを始末するには絶好のチャンスでもあった。
「あの小僧には感謝せねばのぉ、正直わらわはお主が大嫌いじゃ、パズズ」
「えっ?ど、どうかコキュートス様、お慈悲を」
「うるさい、わらわの前から消えろ……」
コキュートスの冷酷な一撃が、パズズに止めを刺しコキユートスは再び、護が来るのを待ち構えていた。
しかし、まぁ、好きな人の為ならこうなるのか。
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