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両手の花

作者: 火薬
掲載日:2017/07/15






人間には2本の腕がある。そしてその腕には10本の指が生えている。

鳥ならその腕の代わりに大空を飛ぶための翼を持っているが、

では、私達人間は一体なんのために

何をするために腕が生えているのだろうか・・・?

そんな事を滔々と教壇の上で、まるで宗教活動のようにして国語の教師だったか歴史の教師だったかが

語るのを数年前の私は、

私達はまるで茶碗蒸しにでもなりそうな程に暑い教室の中で聞いていた。


今にして思えば、こうして白い花を抱える程度の事しか出来ないんだなと、そう儚い気持ちになる。




小学生からの付き合いである梅田ヒロシと大森タケヒコは高校までは一緒だったけど、

この春を迎えて散り散りに新しい門出を迎えたのだった。

中学、高校と卒業し、私はそのままの流れで大学を卒業し

地元の会社に就職した。

流れというよりは、殆どなし崩しに近かった気がするわけだけれど、まぁ私はあの二人と違って

別に夢なんてなかったわけだが、嘘でも「世界制服!」とか言っておけばよかったのかもしれない。


ミュージシャンを目指して東京の大学へ行ったヒロシと違って、私には目立った趣味は無い。

高校を卒業してすぐ家業を継いだタケヒコは、毎日毎日親父さんの修行で忙しそうだ。

会社から帰ってきてする事と言えば週刊誌や漫画を読んだり、ゲームしたり、

たまに散歩したりしてどこの猫だかわからないが、勝手にスマホで写真撮ったりしてギリギリの女の子らしさを保ったりしている。

それを見兼ねたタケヒコが、「じゃぁ、こんなのどうだ?」と教えてくれたのが、このSNSだ。

自分の分身となるアバターを作ったり友達と簡単なゲームが出来るところなんて、全くもって私好みだ。

それからというもの、私の日常にこのSNSが加わった。


SNSにタケヒコとヒロシを誘って、毎日のようにゲームしたりチャットなんかして楽しんだ。

修行中であるタケヒコは兎も角、ヒロシにいたってはずっと起きている。

NPCなのかって思うほどいつもログイン状態だ。私が仕事から帰ってきてログインするといつも

「おお!遅かったな!」なんてチャットに現れる。

「いやいや、こっちは仕事ですから!」

「やっべぇ!社畜マジぱねぇ!」なんてチャット画面でおどける。ひょっとこ面のアバターが実に似合っている。

「アンタだっていつかはそうなるのよ。」

「オレは売れっ子ミュージシャンになって毎日ハーゲンダッシュを食べる生活を送るからいいの。」

「そんな甘いもんじゃないないでしょ。現実さ。」

ハーゲンダッシュだけにね。どっちかていうと辛いだけの人生って感じだよ。





『今朝、6時頃○○町のアパートで男性の遺体が発見されました。』 

それは、寝巻きの状態で歯ブラシを加えたままテレビをつけたらやっていたニュースだった。


『男性はネット依存症で・・・』

まるで今の私達のようだ。いや、タケヒコは時々ログインするだけで、依存してるとしたらヒロシの方なんだが・・・。



「まぁ、悲しいよね。」なんて、そんな文章にしたら一行で終ってしまう感想が漏れた。

ドライというか冷めているというか・・・。

漏れてきた感想はそのまま溶けずに蒸発してしまった。

久々に三人でゲームをしながらチャットを打つ。タケヒコは私やヒロシと違ってタイピング速度が遅いので

ログが流れるのが少し遅れる。

「どんなに仲が良くても声も本名も顔も知らないから、アイツ等はあんな事になっても千尋と同じ事言うんだろうな。」

ログにそう打ってきたのはタケヒコだった。

アバターだから関係ないんだけど、元の顔が強面だからなんだか攻めたてられたような気分になった。


「まぁ、オレ達は顔も声も名前も知ってるからなんていうか、まだ幸せ?なんじゃね?」

「ちょっと不謹慎だけどな」

「本当それ。ヒロシマジ不謹慎。空気読んで?」

辛いという字に一本足せば、幸せになるという風に聞いた。そんな微々たるものなんだろう。

両手に抱えられる程度の幸せだ。

「そういえば、今度のお盆暇?こっちで花火大会あるんだけど皆で行こうよ。女の子の可愛い提案だぞ?」

私はそう提案してみる。

「可愛い女の子!?マジかぁ、行きたいなぁ」

「おーい。空気読め?私、女の子だぞぅ?」

私がそう言うや否や「じゃぁ、いいや」とか言い出す。

相変わらずひょっとこ面のヒロシである。今度思いっきりひっぱたいてやろう。

「浴衣なら俺の家に何着かあったから貸すぞ?母ちゃんのお古だけどな」

「やった。タケヒコは優しいなぁ。どっかのひょっとこと違って」

やいのやいのと笑いながら私達は今日も語り合った。

 

 

花火大会当日、

私は久々にタケヒコの家に来た。

オバチャンがまるで私を孫娘のように色々な浴衣を着せる。まるで着せ替え人形にされた気分だ。

「おーい、そろそろヒロシ迎えに行くぞ?」

玄関から声が聞こえて出て行くと、まるでどこかの組のような親方様が仁王立ちしていた。

これで煙管なんて咥えていたら完成だ。

中学の頃からタケヒコのファッションセンスは斜め上を二段ジャンプしたようにずれていたけど、今回は更に磨きが掛かっていた。

余談だけど、煙管はもともと「くせる」と呼んでいたものが訛って「キセル」と呼ぶようになったものらしい。


幼馴染だからわかっている事だが、ヒロシは朝寝坊の常習犯で、殆ど毎日遅刻していた。

だから、家まで行ってヒロシのオバサンにたたき起こしてもらわなくてはならない。

が、思惑ははずれてしまった。

もちろん、ヒロシが起きていて家の前で待っているなんて事はなく。

それどころかヒロシの家の車がなくなっていた。どうやら一家揃って出掛けていってしまっているらしい。

家の中もヒロシどころか誰もいない。(なんで人の家に勝手に入れるのか。無用心である。)

「まだ向こうに居て寝てるとか?」絶望的だ。

ひょっとして遠足の前に緊張して眠れなかった小学生みたいな事になっているんじゃないだろうか?

「ダメだ。電話でない。つか、電源はいってない!!」

組長風味のタケヒコもご立腹なご様子である。怖い。

「これはもうアイツの部屋に起こしにいくしかないな。」

「今から!?」

「車で小一時間もかからないだろ!」

まるで借金の取立てのようだ。怖い。

もともと曲がった事が嫌いなので、いい奴なんだけどファッションと同じでちょっとずれている部分がある。

花火見ながら遊ぶだけだし、「寝てたからヒロシぬきで遊んできました。」で良いと思うんだけどなぁ。

いやまぁ、こんなヤクザもどきと二人で花火見るのもそれはそれで嫌だけど・・・。


ピンポーン!

ピンポン!ピンポン!ピンポン!

「ヒロシ!!おい!ヒロシ起きろ!!!」アパートの、多分大学の寮のインターホンを連打するヤクザの図。

これは明らかに、借金の取立てである。

そのタケヒコの後ろで私はアタフタとしている。

アタフタしてるのは私だけではなく、別の部屋から何だ何だと住人が部屋から出てくる。

折角のお休みにあわただしくて本当に申し訳なく思う。

でもお盆なんだから皆さんも実家に帰ってあげてもよいのではないでしょうか?

そんな事を考えているところ、件の借金取りは部屋の扉を蹴破ろうとしている。

曲がった事が嫌いなくせに行動は突発的で単純だ。

「あ、あの・・・どうかしたんですか?」

そんな大騒ぎの中、小柄の男性が声をかけてきた。私よりも細くて小さい、まるでチワワのような男性だ。

「私達、ここの部屋の人の幼馴染なんですけど、連絡が取れなくて・・・」

「は、はぁ・・・」

勇敢なチワワはプルプル震えながら私とタケヒコを交互に凝視した。

そして、彼は迷った挙句、困りに困った挙句、言った。

「あの、大変申し上げにくいんですが・・・」

 

 

 

人間には2本の腕がある。そしてその腕には10本の指が生えている。

鳥ならその腕の代わりに大空を飛ぶための翼を持っているが、

では、私達人間は一体なんのために

何をするために腕が生えているのだろ・・・?


ヒロシが命を落としたのは、ちょうど去年の夏の事だったらしい。

荷物を実家に郵送し、原付で最寄の駅へ向かう途中で信号無視で突っ込んできたトラックと衝突し

頭を強く打って、彼は梅田ヒロシは

実家に帰る事も無く命を落としたのだ。


ヒロシのご両親が出掛けていたのは、今日がヒロシの命日だったからだそうだ。


「普通、こういう時は黒い喪服とかで来るもんじゃない?」

「まぁ、仕方ないだろ?」

ヒロシの大学の学生寮から地元へ戻ってきた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。

懐中電灯で足元を照らしながら、聞いていたその名前を探す。

「あ、これか?」タケヒコが懐中電灯で『梅田』の字を照らす。

もう既に花が活けてある。これはヒロシのご両親が活けたものだろう。

私はその隙間隙間を縫うようにして、持ってきた花を活けて行く。これってひょっとしてマナー違反なのでは?

暗くて見えないけど後ろでタケヒコが「お前、それはねぇよ」って顔をしているのがわかる。

「よし」っと一言。

花が満員電車の如くギチギチ悲鳴をあげている気がする。マンドラゴラかよ。とツッコミを入れる。

「まったく・・・アンタってやつは本当、寝坊癖が抜けなくて迷惑やろうだね」と手を合わせながら言ってやる。


こっちはこれからも毎日仕事大変なんだぞ?とか

 

なんでいっつもひょっとこ面なんだよ?とか

 

どうして、そんな飄々としてやがるんだとか


売れっ子ミュージシャンになる夢はどうしたとか

 

言い返せないのをいい事に色々と小言言ってやろうと思ったけど、今日は許してやろうって思った。

だって、折角あがってる花火が涙で霞んで見えないんだもの・・・。

どうだ、私今女の子っぽいだろう?

 

私は、その両手で涙を拭うと口に手をかざして

「たーまやー!!!」と大声で叫んだ。

 

そんなバカな三人のお盆休みだ。




その後、あのSNSはサービスが終了して

私は元の気だるいだけの日常に戻された。

チャットもなく、ゲームもなく、ただ休みの日は漫画読んだり散歩したりするだけの毎日だ。

あのSNSにログインすれば、今でもまだヒロシに会える気がしていたので、

私は寂しいようなホッとしたような気持ちになった。


あのヒロシは、きっと天国からヒロシがネットの中にやってきて遊んでたとか

そういう突飛な空想を思い描いた。

タケヒコは「もっと現実を見ろ」とか言いそうだけど、私はそう思ったのだ。

 

ふぅ・・・・

 

おー・・・い、天国で食べるハーゲンダッシュは美味いかぁ・・・?



『両手の花』を閲覧してくださいまして、どうもありがとうございます。

 

ネットゲームだったり本作品同様にSNSだったり、みんな仲良くしてるけど

でもやっぱり個人情報とか顔とか本名とか言うわけにはいかないから、すっごく仲が良くても

もしその仲良かった人が死んでしまって、テレビとかで流れてたとしても本名とか知らないから

いつものように「あらあら、かわいそうに・・・」なんて偽善ぶった事言いながら歯を磨いたりしているんですよね。そういうのってやっぱり悲しいですよね。

それは命を落としたりした時だけじゃなくて、犯罪を犯したりしてしまったりした時だって同じなんですよね。

「ひでぇな。こういう奴が居るから世の中ダメなんだ。」なんて言ったりするんです。

もしかしたら、そういう風にならないようにその人を諭す事が出来たかもしれないのに・・・。

だから、SNSやネトゲでもやっぱり人間関係は大事です。大きい事なんです。

ちょっと作品本文とそれてしまいましたが、まぁ中身はすべからく本物ですって事で・・・。

 

重ね重ね、閲覧どうもありがとうございました。


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