2話
気付くと見た事の無いような自然が広がっていた。
周りの木も元の世界と似てはいるが少し違うようだ。
「これが異世界か…」
周りを見ても建造物は無く森の中のようだ。
「ん?」
自分の鼻に水滴が落ちて来た。どうやら雨が降ってきているようだ。
「異世界に来ていきなりずぶ濡れなんて嫌だぞ!雨宿りできる所を探さないと。」
走り回って雨宿りできそうな場所を探し洞窟を見つけた。
「ここでいいか…」
洞窟に入った途端雨が本降りになった。
「ふぅ、ギリギリ間に合った…」
落ち着いて洞窟の中を見てみると思っていたより奥まで続いているようだ。
左右両側に一定間隔に付いている松明の様な物に照らされて奥まで続いている。
「…行ってみるか。」
土砂降りの雨は止みそうに無いこのままここにいても暇だと思い奥に進んでみる事にした。
少し進んでみると狼の様な生き物が居た。
「狼?」
そこには大型犬くらい大きさの狼のような生き物がいた。
普通の狼と違う所は頭に立派なツノが生えてること。
…そうだあの狼を倒すついでに神様から貰った【制限】を試してみるか…
確か自分や相手のリミッターを解除したり着けたりできるんだっけ。
俺は自分の中に意識を集中させると幾つかの枷のような物を感じたそしてそれら全てを弾け飛ばずイメージで力んだ。
「ハァ‼︎」
すると全身から大量の紅いオーラの様なものが吹き出した。
「何だこれ⁉︎…凄い力が漲ってくる。」
身体を軽く動かしてみるとても動きが軽い。
さっきの狼を見てみるとこっちに向かって飛びかかってきた。
しかしその動きがスローモーションの様に遅く感じた。
そしてその狼を殴ると…
ドガァン!
「えっ?」
狼は振り切った拳に当たって壁に凄い勢いで吹き飛ばされバラバラになっていた。
えぇ…殴っただけににしてはヤバすぎだろ…狼大変なことになってんじゃん…
しばらく唖然としていると洞窟のさらに奥から悲鳴が聞こえた。
『キャァァ!』
悲鳴が聞こえた方へ急いで走っていった。
途中にいろいろな生き物が襲ってきたが御構い無しに吹き飛ばしながら向かった。
そこには大きい熊の様な生き物が人を襲おうとしていた。
「オラァ!」
ドガァン!
『グガァ』
俺は走ってきた勢いのままで熊の胴体を殴り飛ばし壁にめり込ました、その胴体に大きな風穴が空いていた。
「大丈夫か?」
「ヒィッ」
振り向いて襲われていた人に声をかけたが何だか怯えている様だ。
なんでだ?……あっそういえば【制限】のオーラ出したままだった。
「ふぅぅ」
また自分に枷を付けるのをイメージすると紅いオーラも無くなった。
「これでいいかな、あんた大丈夫か?」
「は、はい、助けて下さってありがとうございます。」
ローブのフードで顔は見えないが少し震えている怖かったんだろう…
「いいよ、ほっとけなかっただけだから気にしないで」
「そ、そんな訳にはいきません!あのブラッドベアから助けてもらった命の恩人、是非この命これからはあなたに仕えさせて下さい。」
「えぇ⁉︎仕えるなんてそんな急に…」
「私の一族の掟で命を助けられた時はその人を主とし仕えるとあるのです、お願い致します。」
そう言いながら俺の前に跪いた。
「分かった分かったから立ってくれよとりあえず自己紹介をしよ。な?」
俺は慌ててその子を立たせながら自己紹介をした。
「俺は、桜乃力也助けた事なら別に気にしなくてもいいよ?」
「私は、犬族のライと言います。魔法は水魔法が得意です。どうかお願いします。助けてもらいそのまま何もしなければ犬族の恥になってしまいます。」
ローブのフードを取って自己紹介をしたライと言う女の子には犬の耳が付いていた。
「⁉︎そ、その耳…」
「え?耳がどうかしましたでしょうか?」
「い、犬耳?」
「はい、私は犬族の獣人ですから…!獣人は嫌いだったでしょうか…」
犬耳が垂れた…本物の様だ…
「い、いや嫌いじゃないよ」
「よかった…そ、それで、あの、仕えさせていただけないでしょうか…」
これは首を縦に振るまで諦めてくれなさそうだな…
「…わかった、じゃあお願いするよ。」
「はい!それでは血絆の儀式をお願いします。」
「血絆の儀式?」
「はい、私の一族に伝わる生涯仕える人と交わす儀式でございます。これで私はリキヤ様を裏切ったりする事は出来なくなります。」
「それは必須なの?」
「できればお願いしたいのですか…」
また犬耳が垂れてしまった。
「…どうすればいいの?」
どうやら俺はこの犬耳が垂れてしまうのに弱いようだ…
「はい!私の手の甲にリキヤ様の血を一滴程付けていただければいいだけです。」
ライはナイフを渡してきた。
「分かった。」
俺は指先を少し切って血をライの手の甲に落とした。すると彼女の手の甲に二重丸の刻印が浮かび上がってきた。
「これで私はリキヤ様と血絆が繋がれました。これで私はリキヤ様を決して裏切る事は出来なくなりました。」
「そうか、じゃあこれからよろしく」
「はい!こちらこそよろしくお願い致します。」
儀式が終わった瞬間に凄い笑顔になった。
ん?ローブの下がバダバダしてる…尻尾もあるのか…
「ではこれからは主様と呼ばせて頂いてもよろしでしょうか?」
「主様⁉︎呼び捨てでいいよ」
「では先ほどまでと同じリキヤ様で」
様は要らないんだけどな、でも様って付けたいみたいだしいいか…
「あのリキヤ様、一つ質問よろしいでしょうか」
「何?答えれる事なら答えるけど…」
「ありがとうございます。先ほどのブラッドベアを倒したあの攻撃はどんな魔法なのでしょう…あのような魔法初めて見ました。」
えぇ、能力の事を話すと俺が異世界から来て神様にこの能力を貰ったってことも教えないといけない…まぁ儀式で俺を裏切る事はないらしいし、いいか…
「じゃあその事を教える前にライを信じて俺の秘密を教える。…俺はこの世界の人間ではなく他の世界から来た。そしてその時にこの世界の神様に能力を貰った。それが【制限】と言う能力で、それを使用したら出てきたものがさっきのオーラで魔法ではないと思う。神様が言うに俺は魔法はほとんど使えないらしいし…」
ライを見てみるとビックリしてた様な顔をしていた。
「で、ではリキヤ様は異世界の人で魔法も使わずにブラッドベアを一撃で倒したのですか…?」
「その【制限】を使って身体のリミッターを解除した感じだと思うからそうなるのかな?」
「凄い…リキヤ様は凄いんですね!魔力を使わずにブラッドベアを一撃で倒すなんてそんな話聞いた事もありません!」
目をキラキラさせながらローブの中の尻尾がバダバダしてる。
「あ、ありがと…そういえばライはなんでこんな所であの熊に襲われてたの?」
「そ、それはこの迷い森の洞窟にマジックアイテムがあると噂を聞いて探しに来たのですがゴブリンやランサーウルフくらいしか居ないと聞いたのにまさかブラッドベアがいるとは思わなくて…」
「そうか、そのマジックアイテムってのはあれの事?」
さっき吹っ飛ばした熊のそばに置いてある宝箱を指差した。
「は、はいおそらくそうだと思います。」
「開けてみるか…」
ガパッ!
開けてみると丈夫そうな布で出来ている小さめの布袋が入っていた。
「これがマジックアイテム?」
思ったより地味だな…
「それは【無限袋】だと思います。」
「【無限袋】?」
「はい、文字通りいくらでも物が入る布袋でとても珍しいマジックアイテムです。」
「ほぉそれは便利なアイテムだな。はい、これが欲しかったんだろ?」
俺はそのアイテムをライに渡した。
「⁉︎い、いえ!これはブラッドベアを倒したリキヤ様の物です!」
突き返されてしまった…
「そうか?じゃあ貰っておくよ。さて、もうこの洞窟でやる事は無いみたいだし出るか…」
洞窟を出る途中で俺が助けに来る時に走りながら吹っ飛ばした残骸を見てライが呆然としていたがまあいいだろう…
外に出ると雨止んでいた。
「さて、これからどうするか…」