テトラ95
それとも、もしかしたら女性は水晶の欠片そのものの存在は把握出来ないのかもしれない。そうも思うも、おそらくは違うだろう。
結局真相は不明だが、それよりも遺跡に行くという事実の方が重要か。前を進む女性の後に続きながら、ヒヅキは頭を軽く振る。
思考を切り替えたヒヅキは、改めて女性が話した遺跡について考えてみる。
まず遺跡の場所だが、首都から少し離れた場所に在る森の中。その森の中に存在する湖に遺跡への入り口が存在しているという。
遺跡の内部だが、地下深くへと続いているらしく、もの凄く広い。そんな遺跡のおそらく最深部に水晶の欠片が封印されている。
周辺状況は、遺跡から出てきた魔物が闊歩しているらしい。それは遺跡内部もそうで、最深部に至っては完全な魔物が数匹存在しているらしい。
改めて情報を纏めてみると、遺跡としてはそれほど特殊ではない。魔物が出てくるような防衛機構が起動しているので罠も在る可能性は高いが、それを含めても今まで探索した遺跡からそれほど逸脱した存在という訳ではなさそうだ。
遺跡によっては魔物が居る事もあるのでそこまではおかしくはないのだが、ただ問題はその魔物の数と質か。
まず魔物の数だが、遺跡内外含めて100を越える可能性が極めて高い。その時点で異常なのだが、やはり最大の問題は完全な魔物だろう。
もっとも、こちらの方は女性が対処してくれるらしいので問題ない。ヒヅキが考えなければならないのは、水晶の欠片の封印の方。
(とはいえ、こちらに関しては情報が無いからな。元々誰かを封印していたという話だし、それについて訊けば予測がつくかもしれないな)
魔物が大量に出現しているのもその封印を護る防衛機構が作動しているかららしいので、遥か昔に1度解かれたという封印について女性が知っていれば、参考になるだろう。女性曰く、防衛機構が起動しているという事は、水晶の欠片は封印されているという事らしいし。
(神が創った封印の地。今代の神を参考にして神について考えるのであれば、もの凄く面倒そうな場所だな。それと、過去によくそんな場所の封印を解けたものだ。もしかしたらその者達なら神にも勝てたのかもしれないな)
封印について考えたところで、ふとそんな思いを抱く。当時について分かるはずもないが、仮にその時にも完全な魔物が存在していたのであれば、それを踏破した存在というのはどれほどの高みに居たというのか。
(俺には無理だな)
ヒヅキは完全ではない魔物の群れですら抜けるのが危ういかという自らの強さに、自嘲も浮かばなかった。既に卑屈になれるほど前を向いてすらいない。
これから向かう遺跡について、ヒヅキがどうやって乗り越えたものかと思案していると、女性がそろそろ一旦休憩を挿まないかと提案してくる。
その提案に周囲を見回せば、いつの間にやら街道のような場所に出ており、その途中に出来ていた商人や旅人などが休憩出来るようにと広く切り拓かれた場所に到着していた。
現在は夕方で薄暗く、周囲には誰もいないそこで休憩するという女性の提案をヒヅキは受け入れる。
どれぐらい歩き続けていたかは意識していなかったが、それでも結構歩いただろうから、遺跡の在るという森までかなり近づいた事だろう。
切り拓かれた場所の隅の方に移動すると、背嚢から取り出した防水布を敷いて腰を下ろす。腰を下ろした近くには焚き火の跡や、竈か何かを造ったような形跡も見受けられた。今までここで休憩してきた者達の痕跡なのだろうが、それも大分古い。
長いこと使用されていないそれらに、この地がスキアに蹂躙されて久しい事が窺えた。しかしそれも、今や珍しくもない光景になりつつあるのだが。
(今でも首都は耐えているのだろうか?)
神の気紛れで真面目に落としたり、適当に囲っているだけだったりと色々あるので、その辺りの予測は難しい。それでももう長い間攻められているだろうから、まだ耐えていても食糧難に陥っているかもしれない。
首都には用事が無いヒヅキには関係ない話だとはいえ、首都に近くなってきたので、ふとそんな事を考えてしまった。




