テトラ84
点検用の道具を机の上に並べた後、ヒヅキは左腕の義手を外して机の上に置く。
それから義手を点検していくが、特に問題は確認出来なかった。敢えて言うのであれば、接続部分が少し汚れていたぐらい。一応他も可能な部分は掃除をしていくが、点検は直ぐに終わった。机の上に並べていた道具はほとんど使用しなかった。
それを見て、義手製作を依頼して完成品を渡された時に言われた通り、本当に丈夫で点検要らずだなと、ヒヅキは義手を取りつけながら心の中で製作者に賛辞を贈る。
義手の取り付けが終わり指を動かして動作確認を済ませると、立ち上がって伸びをする。窓の外を見れば昼頃なので、義手の掃除も結構時間が掛かったようだ。
(細かい部分ばかりだからな)
義手に目を落としてヒヅキはそう思う。普段拭いている肌以外の細かな部分の掃除なので、どうしても集中して丁寧に行わねばならない。その結果、直ぐに時が経ってしまうのだ。今回は分解せずに掃除可能な部分ばかり掃除したが、本格的に奇麗にしようとすれば分解せねばならないので、それこそ1日掛かりの作業となってしまう。
そこまで考えたところで、そういえば今まで分解して点検しても結局は手入れしかしてないなと思い出し、もう1度心の中で製作者に賛辞を贈っておいた。
義手の点検を済ませ背嚢と剣を背負うと、ヒヅキは部屋を出る。そこで女性の気配を探るも、捉える事は出来なかった。これは女性が気配を消しているか宿屋を離れているかだが、ヒヅキにはそのどちらかは判別出来ない。
とりあえず隣室の女性の部屋の扉を叩いてみるも、返事はない。なので留守だと思い、宿屋を出る。
これからどうするかと考えるも、とりあえず舞台が設置してあった場所へ向かうことにした。
その道中、もうそろそろ舞台というところで女性の気配を捉える。どうやら舞台の方でなにかしているようだ。片付けなのか、夜からずっと居るのかは知らないが。
そうして舞台が設置されていた場所に到着すると、どうやら解体途中のようであった。その現場に、何故か女性が立って指示を飛ばしている。一部の相手のみとはいえ、相変わらずよく解らない存在であった。
ヒヅキは邪魔するのも悪いと思いどうしたものかと考えるも、いつぞやと同じようにヒヅキに気がついた女性が指示を切り上げて近づいてくる。
近くまでやって来た女性に挨拶をすると、今後の予定について問い掛ける前に、ここで何をしているのか問い掛けてみる。
それに対して得られた女性の答えによると、見た通り現在は舞台の解体中らしく、巫女として神事に参加したのでその手伝いをしているのだとか。
建設の時にも一応参加していたようだし、その辺りを詳しく訊くつもりもなかったヒヅキは、その説明で納得した。
それから今後の予定について問い掛けると、今日の夜には舞台の解体も済んでいる予定らしく、夜にヒヅキの部屋を訪ねるという事で話を終える。
ヒヅキと話を終えると、女性は元の場所に戻っていった。その背に目を向けた後、ヒヅキは舞台の方に視線を動かす。
視線の先では何日も掛けて組み上げた立派な舞台が建っているが、女性の話通りだとすると、組み立てに時間を掛けたところで1日で終わってしまうらしい。
(作るのは時間が掛かるも、壊すのは一瞬か)
そこに虚しさのようなものを感じなくもないが、それよりも、それは現在神が行っている事にも当てはまるのだろう。
(もっとも、この世界を現在の神が創ったのかは知らないけれど)
世界は幾度も創られ壊されているという話を聞かされているヒヅキは、目の前で手際よく解体されていく舞台のように、今までも世界は呆気なく壊されてきたのだろう。ふとそんな事を思ったのだった。
しかし、そんな事を考えても無駄だと思い、ヒヅキは軽く頭を振ると、解体されていっている舞台に背を向けて宿屋に戻っていく。
舞台から宿屋までは村の中では離れているが、距離としては然程でもないので、直ぐに到着出来た。




