テトラ78
もしも魔力が本当の風のようなものであれば、それに触れるなり身を任すなりすれば流れというのは解ったのだろう。しかし、一部の種族を除いて、そもそも魔力というモノはなんとなくそこに在るとしか把握出来ない。ある程度魔力が濃くなると、そこだけ空気というか雰囲気が変わっている感じがするといった具合に。
なので、魔力の流れなど普通は解るものではない。それが解るだけでも十分なのだが、ヒヅキの感覚的に言えばこの魔力の流れというのは、言葉の割に実は紙に描いた線のようなものでしかない。
常人がなんとなく在る気がすると感覚的に捉えているモノをヒヅキは形で捉えている為に、ヒヅキの感覚でいえばおそらく、魔力の流れというよりも魔力の軌跡と表現した方が正解に近いのだろう。
ただ、完全に線という訳ではなく、若干ではあるが流れは本当に感じられた。もっとも、今回それが役に立つかといえば、残念ながらたいして役には立たなさそうではあるが。
とりあえずヒヅキは、その魔力の流れを追っていく。局所的に確認しても解らないので、手間ではあるが可能な限り全体で捉えて出口を探る。
全体を捉えるのは苦労するが、魔力濃度が濃いだけでそこまで大規模に展開している訳ではないのがせめてもの救いか。
そうして探るように調べていくと、一部不自然に流れが途切れている個所を発見する。それは引いた線の途中を故意的に消したような、道の途中で必要な橋が架かっていないかのような不自然さ。
ヒヅキはそこを重点的に調べてみる。線の突然の消失。それを疑わない者はまず居ないだろう。
そうして調べていくと、どうもその消えた部分の先に在る空白部分から何処かに魔力が流れているような感じを捉える。その線が消失している部分は、剣の先端より僅かに上辺りの虚空だ。
空白部分から何処に魔力が流れているのか。ヒヅキはそこに意識を集中してみるも、微かに何処かに流れているという事が解った程度で、何処に流れているのかまでは捉えきれなかった。ただ、やはり突然消失したような感覚は覚えたが。
もう少し調べてみようと躍起になるヒヅキだったが、結局はそれ以上何かを発見するという事はなかった。
そこでヒヅキは少し冷静になり、この神事について女性が話していた内容を思い出す。
(この神事の目的は、神との交信。その神とは別次元に居る神だったか……)
思考していたヒヅキは、そこでふむと内心で考えを纏める。という事はつまり。
(途中で途切れている魔力の先は別次元に繋がっているというのだろうか? だとしたら、追跡は不可能そうだが……)
そう思いつつ調べていくも、やはりよく解らない。本当にその先は別次元に繋がっているのかもしれないし、もしかしたら単に途切れてしまっただけかもしれない。
調べても解らない以上、どうしようもないなと諦めたヒヅキは、一旦剣への集中を解いて周囲の様子を確認してみる。
周囲は未だに騒めいている。どうやらまだ強烈な光は発せられたままのようだ。それでもそこまで大きな騒ぎではないのは、これが神事だからだろうか? そう思ったものの、いまいちよく解らなかった。もしかしたら魔族特有の何かを備えていて、女性が何かしているのを解っているのかもしれない。
魔力の流れで確認する分には、女性の方に動きは無い。変わらず仮面に手を掛けたまま止まっている。
しかし、そこでヒヅキは気づく。どうも少し前に女性の方向から感じていた魔力と、現在女性の方から感じる魔力の質が異なっていることに。
それを言葉にするのは難しいが、より神聖な感じになったとでも言えばいいのだろうか。真冬の朝のように冷たくて思わず背筋が伸びてしまうような、そんな身の引き締まるような空気で場が張り詰めている気がする。
その発生元は、間違いなく女性だろう。という事は、姿勢こそ変わってはいないが、神との交信の魔法は発動しているという事なのだろう。ということは、もしかしたらもう神と交信しているのかもしれない。




