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テトラ75

 遠雷のような音が空気が震わせ、近くの山が鳴動するように地を揺らすこと数秒。次第に大きくなっていた音や振動であったが、突然それが嘘のようにぴたりと止まる。

 その頃には辺りは暗くなっており、ヒヅキは思わず空に目を向ける。するとそこには、太陽の下にだけ集った不自然な分厚い雲の姿。その影響で、太陽が完全に隠れてしまっていた。

 それは異様な光景であった。薄雲漂う青空の中、太陽の下だけに灰色の分厚い雲が停滞しているのだから。

(自然現象、な訳ないよな。今までの流れからして、これも神との交信の前準備といったところか)

 太陽は神の眼である。それをヒヅキは嫌というほど感じていたので、こうして雲に覆われて完全に遮られると、幾分晴れやかな心持となる。

 これから行われる神との交信での交信先は、その太陽を眼として監視している今代の神とは別の神らしいので、おそらくそれを覗き見られない為の対策なのだろう。

 周囲の魔族の反応を見るに、これはおかしな現象ではないようなので、脈々と続く儀式の前準備にさえ組み込まれるほどに今代の神は覗きが趣味なようだ。現在巫女役を務めている女性に言わせれば、それでも世界の半分も満足に見られないようだが。

 ともかく、最初にそうして神の眼を塞いだところで、次の段階に移行するようだ。

 太陽が隠れ暗くなった舞台で、ピカリと眩い光を放ち始める2つの魔鉱石。

 直視するのも難しいほどに眩く光るその魔鉱石に呼応するかのように、女性の眼前に在る三方の上に置かれた剣がカタカタと細かく震え出す。

 そこで舞台中央に正座していた女性は、視線を上から剣の方に動かす。

 視線を剣に向けた女性が見せつけるようなゆっくりとした動きで右手を持ち上げると、それを待ってましたと言わんばかりに剣が勝手に動き出し、ひとりでに飛びあがった剣は、持ち上げた女性の右手にすっぽりと収まった。

 右手に飛び込んできた剣をしっかりと掴んだ女性は、手首を返した後に左手で柄を持ち直す。

 まるで楽器でも弾くような優雅な手つきで剣を軽く動かした女性は、左手で掴む抜き身の剣をそのまま頭上に掲げる。

 その瞬間、魔鉱石が発していた強い光が剣へと伸びていく。

 そのまま2、3秒程光が剣身に当たると、魔鉱石は役目は終わりと沈黙する。

 光を失い、そこらの石のようになった魔鉱石とは異なり、光を浴びた剣は眩く輝いている。

 それを確かめた女性は、そっと左手を離す。すると剣はそのままの状態で浮遊し、一層光量が増していく。

 女性は1度両手を膝上で揃えた後、ゆっくりと両手を持ち上げて仮面の両端を掴む。

(やっとか)

 仮面に組み込まれている魔法の起動方法を知っているヒヅキは、その動作で女性が仮面を起動しようとしているのを悟る。

 それに伴い、ヒヅキはより一層仮面に意識を集中して、魔法について調べようとする。

 そんな中でも頭上に浮遊している剣は光り輝き、女性は仮面の両側から仮面へと魔力を通し、仮面に組み込まれている魔法を起動させた。

 女性が魔法を起動させた瞬間、頭上に輝いていた剣の剣身の光がより一層光り輝き、とうとう直視出来ないまでに光輝く。それでも止まらない剣は、遂には太陽にも負けないぐらいに周囲を照らし、女性の影を消す。

 周囲に居た誰も彼もがその明かりから逃れるように顔を手で覆いながら背ける中、ヒヅキも同じように堪らず顔を背けていた。そんなヒヅキの耳に、舞台中央に座る女性が何かを呟いたような音が微かに届く。

 それはあまりにも小さな囁きで、何か意味のある言葉を発したのかどうか以前に、本当に声を発したのかどうかさえ判然としない。それでもヒヅキには、不思議と女性が何かを発したというのが解った。それと同時に、先程まで感じていなかった魔力の流れを感じる。

 しかし、依然として剣が強烈な光を発しているので、ヒヅキは女性の方へと視線を戻す事が出来ないでいた。

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