表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
972/1509

テトラ70

 扉を叩いて少しすると、とととという軽い音が扉越しに聞こえてくる。

 そんな音がして直ぐに扉が開く。

「だ~れ~?」

 開いた扉越しに覗くようにして中から出てきたのは、背の低い人物。ヒヅキは魔族の成長速度は知らないが、人間で言うと4、5歳ぐらいの子どもだろうか。やや舌っ足らずな感じの喋り方も、幼さを際立たせている。

 明るさの抑えられた赤色の髪は短く、まんまるとした瞳は可愛らしい。全身的にぽよぽよしていて、幼子らしい体格をしていた。

 見た目は可愛らしいが、性別はどちらとも言える。この年代の子どもは性別の判断が難しい。

 ヒヅキが出てきた幼子に顔を向けると、今度はどどどと駆けてくる音が響いてくる。

「こら、勝手に!」

 そう言いながら幼子を抱き上げたのは、すらりとした女性だった。

 驚くほど白い肌に、整った面立ち。長い赤髪は、幼子よりも鮮やかで燃えているかのよう。見れば幼子と顔かたちが似通っているので、おそらくは親子だろう。

 そんな女性は軽く幼子を叱った後、ヒヅキの方に顔を向けて「すみませんね」 と謝ってきた。

 透き通った声にでそう言われ、ヒヅキは問題ないと告げる。

 その後に用件を尋ねられたので、来訪の理由を口にした。おそらく昨日の門番はこの女性の夫なのだろうが、とりあえず昨日見た門番の特徴を伝えて夫である事を確認してから、世話になったから礼を言いに来たと来訪の理由を女性に語り、在宅かどうかを尋ねた。

「それでしたら――」

 説明が終わり女性が答えようとしたところで、奥から誰かが来るのを捉える。気配から察するに、門番のようだ。

「おい、誰か来たのか?」

 低いながらも威厳よりも優しさを感じさせる声音が届く。女性はそこまで長く対応していた訳ではないが、つい心配になったのだろう。

 その声の直ぐ後に女性の背後から現れたのは、昨日の門番の人であった。

「あん? お前は……確か昨日の」

 通行する者がほとんど居ないからか、ヒヅキの顔を覚えていた門番の人は一瞬訝るように眉を寄せた後に、思い出したとばかりに言葉を紡いだ。

 それにヒヅキは「昨日はお世話になりました」 と軽く礼をした後、目的であった肉を渡す事をすぐさま思い出す。

「それで、今日はまたどうした? よく家が解ったな!」

 はっはっと豪快に笑う門番の人を眺めた後、ヒヅキは昨日の獲物の肉を一部おすそ分けしに来た事を告げて、手に持っていた包みを門番に差し出す。

 門番の人はそれを少し眺めた後、どうしたものかと頭を掻く。

 今や肉は貴重品だ。それをいくら貴重品になってきているとはいえ、数打ちの短剣を貰ったからと礼に両手で抱えるぐらいの大きな肉を持ってくるなんてどうかしていた。そもそもいくら昨日確かに獲物を持っていたといっても、持ってきたのが本物の肉かどうかも疑わしい。

 そう門番は思うも、ヒヅキとしてはただの礼。肉も必要量を越えたので、この程度然して問題はなかった。

 とりあえずどうしたものかと考えた門番だが、直ぐに近くから「おにく~!!」 と嬉しそうな幼い声が掛けられ、そちらの方に目を向ける。これはほぼ決まったようなものだろう。

 そんな事を思いながらヒヅキが眺めていると、門番の人はおそらく自身の子どもだと思われる幼子と少しの間見つめ合った後、ため息を吐いてヒヅキから包みを受け取る。

「ありがとうよ」

 貰ったからにはしょうがないと、門番の人は短く謝辞を述べる。その隣から女性と幼子が、そんな門番に遅れて礼を言った。

 それに気にせずとばかりに手を上げると、ヒヅキは用は済んだと早々にその場から立ち去る。残ったところで話す事も無いのだから。

 背中に幼子の声を聞きながら、ヒヅキは門番達の居住区画を離れていく。

 そうしながら、急遽出来た今日の予定を終えたので宿屋に戻ろうかと思ったが、ヒヅキはせっかく外に出たのだからと、その前に舞台設営の様子を確認する事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ