テトラ69
舞台の完成は明日の予定だ。外から差し込む光は明るいので、今日も晴れだろう。であれば、舞台設営は予定通りに進むはず。
狩りには昨日も行って、運よく獲物を狩れた。ウサギと鹿っぽい動物。半分ぐらいは解体と加工の報酬で女将に支払うとしても、ヒヅキには十分過ぎる量だ。そこから更に短剣代として手取りを減らしたとしても問題ないだろう。
(しかし、最近更に空腹を感じなくなったな)
それはあまり良い兆候ではないのだが、食料の消費量は更に少なくなるという事は、何も悪いことばかりではない。
それでもやはり良い事ではないので、今より少しは体調にも気をつけた方がいいだろう。
「………………」
ヒヅキは頭を振って意識を切り替える。今はそんなことを考えている時ではない。
今は今日の予定について考えるところだったと思いながら、腕を組んで考える。しばらくして、別に何処かに出かけなくてもいいかと思い至る。
そう決めた後、念の為に1度宿屋を出て空模様を確認しておく。早朝の空は昼よりもやや暗いものの、雲はほとんど見当たらない。遠くの空まで視線を向けるも、何処までも澄み切っていて似たようなものだ。
問題なく今日は晴れるだろうと思うと、部屋に戻ろうと宿屋の中に入る。すると。
「あら? 丁度良かったです」
丁度良く奥から出てきた女将はヒヅキの姿を見て微笑むと、そう言った後に朝の挨拶を済ませて、少し待っているように告げて奥へと消えた。
それから少しして戻ってきた女将の手には、木の板に載せられた一抱えほどの包み。白い布で包まれているが、中に何を巻いているのか、布越しに少々緑っぽい色が窺える。
女将はヒヅキの近くまでやって来ると、木の板ごとその包みを差し出す。
「どうぞ。昨日の肉の取り分の半分です」
そう言って渡された肉の塊らしいその包みは、ずっしりとしていて重かった。しかし、肉の臭みはほとんど感じないので、しっかりと処理しているという事なのだろう。
包みは底の方に木の板を敷いているで、重いが肉の柔らかさは感じられない。
それから少し話を聞くと、どうやら昨日ヒヅキが狩ってきた鹿っぽい動物は大して熟成させる必要がない動物らしく、1晩ほど置いたのが1番美味だとか。
あの動物に関しては血抜きも完全には行わずに少し血が残っている方が良いらしく、偶然とはいえ昨日の処置は丁度良かったようで、ヒヅキは狩った後の処理の加減が素晴らしかったと女将に褒められた。
そうして切り分けられた肉の4分の1を、とりあえず報酬として渡しに来たという事らしい。残りの4分の1は、現在要望通りに燻製干し肉にしている最中らしく、処理にまだ時間が掛かるのでもう少し待ってほしいと言われた。ウサギの方はもう少し熟成させたいという事でもう少しだけ時間が欲しいらしい。
ヒヅキは神事の終わりには村を出る予定だという旨を伝えると、間に合うようにどうにかするという事だった。
女将が奥に入っていくのを見届けた後、ヒヅキは増えた荷物を早く届けようと、宿に入った足を反転させて門の方へと向ける。幸いというか、癖で外に出る時には背嚢などの荷物は持ってきていた。
昨日通った道を思い出しながら、村を進む。
問題なく門に到着すると、ヒヅキは門番に視線を向けた。しかし残念ながら、今日の門番は別の者らしい。門番の見た目は若いようだが、それでも中年一歩手前といった感じがする。
別人の様なのでヒヅキは視線を逸らすと、昨日門番に教えられていた区画を目指して歩いていく。
区画には直ぐに到着したが、思ったよりも家が多すぎてどれがどれだか分からない。門番をしている者が住んでいる区画らしいので、近くには誰か居るかと思ったが、誰もいない。
村同様に寂しいものだと思いながら、しょうがないと昨日覚えた気配を探りながら区画を歩いていく。
それから直ぐに目的の気配を発見して、その気配の方へと足を向けた。
程なくして到着したのは、他と変わらない普通の家。その家の中から昨日の門番の気配と、あと他に2つ気配を感じる。
目的の人物が居れば後は別にどうだっていいので、ヒヅキはまぁいいかと思い、扉を叩いて来訪を告げた。




