護衛任務3
昼休憩を終えると、一行はコント砦へと移動を開始する。
「……………」
シラユリの助言通りに肩の力を抜いたヒヅキは、周囲をしっかりと警戒しながらも、景色を楽しむだけの余裕がうまれていた。
「さっきまでよりはマシになったけどさー、ヒヅッキーが結局真面目君なのは変わらないんだねー」
未だに隣を歩くシラユリは、呆れ混じりの息を鼻から吐き出した。
ヒヅキはそれに何か言うこともなく、またシラユリも何か反応が返ってくるとは最早考えていないようであった。
そのまま護衛の二人は、肩を並べて人足たちの速度に合わせて平野を進む。
そして、暑さでばてないように途中でもう一度休憩を挟みつつ、夕方になると移動を止めて、前日と同じような流れで夜営を行い朝を迎えた。
そんな1日を後10回ほど繰り返し行えばコント砦に到着する予定であったのだが、それから7回目の今日を迎えた昼前に、とうとうスキアと遭遇することとなった。
雲が目立つ空の日、木々が目立ち始めた平野で最初にスキアを発見したのは、人足たちの右側を警戒していたヒヅキだった。
ヒヅキのスキア接近の報告に、他の場所で警戒していたシラユリとロングが直ぐさまヒヅキの近くに集まり、ムゲンは人足たちの近くで護衛に回る。その際、冒険者たちもスキアの存在を確認しつつ、同時に戦闘態勢をとった。
人足たちはスキア接近の報に多少慌てながらも、事前の予定通りに武器を積んだ荷台とともに、スキアとの戦闘に巻き込まれないように、ムゲンの護衛のもと、スキアを迎撃する三人から距離を取った。
「そろそろ来るぞ!」
ロングが木々の先を睨みながら警告を発する。
そして、木々が増えたとはいえ視界の取れる平野にあって、まるで急にその場に現れたと錯覚してしまいそうなほどに滑らかな動作で、ヌルリとヒヅキたちの目の前にスキアが現れる。それも三体。それぞれ四足歩行の獣型であった。
「一人一体の計算かー……ヒヅッキーは大丈夫?」
護衛の四人の中で唯一冒険者ではないヒヅキを心配したシラユリの言葉に、ヒヅキが「大丈夫です」とただ一言だけ返したところで、スキアがそれぞれに襲い掛かってくる。
ヒヅキは猫が獲物に飛び掛かるように両足を上げて襲ってきたスキアの初撃を後ろに跳び退くことで危なげなく回避すると、直ぐさま着地した足に力を込めて、スキア目掛けて地を蹴った。
スキアはそんなヒヅキに反応こそしたが、突撃してくるヒヅキは初撃で動きが止まったスキアに迎撃を許すような速度ではなく、接触の瞬間に出現させた光の剣によって一瞬で斬り倒される。
ヒヅキは魔力を節約する為に一度光の剣を消すと、シラユリと戦っている最中のスキア目掛けて駆け出す。
そのスキアを接触時だけ光の剣を出すという一体目を屠ったのと同じやり方で瞬殺すると、残った一体へと駆け出した。
ロングが抗戦していたスキアも、ヒヅキは同様に接触時だけ光の剣を出して難なく両断する。
「……………」
ヒヅキによって三体のスキアが一瞬で倒される結果に、誰も彼もが我が目を疑い唖然とした表情になった。その為、唐突にその場に静寂が訪れたのだった。