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テトラ63

 帰りは屋根の下だったので、完全に拭いきれなかった水気が身体に残るだけで、雨に濡れる事はなかった。

 部屋に戻ると、扉の前で女性と出会う。どうやら丁度戻ってきたところのようだ。しかし、髪も服も何処も濡れていない。外は今ではザーザーと勢いよく雨が降り始めているというのに。

「あら? 身体を洗ってきたのですか?」

 ヒヅキに気がついた女性が問い掛けてくる。手で絞った程度の濡れた服と髪だけなら雨に濡れた可能性もあるのだろうが、着ている服は着替えたばかりなのに、若干水分を吸ってやや湿っているぐらいだ。

「ええ。外に出た際にウサギを見つけたので狩りをしたのですが、少々服に血が付いてしまいまして。その服を洗うついでに水浴びを」

「そうでしたか」

 そのヒヅキの説明に頷いた女性は、ヒヅキのまだ濡れている髪や服に目を向けた後に「乾かしましょうか?」 と問い掛けてくる。

 それに、おそらく魔法で乾かすのだろうと判断したヒヅキは、お願いする事にした。

 今のヒヅキであれば身体や服を乾かす程度の魔法でならば使えるのだが、使ってくれるというのであれば、別段断る必要もなかった。どうせ部屋に戻ったら乾かそうと思っていたところだったのだから。

 ヒズキの返答に、女性は魔法を使用する。単純で初歩的な小規模の魔法とはいえ、驚くほどの速度で魔法が発動し、一瞬でヒヅキの髪も身体も服も乾いてしまった。抱えたままだった洗濯した服もそのまま乾いたので、服に変にしわがついてしまったが問題ないだろう。これなら事前に広げておくのだったなとは若干思いはしたが。

 とりあえず奇麗に乾燥したので、ヒヅキは女性に礼を言う。乾燥したと言ってもちゃんと加減は出来ていたようで、肌がカサカサになるとかはなかった。髪もまだほんのり湿気っている気がする。

 その後に少し話をして、ヒヅキは部屋に入る。話と言っても、今日の出来事について簡単に交換しあっただけだが。

(この雨が明日まで続きそうであれば、神事が1日ずれるかもしれない、か)

 先程女性と話した時に、最後に女性が思い出したようにそう付け加えていた。舞台の設営は野外だったので、確かにこんな雨の中では作業は大変であろう。いくら魔族が魔法に長けているとはいえ、広範囲で長時間水を弾き続けるのは無理だろうし。

 まぁ急ぎではないしと自分に言い聞かせつつ、ヒヅキは1度自分が濡れていないのを確認してから寝台に腰を下ろした。

(それにしても、この周辺には何も居ないな)

 今日の周辺探索を思い出して、ヒヅキは難しそうに腕を組む。

 結局、今回はウサギ一羽仕留めただけではあるが、それも運がよかったのだろう。女将の様子を思い出すに、肉というのは大分久しぶりだったようだし。

 そこまで考えて、ヒヅキはしかしと首を捻る。

(いくらスキアが近くに居るかもしれないとはいえ、些か動物が極端に減りすぎではないだろうか?)

 確かにスキアの出現に伴い動物が逃げていくというのは珍しくもないのだが、それにしたって周辺の動物がまるっと消えたようにはならないだろう。いくらなんでもそれは極端な話過ぎる。実際に体験していなければ、ヒヅキでも笑い話だろうと考えたと思う。

 そんな状況である。スキアの他にも理由があるのかもしれない。それに、スキアの目撃情報から時間が経ち過ぎている気もしている。そういう事もあるのかもしれないが、警戒しておくに越したことはないだろう。まぁ、それにしたって女性が何の反応もしていないので、無駄な労力かもしれないが。

 それでも念の為にとヒヅキは思うことにして、警戒だけは常にしておく。

 着替えの服のしわを伸ばしてから寝台に横になると、目を瞑る。外は未だに勢いよく雨が降っているようで、屋根や壁を叩く雨音が周囲を包んでいる。

 これは明日止むのだろうかと疑問に思う勢いながらも、それは明日分かることだろう。そう思い、ヒヅキは早めに眠りにつくことにした。

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