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テトラ62

 村に戻ると、薄暗がりだからか入り口で呼び止められたヒヅキだったが、顔は覚えられていたらしく、魔法光の淡い明かりに姿を照らし出されると、そのまま何事もなく村の中に入ることが出来た。

 宿屋に到着した頃にはすっかり暗くなっていたし、ちょうどヒヅキが宿屋の建物の中に入ったところでぽつぽつと雨が降り出す。

 まだ施錠されていなかった事に安堵しつつ、濡れずに済んだななどと思っていると、奥から女将が出てくる。

「おや? 外に行ってきたのですか?」

 ヒヅキの持つ首無しウサギを目にした女将は、少し驚いたようにそう尋ねてきた。

 それに「ええ、まぁ」 と頷いたところで、ヒヅキはふと思いついてウサギを女将の方に差し出す。

「これを解体出来ますか? 干し肉でも作ろうと思いまして」

「ええ、可能ですよ。それとも自分でなさいますか? 場所はお貸ししますけれど」

「いえ、お願いできますか?」

 そのヒヅキの申し出に問題ないと頷いた女将に、ヒヅキは手間賃は幾らかと尋ねたが、女将は少し考えてひとつ提案をしてきた。

「でしたらひとつ提案なのですが、手間賃の代わりにその肉を半分こちらに頂けませんでしょうか? いえ四割、三割でも頂けましたら有難いのですが」

 ヒヅキが狩ってきたのは、小さなウサギ一羽だけである。そのウサギから取れる肉の量などたかが知れているというのに、女将はそう提案してきた。その顔は何処までも真剣で、冗談を言っている風ではない。

(そこまで食料が乏しいのか。確かに動物はほとんど居なかったからな)

 日帰りとはいえ、今回の狩りの成果がウサギ一羽だけというので推して知るべしというやつかと、ヒヅキは内心で納得する。まぁ、ヒヅキは元々ほとんど食べないので、ウサギ一羽の肉半分でも当分は何とかなるだろう。

 そう思い、もう少し世話になる事だしと考えたヒヅキは、ウサギの肉を半分手間賃代わりに払う旨を告げた。

 それに女将はいたく喜び、時間は少し掛かるが、干し肉にするところまで請け負うと言ってくれた。なんだったら燻製にも出来るがどうするかと提案してきたので、ヒヅキはその提案に乗り、後を女将に任せる。

 それから奥の借りている部屋に戻ろうかとしたヒヅキの背に、女将が「また何か狩った時はお任せ下さい」 と期待するように声を掛けてきたので、ヒヅキは「その時はお願いします」 とだけ返して部屋に戻った。

 今のところ追加で狩りをする予定は無いものの、それでも確実ではない。今日の狩りも本来は予定に無かった事なのだから。

 その時に狩った場合、狩った獲物の処理を請け負ってくれるというのであれば、有難いことだろう。ヒヅキは解体も料理も出来ない訳ではないが、それでもいざやろうとすると結構大変なのだ。

 部屋に戻ったヒヅキは、荷物を寝室の棚の上に置いて、背嚢から着替えや布を数枚取り出す。ウサギを狩って持って帰るまでに血が少し服に付着していた。

 ヒヅキは着替えを手にしたまま部屋の外に出ると、宿屋の裏庭に出る。そこには井戸があり、その近くに丁寧にも宿から延びるようにして屋根が取り付けられた通路が延び、その通路の途中に棚が設置されていて、そこに桶が幾つか用意されていた。

 その棚に着替えや布を置いて桶を2つ取ったヒヅキは、雨の降るなか井戸に近づき水を汲む。2つの桶に水を満たすと、服を脱いで片方の桶の中に放り込んだ。

 せっかくなので残った片方の桶の水を被ると、再度井戸から水を汲んで桶の中を満たす。

 その後は井戸から水を汲んだ後に、桶に移さずに直接水を被って身体を洗う。身体を洗うといっても、持ってきた荒めの布で身体をこする程度だが。

 それでも付着していた血や土や垢などの汚れが落ちていくのが分かる。最後に水を汲んでいた桶で手を洗い、爪の中の汚れを丁寧に落としていく。

 そうして身体を洗い終えると、脱いだ服を水洗いしていく。流石にそれだけで血はあまり落ちはしないが、洗った事には違いあるまい。

 途中で何度か水を変えて洗い終えると、服を絞って桶のあった場所に置く。桶もその後に洗って戻す。

 屋根の下で用意していた布で水気を取って、持ってきた服に着替えた後、脱いだ服を手にヒヅキは部屋に戻った。

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