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テトラ59

 ヒヅキが扉を叩くと、中から声がして村長の娘が顔を出す。

 村長の娘はヒヅキの顔を覚えていたらしく、あらと一瞬驚いた顔を浮かべた。

 ヒヅキは村長の娘に村長が在宅か確認を取った後、話がある事を伝えて中に通してもらう。

 報告するだけなので別に玄関口で娘に伝えればよかったのだが、村長の娘的にはそれは駄目だったらしい。

 家の中に入ると、村長は椅子に腰掛けて何か飲んでいるところだった。甘ったるいにおいが家中に充満しているので、それが原因だろう。

(ここでの食事、というか飲み物と言えば水か例の発酵させた果実か。であれば、これは果実の方か……)

 そう考えたヒヅキは、あんなに苦い果実を発酵させるとこんな甘ったるいにおいを発生させるのかと、内心で少々辟易した。甘い匂いも過ぎれば胸がムカムカするような気持ち悪さがある。

 村長達はよく平気だなと思うも、これも慣れなのだろう。この村ではその発酵させた果実が貴重な栄養源らしいのだから、これに慣れなければ生き残れないという訳だ。

 それを考え、厳しい環境だとヒヅキは思う。自分であればあれは無理だなと、物珍しさがあっても受け付けない心にヒヅキはため息を吐きたくなる。

 そんなヒヅキへと、村長は対面の椅子を勧める。それを確認した村長の娘が傍を離れるのを認識したヒヅキは、嫌な予感を覚えて慌ててこの場でいい事を伝えた。

 何となく村長の娘はヒヅキの分の飲み物を用意しようとしたのだろうと察しながら、ヒヅキはその場で少しの間外に出て村の周辺を見て回る事を伝えた。別に許可は必要ないのだろうが、神事も近いので念の為。

 それに村長は解ったと了承の頷きを返す。ヒヅキは村民ではないので、村長がヒヅキに強制出来る事などほとんどない。これも義務という訳ではないので、そのところを村長も弁えているのだろう。

 その後に神事の準備が予定通りに進んでいる事を伝えられたヒヅキは、頷いた後に礼を言って村長の家を後にした。

 村長の家を出たヒヅキは、そのまま神事の舞台設営をしている場所に移動する。今は気配を隠してはいないようで、女性の気配をそちらで捉えていた。

 舞台設営の現場に到着すると、女性は作業している村人に混ざっているというのに、相変わらず何もしていない。時折相談の様なものは受けているが、それだけだ。なのに、邪魔になっている様子はない。少し不思議な光景だった。

 そんな風にヒヅキが女性を眺めていると、ヒヅキの視線に気づいたのか、それともヒヅキが自分に用事がある事に気がついたのか、女性の方から近寄ってくる。おそらく後者だろう。

 ヒヅキも女性の方に近づき、普通に会話出来る距離まで近づくと両者ともに足を止めた。

 足を止めたところで、ヒヅキは女性に少し外に出てくる旨を伝える。一応一緒に来るかどうか尋ねてみたが、今は舞台設営の方に掛かりきりらしい。

 先程の様子から少々疑問に思ったが、まぁ気にする必要もないかと考え直したヒヅキは、了承して村の出入り口を目指す。女性が付いて来ないという事は、おそらく無事に帰って来れるのだろう。ヒヅキはそう思う事にした。

 村の出入り口に近づくも、ぱっと見今は出入り口周辺には誰も居ない。しかしそのまま出入り口の横に視線を上げれば、そこには3メートルほどの高さの櫓が建っている。背の低い櫓だが、周囲が起伏の乏しい地形なので、これで十分なのだろう。

 その櫓に一人の男が立って外を警戒している。ヒヅキの方へはちらと視線を向けただけで直ぐに外へと視線を戻した。

 ヒヅキも直ぐに顔を正面に戻すと、誰に呼び止められることなく村を出ていく。目指すはとりあえず山の方だろう。

 そんな事を考えつつ、村に来た方角とは反対の方に歩みを進める。

 山は村から離れた場所に見えるが、ヒヅキの足なら直ぐだろう。周囲には村以外には何も無い。その村も、魔法のおかげで廃村のように寂れて見えた。

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