テトラ58
魔法の全容は未だに掴めてはいないが、それでも魔力回路を曲げる癖のおかげで、仮に魔法が暴発したとしても大した被害は出なさそうだ。
だからといって無理をする訳ではないので、変わらず慎重に調べていく。
癖の影響で正確な陣ではないので、意外と調べるのに苦労する。魔力回路が細いうえに思わぬ角度で曲がっていたりするので、油断していると魔力回路を壊してしまいそうだ。
そうして苦労して調べた陣は、結局明かりを灯すだけの陣であった。どうやら楕円形の部分はただの照明らしい。ただし、この先に何も無ければなので、今のところはという但し書きがつくが。
その後も、無駄にぐにゃぐにゃぐにゃぐにゃした長い魔力回路を調べていく。
どんどんと、しかし慎重に調べていった魔力回路の先に、更にもうひとつの陣を発見する。それを調べてみると、相変わらず必要以上に曲がったその魔力回路が描いていたのは、爆発の魔法。
それも何事もなく調べ終わったものの、もしも万全な状態の陣であれば、部屋どころか宿屋が丸ごと吹き飛んでいたであろう威力の陣であった。しかし、数々の曲がった魔力回路の影響で大幅に威力が下がっているので、仮にここで発動しても棚が破壊される程度であろう。
大規模な魔法道具ではなかったのだが、製作者の癖の強い魔法道具であった為に、調べ終わった頃には昨日起床したぐらいの時間になっていた。
ヒヅキは息を吐き出すと、手に持つ魔法道具を起動させて明かりを点灯させてみる。無論、爆発は使わない。
灯った明かりはとても柔らかなもので、ギリギリ文字が読めるかもしれない程度の明るさだ。正直、無いよりはマシ程度でしかないだろう。
その明かりで周囲が見える訳でもないので、手元の確認とか、暗さを紛らわす程度の役割しか思いつかない。それに元々がもっと明るい少し高度な魔法なので、燃費が非常に悪かった。
この魔法道具をヒヅキは何処から持ってきたか覚えていないが、それでもただの照明魔法がヒヅキでもおそらく1、2時間使えるかどうかといった燃費の悪さは相当だろう。おそらく変に陣を曲げた影響で無理に魔法を起動させる分、本来必要な魔力量よりも余計に魔力を消費しているのだと思われる。
魔法の起動を止めたヒヅキは、魔法道具を横に置いてジッと手のひらを見る。手を開いたり閉じたりしてみると、少し倦怠感を覚えた。魔法道具を調べるのに神経と魔力を使用していたといっても、ちょっと魔法道具を起動したにしては結構な消耗だった。
この魔法道具は要らないなと思ったヒヅキだったが、一応爆発の魔法も組み込まれているので、そこら辺に投げ捨てる訳にはいかないだろう。
この爆発の魔法も相当魔力を消耗しそうだが。少なくとも、照明魔法よりは確実に多く魔力が必要だろう。ここが魔族領でなければ捨てても問題なさそうでな気もするぐらいに。
売れもしないだろうしと思いながら、ヒヅキは横に置いた魔法道具を手に取り、背嚢に仕舞う。その後に魔力水を取り出してグビグビと飲んでいく。
もう外は朝なので、これから寝る訳にはいかない。外せない用事がある訳ではないが、昨日思いついた通りにこれから狩りに出向く予定なのだ。まずは村長に許可を取りに行かなければならないので、昨日同様に早めに宿屋を出る。
ついでに女性にも話しておこうと思うが、そちらは舞台設営に方に居るだろう。村長もそちらに向かうのだろうが、女性の場合は作業をしていなかったので声が掛けやすい。
感知魔法で先行して村長の家の中を調べてみれば、昨日と同じ2つの反応。流石に中までは覗かないが、おそらく村長とその娘で間違いないだろう。
そう思い村長の家の前に到着すると、今日はまだ村長が外に出る前だったようで、内側から扉が開く前に扉を叩く事が出来た。




