護衛任務2
翌日、陣を引き払った一行はコント砦に向けての歩みを再開する。
「いい天気だねー!」
歩みを再開して直ぐに近寄ってきたシラユリが、ヒヅキの隣を伸びをしながら歩く。
「そうですね、警戒もしやすいです」
そう言いながらも、ヒヅキは曇りの方がよかったと内心で付け加える。
「相変わらずの真面目君だねー、ヒヅッキーは」
周囲を警戒しているヒヅキを見上げると、シラユリは呆れたように感想を述べる。
「武器にシロッカスさんや人足の方々を守るのが、私たちの任務ですからね」
ヒヅキが依頼内容を復唱すると、シラユリはわざとらしくため息を吐いた。
「ホンットに真面目君だねー」
疲れたような呆れたような微妙な呟きをこぼしつつも、シラユリはヒヅキの隣を歩く。
そのまま暫く歩いていると、ヒヅキの隣からくぅーという可愛らしい音が聞こえてくる。
「お腹空いたー」
シラユリのその呟きが聞こえた訳ではないだろうが、タイミングよく昼休憩の号令が掛かる。
その号令を聞いたシラユリは、下がっていた視線を持ち上げると、嬉々として昼食を配布している場所に駆け出す。ヒヅキの手を引いて。
輸送隊の昼食は、手間と時間の掛かる料理は作らずに、前夜か早朝の御飯時に一緒に用意していたお弁当を配布していた。
シラユリはヒヅキの手を引いて急いで駆けつけたのだが、そこには既に幾つかの列が出来ていた。
しかし、お弁当の配布だけをしている列なので、列は滞ることなく流れていた。
その複数の列のひとつに並んでいたヒヅキとシラユリは、そう待たずにお弁当を受け取った。
「どこで食べようか!」
お弁当を手に上機嫌のシラユリが、ヒヅキを見上げて問い掛ける。
「どこでもいいと思いますが、景色を楽しみながら食べるなら陣の外れがいいと思いますし、語らいながら食べないなら人足の人たちの輪に加わって食べればよいかと」
「そうだなー、ヒヅッキーはどこがいい?」
「私は景色を眺めながらですかね。周囲の警戒も出来ますし」
そのヒヅキの返答に、シラユリは呆れを通り越して感心するような顔をする。
「ホンットにヒヅッキーは真面目君だなー。しょうがないからヒヅッキーの要望通りに景色を見ながら食べようか!ヒヅッキーはついでに警戒でもしてればいいよ!」
それだけ言うと、お弁当を取りに来た時と同じようにヒヅキの手をしっかりと掴んでシラユリはそのまま駆け出した。ヒヅキはそれにバランスを崩すことなくついていく。
人足たちが集まって食べている簡易的な陣から少し離れた場所に、数本の木が一ヵ所に纏まって生えている場所があった。その枝葉を広げた木の下生えの上に、ヒヅキはシラユリと揃って腰を下ろした。
「風が心地好いですね」
さらさらと葉擦れの音を鳴らして通り抜ける風は、移動で火照った身体を程よく冷ましてくれる。
「そだねー。今日はいつも以上に暑いもんねー」
そう言いながらお弁当の蓋を外したシラユリは、待っていたとばかりにパクパクとお弁当の中身を口に放り込んでは、美味しそうにモグモグと口を動かして、次々と嚥下していく。
ヒヅキはお弁当を食べながらも、周囲を警戒する。
単身なら気楽なものだが、護衛という重責に、ヒヅキは少し肩に力が入りすぎているようであった。
「ヒヅッキーはさぁ、やっぱり真面目君だよねー」
もう何度目かになるその言葉をシラユリはヒヅキに投げ掛ける。
「気張るのはいいけどさ、抜ける時に力抜かなきゃ潰れちゃうよ?」
今までのどこか適当な雰囲気のしゃべり方ではなく、先輩として後輩に教え諭すような真面目な口調でシラユリはヒヅキに語りかけた。
「………なんてねー。まぁヒヅッキーはヒヅッキーの好きなようにやればいいさー」
しかし直ぐに真面目な雰囲気を崩すと、一転しておどけたようなしゃべり方になるシラユリ。
それはきっと、柄でもないことを言った彼女なりの照れ隠しだったのだろう。
「そうですね、少し気負いすぎていたのかもしれませんね」
それを理解したヒヅキは、小さく笑って肩の力を抜くと、シラユリに礼を口にする。
「ありがとうございます。シラユリさん」
シラユリはそれを景色を楽しむようにそっぽ向いて聞いていたが、ヒヅキから見える耳の辺りはうっすらと赤くなっていた。