テトラ57
宿屋に戻ると夕方になっていた。まだ外が少し赤くなった程度だが。
小さな村ではあるが、見学しながらのんびりと歩くと結構時間が経つらしい。特に舞台設営の見学は思ったよりも長くしていたようだ。
宿屋に戻った後、魔力水と保存食で夕食を摂る。そろそろ食料の補充をしたいところだが、この村ではそもそも食料がほとんど無い。あっても木の実か、それを発酵させた物ぐらいだろう。
狩りをするにも、この周辺には動物がほとんど居ない。とはいえ全く居ない訳ではないので、探せば何かしら見つかるだろう。あとは苦い木の実が大量に在る程度。
ヒヅキは考えると、明日にでも狩りをしようかなと思う。旅に持っていくなら保存食なので、狩っても通常で食べる以上の手間が必要になる。であれば、行動するなら早い方がいいだろう。一応外に出る許可も取った方がいいだろうし。
(戻れなくなったら困るから、女性にも話しておいた方がいいよな)
村を覆う幻影魔法は、村を廃村のような寂れた感じに見せるモノではあるが、ヒヅキはそれを1度目にしただけで詳しくは知らないので、本当にそれだけの魔法なのかは分からない。もしかしたら姿を隠す魔法も在るかもしれない。そうなっては、ヒヅキが見破るのは少々面倒くさい。
(過去視を使えば問題ないのだろうが)
一時的にとはいえ村の外に出る訳だし、ここまで一緒に来て何かとお世話になったのだから、一応話しておくかとヒヅキは決める。だが、肝心の女性はまだ舞台設営の現場に居るだろうから、また後でだろう。
椅子に腰掛けて魔力水を飲みながら、ちょっと魔法道具でも調べてみようかなと考える。
(室内ではあるが、そこまで複雑な魔法道具でなければ、失敗したとしても問題ないだろう)
そんな事を思いつつ魔力水を飲み終えると、片付けをして寝室に移動する。そこで寝台に腰掛けると、棚の上から背嚢を手に取り、中から魔法道具を取り出す。
取り出した魔法道具は、楕円に棒が付いた形をしていて、一見するとうちわのように見える。だが、柔軟性はない。
大きさは楕円部分が人の手よりも一回り程大きい。棒の部分は親指ほどの太さだ。
材質は分からないが、鉄ほどの硬さはなく、同じ大きさの木よりも軽いかもしれない。それでも、うちわのように扇ぎ続けるには重いだろう。
意匠は何も無く、見た目は土を固めただけのようだ。何の目的なのかはよく解らないが、魔法道具には違いないので他は大した問題ではない。
ヒヅキは棒の部分を掴むと、意識を集中させていく。
魔法道具へと意識が一心に向いたところで、微量の魔力を流して細心の注意を払い魔法道具を調べていく。
その魔法道は、他の魔法道具と比べるとやや魔力回路が細いようであった。それでも魔法道具としては機能しているので、問題はないのだろう。ただ、魔力回路が細い分、他と比べても多くの魔力は流し込まないが。
その為に使用に際しては少し注意が必要かもしれないが、調べるだけであればそんな事は何の問題でもない。
くねくねと曲がりくねった魔力回路を調べていくと、分かれ道に行き当たる。
三方に分かれている道の前で、さてどうしたものかと考えながら魔法の気配を探ってみるも、困った事に三方から魔法の気配が漂ってくる。
もう少し感覚を研ぎ澄ませてから調べてみると、左右の道の先から感じる魔法に少々きな臭い感覚を感じ取ると、ヒヅキは直進することに決めた。
直進すると、また直ぐに曲がりくねった道になる。ぐねぐねぐねぐねと曲がっている道に、今度は何か陣を描いているモノだと察する。ただ、悪いものではないようには感じた。それでも起動させないように注意しなければいけないが。
慎重に進みながら、どんな魔法かを調べていく。全容は中々掴めないけれど、この魔法道具の製作者は少々魔力回路を曲げすぎる癖があるようだ。その為、どうやら陣が崩れて魔法の威力が大分下がってしまっているように思えた。




