テトラ55
ヒヅキが目覚めた時は朝だった。疲れていたのか、いつもより少しだけ遅い。
それでもまだ早朝。外はまだほんのり暗いので、部屋でのんびりとする。もしかしたら気づいていない疲労が蓄積していたのかもしれない。そんな事を思いながら採光用の窓から差し込む光をぼんやりと眺める。
時折光が弱くなるのは、雲でも取っているのだろう。ついでなので神事の後はどうしようかと考えてみるも、目的地はない。女性が神から水晶の欠片の在り処を教えてもらえるかもしれないので、そうしたらそこが次の目的地となるのだろう。
現在世界はどうなっているのか、それについてはあまり気にならない。それはヒヅキにとってはどうでもいい事。世界の崩壊は確定事項なのだから。
魔力水を少しずつ飲みながら、自身の内側に意識を集中してみる。だが、いくら声を掛けてみても応えは返って来ない。あの声の主は長いこと沈黙を保ったままだ。何かあったのだろうか。
ヒヅキは疑問に思うも、応答がないのであればしょうがない。ヒヅキから声の主へと接触する方法など、声を掛ける以外には知らないのだから。
外から射す光が少し強くなったところで、片付けをして準備をする。昨日は神事の準備で既に村長は居なかったので、昨日よりも早めに宿屋を出る。
雲が空の半分ぐらいを覆っている中、宿屋から村長の家まで真っすぐ進む。
感知魔法で先行して村長の家の中を軽く調べてみると、二つの気配。おそらく村長と昨日の娘のモノだろうと思いながら、ヒヅキは村長の家に近づく。
村長の家に到着したところで、ちょうど扉が開いて中から村長が出てきた。
「おや?」
扉を開けたら目の前に誰か居て驚いた顔をした村長だが、相手がヒヅキだと分かると、先程とはまた違った驚きを顔に出す。
ヒヅキはそんなことは気にせず、とりあえず朝の挨拶をしてから用件を伝える。
「おはようございます。神事の準備はどれぐらい進んでいますか?」
いきなりの問いに、村長は一瞬呆けたような表情を浮かべたが、直ぐに理解して表情を戻す。
「おはようございます。神事の方の準備は順調に進んでいます。このまま何事もなくいけば、あと3日もあれば準備は整うかと」
「では、神事はその翌日に?」
「いや、流石に準備を終えた翌日は難しいですね。準備を手伝ってくれた者にも休みを与えたいので、神事は準備を終えた2日後ぐらいになるかと」
「そうでしたか」
「はい。催す時期が決まりましたら必ず宿屋の方に報せますので」
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げると、ヒヅキは村長と別れる。
元々前の話し合いで報せてくれる予定だったが、暇だったのだ。
旅の空の下であれば移動すればいいし、家にいた時は畑を耕すなり何かしら仕事があった。しかし今は、魔法の修練をしたり魔法道具を調べたりと、移動の休憩中にしている事をやるしかない。それはそれで有意義なのだが、せっかくの村だというのにそれでは何だか暇なのだ。
なので、何かないだろうかともう1度村の中を見て歩くヒヅキ。神事の準備というのを見学してもいいかもしれない。
(……しかし、相変わらず人が居ないな)
神事の準備とやらで動いている者も居るようだが、村の中は相変わらず静かなもの。遠くから少し音がするが、そこで神事の準備をしているのだろう。
人口の少ない村だとは事前に聞いていたとはいえ、それにしてはやはり寂れている。
それでも未だに生き残っているのは賞賛に値するのだろう。それと、ここに掛かっている魔法について気にはなる。
(一体誰が何の目的なのか……術者は今でも居るのかな?)
もしかしたら最近誰かが掛けた魔法かもと思うも、村を見て回った感じどうもそんな様子はない。しかし、こんな辺境にとも思うが、逆に国境近くだからかもしれないので、その辺りの話は機会があればをもう少し詳しく女性に訊いてみてもいいだろう。




