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テトラ53

 女性は顎に手を添えて考えると。

「そうだ! 少々お待ちください!」

 そう言って家の中に戻っていく。程なくして出てきた女性の手には、1本の短刀が握られていた。

「名のあるような物では御座いませんが、これをどうぞ!」

 その手に持つ短刀を、そう言って女性はヒヅキに差し出す。

 困ったようにそれを目にした後に女性に視線を戻したヒヅキは、どういう事かと問い掛けようとしたが、それよりも早く、その視線の意図を察した女性が口を開く。

「神事に多大なご尽力を頂いたお礼です! 父もきっとこうしたと思いますから!」

 中々受け取らないヒヅキに、ずいっと押しつけるように短刀を差し出す女性。

 ヒヅキは困りながらも、短刀は必要なのでそれを受け取る。すると、女性は満足そうに笑った。

 礼を言った後、ヒヅキは村長宅から離れる。

 思わぬところで短刀を貰ったが、手に入れば何でもいいので、とりあえず宿に戻ることにした。

 宿に戻ると、部屋で貰った短刀を調べてみる。

 見た目は女性の言う通りに平凡な物。年代を感じさせる艶の消えた朱塗りの鞘に、同色の柄。手が滑って刃に触れないように付いているのか、鍔はとても小さい。

 剣身を露わにしてみると、鈍い輝きを放つ。一応手入れはされていたようで、奇麗なものだ。

 手入れはしていても使用してはいなかったのか、古ぼけたようにくすんでいるだけで欠けはない。刃の部分はやや鈍いが切れない事はないだろう。

(うーん、それでも一応研いでおいた方がいいか?)

 目的としてはただ木に文字を刻むだけなので、何かを切る訳ではない。なので、正直切れ味は別にどうだってよかった。それを言ったら短刀である必要もないのだが、木工用に造られた短刀でも探すべきかもしれない。

(……研ぎは別にいいか)

 先端部分を確認しながら、そう判断する。面倒というのもあるが、木の板に文字を刻む程度には問題なさそうな鋭さは備えていた。

 確認を終えると、机に置いていた背嚢に短刀を仕舞う。

 その後に魔力水を用意して、少しずつ飲んでいく。魔力の消耗はほとんど無いが、それでも身体に染み入るようにホッとする。常温であるので温度の変化はあまり無いのだが、不思議なものであった。

(魔力水だからだろうか?)

 手元の容器に入っている魔力水に目を落としながらそんな疑問を抱くも、それに対する答えは出ない。もっとも、ヒヅキは別に答えを必要とはしていなかったが。

 ゆっくりと魔力水を味わうように飲みながら、外から差し込む光に目を向ける。

 結局、この前の雷雲はほとんど雨を降らせない内に過ぎていったようだ。雷も遠雷だけで、実際に到着したら分厚い雲だけ。拍子抜けと言えば拍子抜けだが、大事にならなかったからいいことなのだろう。

(地下水は減っていないから、干上がっている訳でもないようだし)

 まだ気にする程ではないだろうと思いながら魔力水を飲む。まだ昼頃なので、日は長い。旅をしていた時はずっと移動していたので、こうものんびりした時間が続くのは久しぶりだ。それも一人の時間。

(今頃フォルトゥナは何をしているのか)

 そんなのんびりとした時間を過ごしていると、置いてきたフォルトゥナの事をふと思い出す。フォルトゥナの事だ、今でもあそこで待っている可能性もあるだろう。

(まぁ、どうでもいいか)

 しかし、ヒヅキは済んだ事だと頭からそれを追い出すと、今少しだけボーっと時を過ごすのだった。

 それから少しして、日が傾いてきた頃に久しぶりに過去視の修練を始める。その前に念の為に荷物ごと寝室に移動して、寝台の上に腰を下ろす。これで魔力を使いきっても問題ないだろう。

 それから集中して過去視を使用する。久しぶりではあるが、使い方を忘れているという事はない。

 過去視を使用して室内を見回すと、青白い影が部屋中に現れる。自分の者と思われる青白い影を除くと、あとは同じぐらいの時間軸と思われる影が残った。

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