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テトラ48

「それで、観測者は何か言っていましたか?」

 女性の問いに、ヒヅキは思い出すように目を動かす。流石に少し前の出来事なので、忘れているという事はなかった。

 しかし、思い出してみても特に会話らしい会話をしていない。剣を神事に提供してもいいのか。それを訊きに来ただけのようだったし、それもほとんど一方的に話した後に勝手に納得して何処かに消えた。他には女性が巫女になるという話だったが、それはまだ確定した話ではないであろうし、ヒヅキにとってはどうだっていい話。

 いくら思い出してみても、やはり話らしい話はしていない。むしろ改めて思い出すと、一体何しに来たのだろうかと疑問に思うほどだ。

「特に何も」

 なのでヒヅキは、首を振ってそう告げる。

 しかし女性としては、わざわざ観測者が珍しく姿を現したというのに、何もなかったという方が疑わしいのだろう。それでも、ヒヅキが嘘を言っているとも思えないようで、ヒヅキの返答に考えこんでしまった。

 そんな女性を眺めながら、もう1度思い出してみるも、やはり何も話らしい話はしていない。

 とりあえず女性が納得いくまで待つとして、ヒヅキは採光用の窓に目を向ける。そこから差し込む光は大分強くなってきている。今日もいい天気のようだ。

 そんな事をヒヅキが考えていると、遠くの方でゴロゴロと地を伝って届いたような音が聞こえてくる。

 遠雷だろうか? ヒヅキはそう思いながら、音がしたと思われる方角に顔を向ける。しかしそこには、部屋の壁があるだけ。

 部屋の中からでは外の様子は分からないが、それでも採光用の窓から差し込む光は変わらず明るい。

 これは早めに村長のところに行った方がいいかもしれないな。とヒヅキが考えて女性の方に顔を向けると、女性と目が合った。

「まずは剣や魔鉱石を村長のところに持っていきましょうか」

「そうですね」

 女性もヒヅキと同じ考えだったようで、立ち上がって扉の方に歩いていく。

 ヒヅキは1度寝室に行って剣と背嚢を回収すると、部屋を出た。

 廊下で待っていた女性と合流して宿屋を出ると、ヒヅキは顔を上げてから目を細めて空模様を確認する。

 頭上の空は明るく雲も少ないのだが、視線を遠く向けると、遠方の山奥から覗く雲は分厚く、どんよりとした灰色をしていた。雨を降らすぞと言わんばかりのその雲に、遠雷はあれからだろうかとヒヅキは考えたが、まだまだその雲は遠くにあるので、今の内にさっさと用事を済ませてしまおうと、村長宅に足早に向かう。

 村長宅への道は覚えていたので、女性に先導されなくとも向かうことが出来た。

 程なくして到着した村長宅は、変わらず他の家々と同じような見た目。扉を叩くと、直ぐに村長が出てきた。少し忙しそうなのは、神事の準備のせいだろうか。

 出てきた村長に、神事について知っている女性が話をする。

 女性の話を聞いた村長は、もの凄く嬉しそうに顔を綻ばせた。よほど困っていたのだろう。

 その後にヒヅキの方に身体の向きを変えると、深々と頭を下げて感謝の言葉を述べる。心の底からの感謝の言葉に、本気で困っていたのが窺えた。

 その後に家の中に案内される。家の中は相変わらずではあったが、前回と違い、本やら布やら木材やらと、何か色々とごちゃごちゃとしていた。神事の準備をしていたのだろうが、それにしても散らかり放題で、動線が玄関から奥の部屋まで一人分あるぐらいというのは、流石に散らかしすぎである。

 村長は机の上の物を急いで片づけると、椅子を勧める。机の上に在った神事の資料だと思われる物は適当に足下に置かれた。放り投げないだけ大事に扱っているのだろう。その証拠に、一緒に置いてあった布の塊はポイっと捨てるようにどかされていた。

 ヒヅキ達はそれを見なかったことにして、静かに椅子に座る。大人の対応というやつだろう。村長も何も無かったと言わんばかりに向かい側に腰を下ろすと、ヒヅキ達に対面して改めて頭を下げた。

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