テトラ46
ヒヅキは1度目を瞑り、ゆっくりと開く。
視界には寝る前と変わらない年季を感じさせる天井が広がっている。定期的に天井も掃除しているようだが、それでも長い事そこに在り続けたからか、古さを感じさせる。ボロいという訳ではないので気にはならないが。
やはりどう見ても昨夜と変わらない天井だ。周囲を見回してみても特に変わった様子は無く、外も静かなものだ。
それでも今し方起こった事は夢ではないだろう。そうであればどれだけよかった事か。
シルフィンと名乗った女性から聞いた話は、多少は価値が在るのかもしれないが、ほとんど確認されただけでヒヅキにとっては大して意味はない。それ以上に疑問が増えたので、正直忘れたいところ。
(神との対峙が早まるね。どれだけ準備しても届かないだろうから問題ないが、その前にせめて水晶の欠片ぐらいはすべて集めたいところだな)
結局やること自体に変更はないものの、それでも余命を聞かされたような気分にはなった。
ゆっくりと寝台から降りたヒヅキは、改めて周囲を見回す。しかし、何も変わりはない。剣だって眠る前と変わりはない。それでも念の為にと調べてみるも、やはり変わらなかった。
何だったのかと思いつつ部屋を移動して椅子に腰掛ける。その後に魔力水を取り出して、一緒に出した容器に注いでのんびりと飲んでいく。
採光用の窓に目を向けると、まだ朝になって間もないようで、差し込む光は淡い白色だ。
シルフィンとの会話の時は外の様子など気にも留めなかったが、まだ早い時間のようで、村長は起きていないかもしれない。
(この村自体、朝晩とほとんど活動していないからな)
今のところ、村に来て直ぐに村長宅へと案内された時が1番村人を目にしているので、とても静かな村であった。ヒヅキ的には静かな方がいいのだが、旅の身では補給もままならないほどの静寂は望んでいない。
とりあえず今日は、女性と共に村長の元を訪ねる予定だ。ヒヅキは神事について知識が無いので、ほとんど女性に丸投げである。
それで上手くいくならいいかと思うも、シルフィンの言葉が思い出された。
(巫女ね)
それにどんな意味があるのかは分からないが、それでほぼ確実に成功するというのであれば、良い事のようなそうでもないようなといったところ。それに、何故女性が巫女を務めるだけでほぼ確実に成功するのかも気になるが、女性に尋ねたところで答えてはくれないだろう。
他に知ってそうな相手に心当たりもないので、一旦保留にする。もしかしたら神事が終われば話してくれるかもしれないという思いもあった。
そんな事を考えながらちびちびと魔力水を飲んでいると、扉を叩く音がする。
(ふむ。迎えか?)
感知魔法で扉前に女性の気配を察知して魔力水を一気に飲み干して立ち上がると、そう予想しながら扉に向かい歩いていく。それと同時に、そういえばシルフィンの来訪を女性は察知していたのだろうかと思った。そもそもシルフィンの存在を知っているかどうかだが、それはほぼ間違いなく知っているのだろう。
シルフィンの言っていた観測者という存在の役割は知らないし、女性の立ち位置もぼんやりとしか知らない。それでも女性であれば、観測者の存在を感知する事ぐらいは出来そうに思えた。
扉を開けると女性が立っていたので、もう行くのかとヒヅキが問えば、もう少ししてからでいいでしょうと女性が答える。では何か用かとヒヅキが問えば、少し話をしにと答えたので、他に客が居る訳ではないが立ち話もなんだからとヒヅキはとりあえず部屋の中に入れる事にする。
部屋に通すと、ヒヅキは女性に椅子を勧める。椅子は1脚しかないが、昨日も女性が座っていたので今更だろう。それに一応来客でも在る訳だし。
そうした後、ヒヅキは女性の正面に移動すると、それでどうしたのかと問い掛けた。




