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テトラ44

 翌日。ヒヅキが目を覚ますと、目の前に見知らぬ女性が浮いていた。

 寝台で横になっているヒヅキとまるで鏡写しの様に天井付近で浮いているその女性は、明るさを抑えた薄い金髪で背丈よりも長い髪をしており、それが身体の後ろで広がっている。垂れ下がってこないところ見るに、女性同様に髪も浮いているのだろう。

 ヒヅキを見ている瞳は黄色を混ぜたような緑色で、顔は整い過ぎて逆に気味が悪いほど。肌は驚くほどに白く、背丈はヒヅキと同じぐらいだが、服は着ていない。だが、起伏があるだけで石を削って磨いただけの様に何も無いので、生き物というよりも、そこらの彫像を持ってきて浮かせたような印象を受ける。

 しばらくヒヅキはそんな女性と見つめ合う。

 女性は瞬きひとつしていないようで、よく見ると呼吸もしていないのか胸元が上下もしていない。唯一動いているのは、後ろで僅かに波打つ髪ぐらい。

 ヒヅキは状況が掴めず、女性と見つめ合ったままどうしたものかと思案するも、こんな訳の分からない事態なのだ、何か思い浮かぶはずもない。

 ただ、少し冷静になって女性を観察すると、雰囲気というか魔力の感じというか、ほんの僅かではあるが、何処となくウィンディーネに近しい気がしてくる。

 ヒヅキはどうしようかと思案した後、このままでは無駄に時間を食うだけだと思い、目の前で浮いている女性に話し掛けてみる事にした。

「貴方は何者ですか?」

 困惑しつつも、ヒヅキはしっかりとした口調で問い掛ける。

 しかし、女性は答える気がないのか、はたまた言葉が通じないのか、ヒヅキをジッと見詰めたまま微動だにしない。

 念の為に同じ問いを、今度は声を少し大きくして行ってみたヒヅキだったが、反応は先程と同じでピクリともしない女性に、ヒヅキは動くのかも疑わしく思えてくる。もしかしたら眼前で浮遊している女性は、本当に何処かから持ってきた彫像なのではないか。そんな疑問をヒヅキが抱き始めた時。

『……………………中々に難しい問いをする』

 そんな頭に響くような声が届いた。しかし、女性の口元は動いていないので、遠話のような魔法かもしれない。それどころか、眼前の女性が発した声とは限らないだろう。それでも会話は出来るようだ。

「難しい、ですか?」

 女性の言葉に、ヒヅキはどういう意味かと眉根を寄せる。ヒヅキとしてはそこまで難しい質問をした覚えはないのだが。

『其方は己が何者かを容易く証明出来るというのか? 無論、名を名乗ればいいなどとは言ってくれるな。名は認識札程度の価値はあるが、その程度の価値しかないとも言える。それに、名が唯一無二という訳でもなかろう?』

 その問いに、ヒヅキは困ったように口を閉ざす。別にそこまで哲学的な答えは求めていないのだがと思いながら。

 ヒヅキが求めたのは、名前や所属などの簡単な自己紹介みたいなものだ。しかしそれを、この相手はいやに小難しく捉えたようだ。名乗りたくないが故のごまかしかとも思えたが、声音には真剣さが感じられた。

 なので、もしかしたら世俗に疎い存在なのかもしれないと思うも、答えは分からない。偏屈そうな印象は受けたが。

 さてどうしたものかとヒヅキは思案する。適当な事を言って誤魔化すのは簡単だが、真面目に答えても納得するかは分からない。なので、その問いは無視する事にした。別に相手が誰か分からなければ話も出来ないという訳ではないのだから。

 では次に、何の話をするかだ。相手は少々ひねたような見方をする様なので、質問の仕方は大事だろう。

 とりあえず訊きたい事はと考え、僅かにウィンディーネに近しい事が気になった。これは相手の正体を知る上でも役立つかもしれない。

「貴方は神に創られた存在か?」

 この相手には直接的な言葉で訊いた方がいいと考えたヒヅキは、まずはそう問い掛けてみる。

『是とも否とも言える。少なくとも、この身は其方が言う神とやらが創った身体であろう』

「では、中身は違うと?」

『育んだ環境も神の意思だというのであれば、こちらも是なのかもしれぬが、それでも其方の言う神に創られたというのは否であろう』

 何だか小難しい話を聞いているような気分になってくるも、要はヒヅキが考える神である今代の神が身体は創ったが、内心の意思の方は完全に別口だという事なのだろう。と、ヒヅキはそう解釈する事にした。

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