テトラ43
長い方の剣は、依然として詳細は不明のまま。こちらに関しては、女性の言う通りに時間はあるので焦る必要はない。
二本の剣を手にヒヅキは寝室に移動すると、それを背嚢と一緒の場所に纏めて置く。
荷物を纏めたところで、寝台に腰掛け魔力水を用意する。
魔力水を何杯か飲み終えると、片付けを済ませてヒヅキは就寝する事にした。
(そういえば、あの声も久しく聞いていないな)
そう頻繁に話したわけではないが、それでも少し前は短い間に何度か話をしたものだ。それを思い出し、何だか懐かしく思うと同時に、何かその声の主に尋ねたい事があったような? と、疑問を浮かべる。
しばらく考えてみるが、それが何だったのか思い出せない。何か重要な話だったような、そうでもなかったようなと思いながら目を覚ますと、ヒヅキは上体を起こして背嚢を手に取った。
剣に気をつけながら背嚢を手元に引き寄せると、背嚢の中に手を突っ込み何かを探す。
数秒ほどそうして背嚢の中を探した後に手を出すと、そこには旅の道中でたまに出来事などを記録している板が握られていた。
(えっと、何処かは覚えていないが、多分記録したと思うのだが……)
そう思いながら、指で板をなぞるように確認していく。
出来事などを記録している板といってもそれほど大きい訳ではない。元々は何かの補修の時にでもととっておいた単なる木の板だったので、そもそも何かを書き記すための板ですらないのだが、他に適した物が無かったので、ヒヅキはしょうがなく短刀で記録を刻んでいた。
だが、大きくはないのでつらつらと文字を書き連ねる事など出来はしないので、可能な限り文章を省略し文字さえも簡略化していて一種の暗号の様相さえ呈しているその文字だが、何とかその解読方法は記憶に在るので、その記録を読み解く事は出来ていた。
ただ問題は、そんな状況なのだ、たとえ何かしら質問や疑問を抱いていたとしても、それを書き記しているかというのがある。そんな余裕は板にはないだろう。
そう思いながらも、最近の記録から確認してく。声の主に何かしらの質問があったとすれば、それは最近の出来事だろうから。
「あった。けれど……」
ようやく見つけたそれは、訊きたい事が出来たという事を示すだけで、他には何も無い。やはりと思いながらも、他に何か手掛かりはないかと、ヒヅキはその前後の記録を確認する。
そこに書かれていたのは、創造主という存在とその力。あとは創造主と声の主が何かしら関係があると思われる事が読み解けるぐらい。
(まぁ、元々書く場所が無かったというのもあるが、読まれても問題ないような内容しか書かないようにしていたはずだからな)
象形文字の様な暗号の様な簡略化した文字でそれはほぼ達成出来ているような気もするが、それに加えて、ところどころで文字の配列を意図的に変えたり、文字を反転させたりしているので、より難解になっている。
解読方法を忘れれば書いた本人であるヒヅキでも読めないのだが、その時はその時だろうと割り切っている。本来は忘れてしまっている事なのだから。
ヒヅキは小さく息を吐くと、板を背嚢に戻す。今度からは質問内容は書いていた方がいいかもしれないと思いながら。
背嚢を元の場所に戻すと、ヒヅキは寝台で横になる。硬い寝床だが、地面に直接寝るよりはマシだろう。
そうして横になると、今確認した内容を思い出して、今の自分なら何を訊きたいか考える。しかし、頭の中に靄がかかったような感じがして、上手く考えが浮かんでこない。
そんな状況に、そろそろ自分も限界なのかもしれないなと思いながらも、ヒヅキは軽く頭を振る。記憶を保持する期間が解りやすく減ってきているし、感情の振れも更に狭まった気がする。そんな状況を自覚しながらも、何も感じない自分もまた自覚していた。
そこまで考えたところで、これを考えたところで意味はないと眠りについた。何だか随分と久しぶりにまともに寝る気がしながら。




