テトラ41
「なるほど。それは凄い」
女性の話を聞いて、ヒヅキは納得したとばかりに頷く。それだけ突出した才能である。どれだけの時が流れようとも、これだけ次元の違う武器を造れる者がそうそう現れる訳がない。
ヒヅキが一人納得だと頷いている姿を眺めた後、女性は長い方の剣へと視線を向ける。
「……………………」
その瞳は哀しそうであり、懐かしそうであり、愛おしそうにも見えた。なんとも感慨深そうな瞳だが、ヒヅキは短い方の剣を眺めながら、「これが試作品」 と、こちらはこちらでなにやら複雑そうに呟いていたので、その様子に気づいていない。
ひとしきり短い方の剣を観察し終えたヒヅキは、そのまま視線を長い方の剣へと向ける。試作品という話を聞いたからというのもあるのだろうが、それでも存在の強さが短い方の剣に比べて強いような気がした。
「それでは、あちらの剣には何が組み込まれているのですか?」
元々規格外の性能を有する剣だというのは知っているが、それでもヒヅキは詳しくは知らない。それでも試作品だという短い方の剣よりも性能はずっと上だろう。なので、せっかくだからとそれを問い掛けてみるが。
「それはご自身で確かめてみては? そちらに関しては時間はたっぷりと在る訳ですし」
何処となく悪戯っぽい感じで女性はそう告げる。それにヒヅキは困ったように頭を掻いた後、まぁついでだったしと気を取り直す。
それよりも先に短い方の剣の続きを問うかと考え、ヒヅキは口を開いた。
「そうですか。では、こちらの剣は何が付与されているのでしょうか? 鞘の中に何か魔法が組み込まれているという話でしたが」
「ああそれでしたら、お馴染みの品質保持系の魔法が色々とですね。鞘が壊れないように、劣化しないようにというモノです」
何も珍しくもないご存じのモノですよと言いたげに、少し投げ遣りっぽく告げる女性。しかし、普通の魔法道具ですら珍しいヒヅキにとっては、それは十分興味深い話であった。
女性の話を聞いて、ヒヅキは再度短い方の剣に目を遣り、「へぇ」 と珍しそうに手にしている鞘に納められた剣を動かす。
そんな様子を見た女性は、一瞬呆けたように僅かに目を丸くしたものの、直ぐに何やら面白い物を見る様な目に変わる。まるで進歩した技術を昔の者に見せている様を眺めているような、そんな目。
ヒヅキは知っている魔法道具の方法と異なる技術に余程興味を惹かれたのか、何処となくではあるが目を輝かせて、はしゃいでいる様に見えた。
手の剣を矯めつ眇めつして見たかと思うと、剣を掴んでいる手を動かして遠ざけたり近づけたりしている。その後に鞘の表面を撫でる様にして触れる。表情はまるで学者が研究対象と向き合っている時の様に真剣そのものなのだが、普段のヒヅキを知る者がその様子を見れば、やはり何処か楽しげに見えた事だろう。
しばらくして、ヒヅキは女性の方へ顔を向ける。
「もういいのですか?」
椅子に腰掛け微笑ましそうに眺めていた女性は、顔を向けたヒヅキに優しく問い掛ける。
それに多少の居心地の悪さを感じたのか、ヒヅキは何か言いたげに僅かに口元を歪めた後、諦めたように小さく息を吐き出した。
「はい。十分調べる事が出来ましたから」
そう言って持っていた短い方の剣を机に置くと、んと声を漏らして伸びをする。
「それで、剣や魔鉱石はいつ持っていけばいいのでしょうか?」
女性に問い掛けながら、ヒヅキはちらと採光用の窓へと視線を向ける。そこから差し込んでいる光は、いつの間にやら赤みがかっていた。それも明度が低い。大分集中して見ていたのだろう。
「今日はもう遅いので、明日でいいのでは? その時は私も同行しましょう」
「ありがとうございます。その方が助かります」
まだ魔族の国での礼節や常識というのに大して触れていないヒヅキにとって、女性の存在は心強くはあった。ただやはり同時に、その強さが恐ろしくもあるのだが。




