テトラ38
女性の問いに、ヒヅキは一瞬迷いながらも説明する。
「なるほど。では、神事に参加させてくれとでも言ってみては?」
「ああ、余所者は参加できない神事なのですか?」
その答えに、ヒヅキは確認の問いを行う。観るだけでもと思っていたが、そもそもそれさえ出来ない神事なのかもしれない。しかし、今までそんな事は言っていなかったがと不思議には思ったが。
「いえ、遠巻きに見学ぐらいなら出来ますよ。昔はわざわざ遠方から見学に来ていた人も居たと聞きますし」
「では?」
ならばどういう事かと首を捻る。ヒヅキとしては、遠巻きにでも見学出来れば十分なのだが。
「巫女次第ではありますが、神に何かを問う事も出来るかもしれません。その際に何を問うのかの内容に口出しさせてもらうというのは如何ですか?」
「そんな事が?」
「巫女の素質次第ですがね。そもそも成功するかも怪しいですが、それでも質問は別にしても、近くで観られるのであれば、そちらの方がいいのでは?」
「それはまぁ、確かに」
「であれば、近くで神事を見せてもらうというだけでも十分では? 質の高い剣や魔鉱石の提供であれば、誰も文句は言わないでしょう」
女性の提案に、ヒヅキはふむと腕を組んで考える。質問するのはいいが、それを公衆の面前でというのであれば遠慮したい。だが、神事を近くで観られるというのであれば、観てみたかった。その方がより魔法の様子は確認出来るだろう。
特に欲しいモノが無かったヒヅキは、しばらく考えた後に女性の提案に乗る事にした。しかし、今はそれよりも剣を調べる事の方が優先だろう。神事に提供するというのであれば尚の事急がなければならない。
その事を女性に告げた後、では早速とヒヅキは短い方の剣を手に取った。
「それで、その剣の何を調べたいので?」
「とりあえずは鞘を。剣本体の方は複雑すぎて、今の私では解明出来そうもないので」
「なるほど。ですが、その鞘も大変ですよ?」
「ええ、解っております」
だから調べるのだし、女性の手伝いの申し入れを受け入れたのだ。とはいえ、その女性が一体何が出来るのかをヒヅキは知らない。ヒヅキよりも優秀だからといって、全てがヒヅキ以上にこなせるとは限らない。何事にも得手不得手はつきものだ。
なのでヒヅキは、まず女性に何が出来るのかを尋ねる。自身の能力についての質問なので、答えられる範囲で構わないと付け足して。
「そうですね……その鞘を調べるだけであれば、必要そうな事は一通りは出来ますよ。私は魔力回路だろうと魔法だろうと直接視る事が出来ますので、ここからその剣を眺めただけで大体の事は把握出来ます」
「………………」
気品を感じさせる優雅な微笑みを浮かべながら、女性はとんでもない事を平然と告げる。それはフォルトゥナの持つ魔力を視る事が出来る眼の上位版とでも言えばいいのか。視ただけで対象を丸裸に出来る様なそれは、とんでもなく規格外の能力であった。
あまりにも予想外過ぎて、ヒヅキは言葉に詰まってしまう。もしかしたら、たまに剣やらヒヅキやらをじっと見ていたのは、その為なのかもしれない。そう思うと、何とも気味の悪さを感じるモノだ。
普通であれば、全てを見られているようなその告白を受ければ女性を忌避するのかもしれないが、ヒヅキは元々女性が自分よりも遥か上に居る存在だと認識していたので、その能力の凄さには絶句したが、直ぐにその程度の事は出来そうだと思い直したのだった。
むしろ、であれば手伝いとしては申し分ないと考え、作業を始める事にする。
女性に全てを任せれば楽だし直ぐに終わるのだろうが、女性が言ったように、ヒヅキは女性を完全には信じていないので、ギリギリまでは自分で調べる事にした。それでも無理であれば、最終的に女性に頼るだろうが。




