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テトラ30

 無事に商談が成立すると、一も二もなく村長は仮面を手にする。

 今すぐにでも仮面に頬擦りしそうなほど恍惚とした表情で仮面に見入った後、村長は大事そうにその仮面を机の上に置き、ヒヅキへと頭が机に着きそうなほど深く頭を下げた。

「貴重な仮面をお譲りいただき、誠に感謝いたします。これで村人の心も軽くなるでしょう」

 突然真摯な言葉でそう告げられて、ヒヅキはどう返事をすればいいのか困ってしまう。

 ヒヅキとしてはこれは商談であったし、正当な対価でもって取引しただけだ。まぁ、価格が正当かどうかはヒヅキには判断出来なかったが、女性の言を信じるのであれば、事情があったにせよ高値で買い取ってもらえた訳で、ヒヅキとしてはそれだけでしかなかった。他にも、ヒヅキにとっては仮面は不用品であったのも関係しているが。

 困ったように頬を掻いたヒヅキは、未だに頭を下げている村長に何か言った方がいいのだろうかと考え、口を開く。

「それは良かったです」

 とはいえ、特に何か思い浮かぶものでもなかったので、そう無難に声を掛けただけだが。

 それでも十分だったようで、頭を上げた村長は、肩の荷が下りたような笑みを浮かべた。

 それから村の現状について少し話を聞いた後、宿の事や神事について話を聞く。

 宿の方は村唯一の宿屋を紹介され、仮面のお礼にと滞在中の宿泊代は要らないと言われたが、それでは仮面を売った意味が無いし、お金の使い道など他には大してないので、それについてヒヅキは丁重にお断りした。それになにより、いくら仮面の事が村にとって救いになったとしても、これ以上の施しは借りになる。村長にそんな思惑が無かったとしても、無闇に借りをつくるのは避けたかった。

 それに対して村長は不服そうにしてはいたが、1時間ほど説得して何とか宿代は支払うという本来の姿で利用できるようになった。

 神事に関しては、準備があるので今すぐという訳にはいかないらしいが、それでも村にとっても重要な催しなので、出来るだけ早く催せるようにするらしい。

 そんな話をしている内に夕暮れ時になってしまっていた。村長の家には朝に訪ねたので、随分と商談や話し合いに集中していたようだ。

 外に出た後、仮面が手に入って機嫌がいい村長が宿屋まで案内すると言い出したが、宿屋までの道順は女性が知っていたので、こちらも丁重にお断りした。しかしそもそもの話、大きな村でもないので、たとえ宿屋の場所を知らなかったとしても、宿屋の場所を誰かに訊けば直ぐに判った事だろう。

 そんな事を思いながらも、女性に案内されて村の中を進む。

 現在は黄昏時。もうすぐ完全に日が暮れてしまう頃なので、ちらほら外に出ていた魔族が急ぎ足で家へと向かう姿が見受けられる。

 女性は薄暗い中でも迷うことなく進んでいき、一軒の平屋の前で足を止める。見た目は他と変わらないが、少しだけ横に広い造りのようだ。

 扉には鍵は掛かっておらず、女性が押すとすんなりと開いた。取っ手のようなモノは見当たらないので、女性がしたように押して開く扉なのだろう。

 女性の後に続いて建物の中に入ったヒヅキは、中の様子に目を向ける。

 扉を潜って直ぐは横に広い空間で、左右には長椅子や大きな植木鉢に入った植物が置かれている。正面には台が置かれ、台越しに椅子が1脚置かれているのが確認出来た。

 そんな台を挟むように左右に扉があり、台の奥には暖簾の掛かった場所があった。

 ヒヅキが建物内の様子を観察していると、その暖簾の奥から恰幅のいい女性が出てくる。見た目は人間でいえば四十代前後といったその女性は、ヒヅキ達を見てにこりと親しみを込めた笑みを浮かべる。

「いらっしゃい。宿泊かい?」

 優しげな声音で尋ねられ、ヒヅキの前に立っていた女性は頷きながら慣れた様子で台に近づく。

「滞在期間はまだ決めてませんが、とりあえず10日分を……」

 そこまで口にして、女性はヒヅキの方へと振り返る。

「1部屋にしますか? 2部屋にしますか?」

 そう訊いてきたので、ヒヅキは直ぐに「2部屋で」 と返した。そちらの方が自分が払う料金が解りやすい。

 女性はそれに軽く顎を引くと、台の奥に居る女性に2部屋を10日分借りる旨を告げてお代を払う。その時に代金をしっかりと確認したヒヅキは、問題なさそうだなと、村長から受け取った小袋の中身を思い出して内心で頷いた。

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