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テトラ29

 奥から戻ってきた村長は、布袋を手に戻ってくる。大きさはそれ程ではないが、布袋は重そうに膨らんでいる。

「これで足りますでしょうか?」

 元の席に戻った村長は、手にしていた布袋を両手の上に載せて、不安げにヒヅキの方へと差し出す。

 それを受け取ったヒヅキは、布袋の中身を机の上に出して確認する。

 布袋の中には、何種類かの硬貨が入っていた。大きさも色も様々だが、小さい布袋に入っていただけに量自体はそれ程でもない。

 形はほとんどが円形で、全体的に少し歪だ。あとは小さな金の粒が何粒も入っていた。だが、ヒヅキは残念ながらまだ魔族の国の物価を知らないので、この硬貨の価値を正確には分からない。使用されている金属で何となく把握するしかないが、これも各金属の産出量によっては国で価値も異なってくるので、確実とは言えない。何よりも。

(しまったな。そういえば、この国の通貨を女性に見せてもらっていなかったな)

 女性が魔族の国の通貨を持っている事は聞いていたが、その際に通貨を見せてもらう事をすっかり忘れていたヒヅキは、内心で頭を抱えたくなった。

 おかげでヒヅキには目の前の通貨が本物かどうかを判断する材料が無い。あまりの無様な失態に、頭痛がしてきたような気もしてくる。

 それでも隣に女性が座っているので、まだ何とかなるだろう。本当に同席してもらえてよかったと心底思いながらも、ヒヅキはそれをおくびにも出さずに、机の上に出した硬貨を種類ごとに分けながら、枚数を数えていく。

 無表情ながらもそのしっかりした手つきに、事情を知らない者は誰もヒヅキが通貨の価値どころか実物も知らないなどとは夢にも思わないだろう。

 そんなヒヅキの手元を隣からしっかりと確認していた女性は、ヒヅキの事情について知っているので、ヒヅキが硬貨の選別を終えたところで村長に声を掛ける。

「こんなに頂いても良いのですか?」

 女性の言葉に、ヒヅキは手元の硬貨が本物で、尚且つ相場よりも多い事を知った。というよりも、事情を知っているのでわざわざ女性が伝えたのだろう。なにせ、

「ええ。こんな貴重な仮面、もう目にする事も出来ないと思っていましたから」

「そうでしたか。そういえば、スキアも確認されたのでしたね。あれから新たに目撃されたのですか?」

 何故相場よりも高いのか、女性は最初から理解している口振りで村長と会話を始めたのだから。それでいながら、それとなくヒヅキに説明してもいる。

 神事は神から神託を受ける為のものだと女性は話していた。それも予言の様なものだ。それに必要なのがヒヅキが持ってきた仮面なのだが、その神事の性質と女性が思い出したように付け加えた話題から察するに、つまりは村長も含めた村人全員が不安がっているので、どうしてもその本当の神事を執り行いたいという事なのだろう。

 そして、それに欠かせない仮面はその分価値が高まっているので、相場よりも高く買い取ろうとしていると女性は説明したいのだと、ヒヅキは察した。

「いえ。スキアの目撃情報はあれっきりですが、それでも外からの訪問者はまるっきりで」

「各地がスキアに襲撃されているので、国内とはいえ商人達も迂闊に出歩けませんからね。物資の方は大丈夫ですか? もう長いこと商人も来ていないでしょうが」

「ええ。この周辺にはあの果実が大量に在りますので、それで何とか。しかし腹にはあまり溜まらないので、どうにか残った皮や実など搾りかすを食べられないかと試行錯誤している段階です。上手く入っていませんが」

 ははっと村長は力なく笑う。余程不味いのだろう。そう思い、ヒヅキは少し前に食べた果実を思い出して納得した。

(それにしても、内情をよく喋る)

 知られても困らないのか、余程女性を信頼しているのか。話の内容からもう長い事物資の供給がなされていない様子なので、諦めているのかもしれない。

「かといって、他に行く当てもありませんから」

 そう言った村長は酷く老けてみえて、かなりの疲労が窺えた。

「現在は都もスキアと交戦中で、各地に目を配る余裕はないようでしたからね」

「そうでしたか」

 諦めたように笑う村長だが、ヒヅキ達に出来る事などない。精々が仮面を売るぐらいだろう。

「では、この額でよろしいですか?」

 ヒヅキの方に顔を向けた女性は、確認の為にそう問い掛ける。相場や価値についてよく分からないので、ヒヅキは女性に任せて頷きを返す。

「では、そういう事で」

 女性が締めるようにそう言って微笑むと、村長が頷き商談が成立した。

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