テトラ28
村人の案内で村長の家に向かう。程なくして到着した村長の家は、入ってきた出入り口とは反対側に建っていた。
見た目は他の家と大して変わらず、木造の平屋。外観に特に目立った物も無いので、知らなければここが村長の家だとは思わないだろう。
案内してきた村人の一人が村長の家の扉を叩く。その後に声を出して名乗った後、扉越しに来訪の理由を告げる。
しばらくして扉が開くと、中から死人の様に青白い肌の男性が姿を現す。ヒョロヒョロとしていて線が細く、一見して体調が悪そうだが、眼光は鋭い。
魔族の中には青い肌の者も居るというので、見た目が多少血色が悪いぐらいはおかしくはないのだろう。それ以外は他の村人と大差なく、感じられる魔力量も周囲の村人よりもやや多いかな? と思う程度。
男性は家の外の様子を確認した後、家の外に出てきて女性に声を掛ける。
「お久しぶりですね。今日はどうされましたか?」
見た目に反して力強い声でそう問い掛けた後、男性は一瞬ヒヅキの方へと視線を向ける。眼光が鋭いので睨まれたような感じだが、多分ただ視線を向けただけだろう。
「旅の途中でして、少し補給をと」
「ああ、そういえば国内を回っているのでしたね。順調ですか?」
「ええ。粗方回れたかと」
「そうでしたか。それで、何をご入用ですか? ここもそこまで物資が豊富という訳ではないので」
「ええ、それは存じております。今回は買い取ってもらいたいものがありまして」
「買い取ってもらいたいものですか?」
女性の言葉に、男性は怪訝な表情を浮かべる。国内を回っているというのに、わざわざこんな片田舎まで物を売りに来る事を不思議に思ったのだろう。
「ええ。ですがその前に、中に入れていただいても? そこで紹介などをしたいのですが」
視線だけで周囲を見回した女性に、男性はああといった感じの表情を浮かべると、「どうぞ」 と家の中へと招き入れる。
ヒヅキと女性は、男性に招かれるままに家の中に入る。ここまで案内してくれた村人達は、それを見て来た道を戻っていった。
家の中は質素なもので、木製の机と椅子が在るだけで他には寝床なのか入れ物をした布が隅の方に置かれているだけ。部屋は他に1部屋奥に確認出来るが、それだけだ。
男性以外には誰も住んでいないようで、寝床も1つだけ。ただ机は四人掛けの大きさで、椅子も四脚あった。来客用なのかもしれない。
家の中に入った後、男性の勧めでヒヅキと女性は椅子に腰掛ける。その間に男性は奥に在った扉の先に行く。
程なくして戻ってくると、お茶の入った湯呑を持ってきた。奥の部屋は台所なのかもしれない。
それをそれぞれの前に置くと、男性は対面に腰掛けた。
「さて、それでまずはこちらの方を紹介して頂いても?」
男性はヒヅキの方に手のひらを向ける。それに女性が頷くと、簡単な紹介を行う。その後軽く挨拶をする。やはり男性は村長で間違いなかったようだ。
挨拶を終えると、本題に入る。女性が先程の続きを話した後、ヒヅキは背嚢から仮面を取り出して机の上に置く。
それを見た瞬間、先程まで半信半疑で話を聞いていた村長が、大きく目を見開いて仮面を凝視した。
「これは……本当に!?」
「御覧になったままですよ」
信じられないといった感じで顔を上げた村長に、女性は微笑んで言葉を返す。それを受けてもう1度視線を仮面に戻した村長は、勢いよく顔を上げてヒヅキの方に視線を向けた。
「これを本当に売っていただけるのですか?」
「はい」
「おぉ!」
ヒヅキの頷きに、村長は感動したような声を漏らす。
それから少しして、仮面に触れたそうにしていた村長は思い出したように顔を上げて、「御代!」 と言葉にして急いで奥の扉へと駆けていく。それは扉も半開きのままにするほどの慌てようだった。




